第74話 カッコ悪い男にはなりたくない
長老達の元へ向かう中、幾人ものエルフ達とすれ違うが、皆俺達やフィーナの誹謗を口にしていた。
もう何を言われようが無視しているが、一つだけ気づいたことがあった。
昨日俺達があったエルフってジグベルトだけだよな。
それなのに人族がエルフの里にいることが広まっている。ということは、少なくとも俺達を陥れようとしているのは、ジグベルトで間違いない。
本当陰湿な奴だ。そんな奴がフィーナと婚約を結びたいとか片腹痛いわ。
何かやり返してやりたい所だが、相手は公爵家だ。下手なことをしてフィーナに迷惑をかける訳にはいかない。やはりここは傾国の姫と貶められたフィーナがレーベンの実を手に入れることが、一番の仕返しになるのか。
俺は何か良い方法がないか考えていると、一つの集団が俺達に迫ってきた。
「噂をすればなんとやらというやつだな」
ジグベルトが数人の仲間を連れて俺達の前に立ち塞がる。
その表情は俺達が誹謗されているのを見て、悦に入っているように見えた。
「嫌われたものだな。しかし人族だから諦めるしかないだろう。このエルフの里にいること自体がおかしいのだ。早くここから出ていけ」
「ここからじゃなくてフィーナの家からじゃないのか?」
「貴様!」
ジグベルトは顔を真っ赤にして激昂している。
どうやら図星のようだ。
人族が元々嫌いということもあるが、男である俺がフィーナの家に泊まることが不愉快なのだろう。
「男の嫉妬程醜いものはないぞ」
「うるさい! 貴様ごときがフィーナの側にいること自体許されぬことだ!」
どうやら今の反応から、ジグベルトがフィーナのことを好きなのは間違いないな。
「もしかしてフィーナの悪い噂を率先して流しているのはお前なんじゃないか?」
「そ、そんなことはない!」
今のどもった言い方で認めているようなものだけどな。
「そしてフィーナが弱った所を狙って、婚約に持ち込もうとしているだろ?」
「それは本当なの? 本当だったら気持ち悪いわ」
「ぐっ!」
ジグベルトはフィーナに気持ち悪いと言われて、何も言えずにいる。
「とにかくあなたに構っている暇はないの。横を通らせてもらうわ」
フィーナは言葉通りジグベルトの横を通り抜けて、長老達の所へ向かう。
ジグベルトはさっきのフィーナの言葉がショックなのか俯いたままだ。
俺もフィーナの後に続こうとするが、その前にやっておきたいことがある。
「ノア」
俺はノアを抱きかかえ、あることをお願いする。
そしてそのまま
ジグベルトと別れてしばらく歩いた頃。
俺達は一つの屋敷に到着し中へと案内される。そして奥の部屋に通されると、そこには五人の老年なエルフがいた。
「最長老様と四人の長老の方々だ。失礼のないように」
事前にフィーナに聞いていたが、エルフの国の決定権はこの五人にあるようだ。何かを決める時、この五人で決を取るらしい。つまりは神剣の元に行くには、三人以上が賛成を示さなくてはならない。
そして王族は公務を行うことが仕事であり、この決定権に参加することは出来ないとのことだ。おそらくだけど、日本の皇族と同じ役割なのだろう。
「長老の方々、ここにいる者達は
長老達は最長老の元へと集まり、なにやら話をし始める。そして離れると結果を口にした。
「四対一でフィーナ王女の願いは否決された」
四対一? 一応一人だけこちらに賛成してくれた人がいたのか。
「ではこれ以上用がなければ、部屋の外へと退出してください」
残念だけどここは引くしかないだろう。駄々をこねてこれ以上人族の印象を悪くすることは避けたい。
そして俺達は部屋を出るためにドアへと向かう。
「そこの青年、待ちなさい」
突然背後から呼び止められたので、足を止める。
すると最長老と呼ばれていた人がこちらへと向かってきた。
「さ、最長老が歩いた!」
「バカな! この千年間、立ち上がることさえしなかった最長老が!」
えっ? えっ? 千年ぶり? 嘘でしょ。その間トイレとかどうしてたの?
俺は何故か下らない疑問が真っ先に頭に思い浮かんでしまった。
「面白い生き物を連れている」
「そ、そうですか?」
最長老はマシロとノアに視線を向ける。
もしかして白虎とフェンリルのことを知っているのか? 長い間生きたエルフなら、二つの種族のことを知っていてもおかしくないのかな?
「なるほど⋯⋯悪い人間ではなさそうだ」
それだけ言うと最長老は元の席に戻っていった。
いったいなんだったんだ? 最長老の行動にどんな意味があったのか理解出来なかった。
そして俺達は、神剣を抜くための当てがなくなったため、一度フィーナの家に戻ることにした。
長老達の元から帰ってきた後。
「ユートさん、ユートさん」
そして朝日が世界を照らし始める前、俺は声が聞こえてきたため、目を開ける。
すると耳元で囁くノアの姿が見えた。
いくら早起きのノアでも、この時間に起きているのはおかしい。これは何かあったと見るべきか。
「どうしたノア?」
「例の人物が家の前にいます。もしかして何かするつもりなのかもしれません」
突然のノアの言葉に、俺の意識は一気に覚醒するのであった。
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