第22話 我慢は身体に毒
「ひゃう」
ジャンプしたことで驚いたのか、リズは悲鳴のような声を上げる。そして振り落とされないように力強く抱きしめてきた。
同年代の女の子に抱きしめられらると何だかドキドキしてしまうな。
だけど今は壁を無事に飛び越えることに集中しないと。
俺の手の中にはリズがいるため、さっきのマシロのようにギリギリ飛び越えるようではダメだ。
空中で上手く姿勢を取りながら壁の頂上を越えて行く。
かなり余裕を持ってジャンプしたせいか、壁を楽々と越えることが出来た。
そしてムーンガーデン王国側に自由落下で落ちていく。
「こ、怖いです⋯⋯ユート様⋯⋯」
リズは変化した重力に恐怖したのか目を閉じて、さらに強く抱きしめてきた。
「絶対に離さないから」
俺はリズを安心させるために、優しく声をかける。
そしてなるべく衝撃を与えないように着地した。俺達は兵士に見つからず、ムーンガーデン王国に入ることに成功する。
「もう大丈夫だよ」
まだ目を閉じて抱きついているリズに声をかける。
「は、はい⋯⋯ですが申し訳ありませんが、もう少しこのままでもいいですか?」
「それはいいけど」
「怖くてすぐに立てそうにないです」
「ご、ごめん!」
「壁を飛び越えるなら初めから教えて欲しかったです」
確かにそうだ。突然空高く飛び上がり、急に落下したら怖いのは当たり前だ。リズへの配慮が足りなかったことに猛省する。
「それなら罰としてそのまま運んでもらったらどうですか?」
「そうですね。ここにいたら見つかってしまうかもしれません」
「マシロとノアの言うとおり、もしリズがそれで良ければ」
本当なら地面に降ろして、ここでリズの状態がよくなるのを待ちたい所だが、ノアの指摘どおりいつ兵士達が来るかわからない。でもリズが嫌なら他の方法を⋯⋯
「ではそのようにお願いします」
しかし俺の心配は杞憂に終わった。リズは笑みを浮かべて了承してくれたのだ。
「私、お姫様抱っこに憧れていて⋯⋯それにユート様にして頂けるのならとても嬉しいです」
「そうなの」
「これも女神様のお導きですね」
本当に嬉しそうだ。お姫様抱っこに憧れるなんてリズも普通の女の子なんだな。
「ほら、行きますよ」
「早くここから離れましょう」
そして俺はマシロとノアの後に続いてムーンガーデン王国の王城がある、ローレリアへと向かうのだった。
国境を越えてから三十分程経った頃。リズの体調が良くなったので、地面に降ろすことにした。
「申し訳ありません。その⋯⋯重かったですね」
「いや、むしろ軽すぎて心配したくらいだ。リズはもっと食べた方がいい」
昨日裸を見てしまったのでわかっていたが、想像以上にリズは軽かった。そしてこれまで旅をして気づいたのだが、リズは食事の量をあまり取っていなかった。
初めは両親や国民のことが心配で食欲がないのかと思ったけど、食事が終わった後にお腹を抑えたり、まだ残っている食べ物をチラチラと見ている時があったので、おそらく我慢していたのだろう。そしてリズには腹ペコハンターという称号があったし、何に遠慮をしているのかわからないけど、本当は食べるのが大好きだと思う。
そのため、ちょうどいい機会なので、もっと食べた方がいいと口にしてみたのだ。
「そ、そうですか。わかりました。もう少し頑張って食べます」
食糧がない時は困るけど、そうじゃないならお腹一杯食べて欲しい。もちろんリズの食の欲求を満たして欲しいということもあるが、今は何が起きるかわからない状態だ。いざという時にお腹が空いて力が出ないのも困るからな。
そして二時間程歩き、朝日が大地を照らし始めた頃。俺達は朝食を食べることにした。
今日の朝御飯のメニューは、肉野菜炒めとスープだ。
いつもは三人前しか作らないのだが、リズのことを考えて今日は五人前用意してみた。
万が一リズが食べなかったとしても、異空間に保存して置けばいいだけだからな。
「ユート様、ふと疑問に思ったことを聞いてもよろしいでしょうか?」
「ん? 何?」
「食料品を持っていなかったように見えましたけど、これはどこから調達したのでしょうか?」
「ああ⋯⋯そういえばリズには言ってなかったね。俺はこことは違う空間⋯⋯え~と異空間に物を置いて運ぶことが出来るんだ」
「異空間ですか? それはどういうことでしょうか?」
いきなり異空間なんて言ってもわからないよな。ここは実際に見せた方が早いな。
「こんな感じだよ」
俺は異空間から以前買った大量の魚や肉、野菜をリズに見せる。
「こ、このようなことが⋯⋯さすがユート様。女神様が選ばれたお方です」
リズは地面に膝をつき、頭を下げてきた。
そして何故かマシロが俺の横で、偉そうに胸を張っている。
「ふふ⋯⋯ようやく私の凄さがわかったようね。もっと敬いなさい。そして新鮮な魚を献上しなさい」
「いや、マシロは関係ないよな」
俺は思わずツッコミを入れてしまうが、マシロは聞く耳を持たず、悦に入っているようだ。
「だから食べ物に関しては心配しないで大丈夫だよ」
「ほ、本当ですか!」
突然リズが俺に詰めよってきた。
「あっ、その⋯⋯申し訳ありません」
そしてすぐに自分の行動が恥ずかしかったのか、顔を赤くして謝罪してきた。
「私⋯⋯他の方達より
「そうなんだ。だけどさっきも見せたように食糧はたくさんあるから我慢しなくていいよ」
「はい!」
「それじゃあ食べようか」
そして食事を取り始めたのだが、俺は予想以上のリズの食欲に驚きを隠せないのであった。
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