解消

「イライラの解消方法を教えてください」


その男は突然玄関先でそう言った。


「イライラの解消方法…深呼吸でもしてみたらどうです?」


私は突然の訪問者の謎の質問に戸惑いながらもそう答えた。


「そんなんじゃ解決しない程に私はもうどうにかなってしまったようなんです。最近は仕事が忙しく夜も眠れず、朝から頭痛がしていて、街中で流れるBGM、小鳥のさえずり、さわやかな青空、彼女の笑顔、目に見えるすべてのものにいら立ちを感じるのです。こんなの普通じゃない。私は以前の穏やかな自分に戻りたい」


男はひざまづき懇願した。


「それはさぞお辛いでしょう。でも、私にできることは何も…」


「知っているんですよ、博士。あなたが世界平和のために、すべての人間の心を穏やかにする薬の研究をしていること。そして、その薬がついに完成したことを」


「そうですか、もう知られてしまったのですね」


私は薬品の入ったボトルをポケットから取り出し男の顔に噴霧した。


男の顔から一瞬で表情が消えた。


「気分はどうですか?」


男は何も答えない。


ただ一点をみつめて動かない。


どうやら成功のようだ。


私は彼に言った。


「一つ訂正があります。私がこの薬の研究を始めたのは世界平和のためではない。これは人々を穏やかにするのではなく無気力にする薬です。私は自分より頭の悪い人間が嫌いでね、彼らを無抵抗にして私の支配下に置くための研究をしていたのです。被験者第一号になってくれてありがとう。少しすっきりしましたよ」

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