4 帰ってきました!
「まぁ! アレキサンドラッ! 帰ってきてしまったのね?」
「ひょっとすると、帰ってきてしまうのではないかと思ったが、まさか本当に帰ってきてしまうとは!」
私が帰宅した知らせを受けて、母と父が慌てた様子でエントランスに駆けつけてきた。
太ることが出来ない体質のノルン家、当然両親もスレンダーな体型だ。
うん、うん。やはり、こうでなければ。
「はい、そうです。殿下から、お前のような醜い女とダンスを踊るはずがない。相手はシェリル伯爵令嬢と決めているから、さっさと消え失せろと言われましたので喜んで帰ってきました」
ありのままの事実をスラスラ述べる私。
その言葉に青ざめる父と母。
「な、何だと……? 醜い女と言われたのか?」
なんて、可哀想な……ノルン家も私の家系も太ることが出来ない体質だったせいで……あなたまで醜女呼ばわりされてしまうなんて」
そして、母はあろうことかハンカチで涙を吹く。
え? もしかして泣いてる?
「あ、あの。お母様、もしかして泣いていらっしゃるのですか……?」
恐る恐る尋ねると、コクコク頷く母。
「ええ、そうよ。私も若い頃、痩せていたばかりに周囲から醜女とか、骸骨人間、見るに耐えないから視界から消えろ……等、色々散々なことを言われてきたわ」
「うわぁ……それは、あまりにもお気の毒ですね……」
「けれど私と同じように痩せぎすな男性と出会ったの。それが……あなたよ」
「アンヌ……」
父が母、アンヌの肩を抱き寄せる。
「あなたにも、お父様のような存在の方が現れてくれれば良かったのだけど……」
「そうだな……だが我々が公爵家であるばかりに王太子の婚約者に選ばれてしまったからな……。殿下はお前のことが大嫌いで仕方ないのに、国王からの命令で嫌々婚約させられてしまったのだから……気の毒なことだ」
父がため息をつく。 え? それって……もしかして殿下に同情している?
「別に殿下から好かれたいとは、少しも思っていないでわたしは構いませんけど? それよりも着替えてきたいので、部屋に戻らせて下さい」
こんな苦しいドレス、いつまでも着ていたくない。
「ええ、そうね。色々あって疲れているでしょうから、部屋に戻って休むといいわ。夕食の席で、会いましょう?」
「アレキサンドラ、また後でな」
「はい、お母様。お父様」
2人に会釈すると、私は部屋へ向かった――
****
「ふ〜……やっと、スッキリした!」
鬱陶しいドレスを脱ぎ捨て、ブラウスにスカート姿になった私は改めて鏡の前に立ってみた。
白い肌に、緑の大きな瞳。波打つダークブロンドの髪は背中まで届いている。
鏡の中に映るのは、目も覚めるようなゴージャスな美女が映っている。
「物凄い美人じゃない! あのデブ男、本当に頭がおかしいんじゃないの? いや、違うか。そもそもこの世界の美の基準がおかしいのよ。あんな白豚男に、私は勿体なさすぎるわ!」
あんな男と結婚なんて、冗談じゃない。
互いに嫌悪感しか抱いていない相手と結婚しなければならないなんて。
いや、そもそもあんなデブに見下される事自体、腹立たしい。
むしゃくしゃした気分でベッドにゴロリと横たわり……そのまま眠ってしまった――
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