第57話 束の間の休息
ギアベルを倒した後。俺は関所の一室にいた。
本来ならハメードの件を確認したら王都に戻るつもりだった。しかしギアベルの様子を見守るため、ここに残ることにしたのだ。
ちなみにギアベルの事情聴取はレッケさんと王国の兵士、帝国の兵士が行っている。大使のお三方も結末を見届けるため、この場に残っているようだ。
俺はギアベルが万が一逃げた時のために、別室に待機している。ギアベルは俺がいると感情的になることが予想出来たため、顔を合わせないようにしていた。
そして十日間の長い取り調べの結果、ギアベルはクーデターには関わっておらず、ムーンガーデン王国の売買についても詳しくは知らないということで、罪には問われないということになった。だけど皇族として軽率な行動であると判断され、皇帝陛下から何かしらの罰が与えられるとのことだ。
こうしてクーデターから始まったトラブルは終わりを遂げることになったため、後はこの異世界を謳歌しながらスローライフの生活を送るだけだ。
しかし世の中は自分の思いどおりに行かないものだ。
「ユートよ! よくやってくれた!」
ローレリアにある城に戻ると、国王陛下と王妃様が出迎えてくれた。
「国王陛下、全てはユートの予想通りの結果となりました!」
レッケさんが興奮気味に報告をしている。
「さすがだな。これはさらに褒美を与えねばなるまい」
「ここはやはり元帥の地位が相応しいかと!」
「いや、ちょっと落ち着いて下さい」
「あなた、何を言ってるの。ユートくんには王になってもらうのよ」
「マジで落ち着いて下さい。お願いですから」
「だがこれ程の功績を残した者に何もしない訳にはいかぬ」
このままだととんでもないことを押しつけられそうだぞ。何か良い策が思い浮かべばいいけど⋯⋯ダメだ。何も思い浮かばない。こうなったらとりあえず時間稼ぎをするしかないな。
「国王陛下、 国民は今、クーデターが起きたことで生活が苦しくなっています。私の褒賞よりまずは国民の支援が先ではないでしょうか?」
「むう⋯⋯確かにユートの言うとおりだな。多額の税金を回収され、クーデターにより治安が悪くなったことで、盗賊達の数も増えた。国民はかつてない程の苦しみを味わっている」
「私一人のことより、まずは国を⋯⋯国民を救うことを優先して下さい」
「わかった。済まないな。だが必ずユートには相応の褒賞を渡すことを約束する」
「わかりました」
これで考える時間が出来た。だけど変な褒賞をもらうくらいなら、国を出ることも考えないとな。だけどこの時、リズのことが脳裏に過った。
国を出るということは王女であるリズとは別れるということだ。
リズはちょっと世間知らずな所もあるけど優しくて良い子だ。出来ればこれからも側にいたいなと思う。
頼むから国王陛下は変な判断をしないでくれよ。
俺は褒賞の内容を気にしながら、用意してくれた部屋へと戻るのであった。
「ふう⋯⋯」
俺は部屋に入ると、ベッドにダイブしため息をつく。
「どうしたのですか? 疲れましたか?」
「疲れていないように見えるか?」
「見えませんね」
マシロがベッドに乗り話しかけてきた。
「ユートさんはすごいですね。もしかしていつもこのようなトラブルを解決しているんですか?」
「いやいや、こんなことが毎回あったら身体が持たないよ」
ノアもベッドに乗り、語りかけてくる。
「それに俺の力だけじゃないさ。マシロもノアもよくやってくれた。ありがとう」
「べ、別にあなたのためにやった訳じゃありません」
「僕はユートさんの力になれればと思ってがんばりました」
マシロとノアは正反対のことを言っている。だがそんな話も今の俺にはよく聞こえてなかった。
「とにかく疲れたよ」
「私もです」
「僕も」
「このまま寝る⋯⋯か⋯⋯」
目を閉じるとすぐに睡魔が襲ってきた。そしてマシロとノアも疲れていたのか、そのまま眠ってしまったようだ。
こうして俺はもふもふの二人に囲まれながら、気持ちよく夢の世界に行くことが出来た。しかし三日後にまたトラブルの元を拾ってしまうとは、今の俺は知るよしもなかった。
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