財団はどうしても異世界の調査をしたいようです。

Kudzubug

少女の姿をした異常存在編

フィールドエージェント

アイテム番号:SCP-X1751-JP


オブジェクトクラス:Euclid


特別収容プロトコル:現在、SCP-X1751-JPはカバーストーリー"鉱山資源調査"に基づき、

サイト-8107管轄下の鉱山資源研究施設に偽装された収容施設に収容されています。

SCP-X1751-JPは常に遠隔カメラで映像を記録し、異常が発生した場合は収容施設に駐在する機動部隊が対処に当たります。


説明:SCP-X1751-JPは20xx年5月1日未明頃発生したと推測される、福島県小沼郡綾戸村の山林に存在する高さ5m幅5m奥行約50cmほどの・・・・・・・・



 20xx年5月1日11:53


 その日、財団フィールドエージェント如月 華はサイト-8107の田所管理官から召集を受けていた。


「如月 華、到着しました!」


 管理官室のドアに向かってそう叫び、入室の合図を待った。

 ドアが少し開き、部屋の中から中年男性の声で「入ってくれたまえ……」と合図が聞こえた。

 田所管理官は直接、如月を部屋に招き入れ、召集に応じてくれたことの感謝と次節の挨拶を述べ、本題を話し始める。


「君も話は聞いていると思うが、本日未明、綾戸村が"怪物"らに襲撃されていると通報があったね」

「はっ!」


 正確には現地警察に入った通報を財団のフィールドエージェントが傍受した。


「現在、機動部隊い-2が交戦中だが、どうもその"怪物"を確保するのにネゴシエーターが欲しいみたいでね……行ってやってくれないかね?」


 財団のフィールドエージェントの役割は様々だ。

 先の例のように行政機関へ潜伏し、通報などから異常存在アノマリーを発見することが主な任務であるが、その特性上、異常存在への接触も多く、話が通じる相手ならばネゴシエーションも行う。

 如月は正直なところ気乗りはしなかった。

 偶発的に遭遇した異常存在に対しては当然、身を守るために出来る限りのことはする。

 だが今回は"いる"とわかっている場所にわざわざ自ら向かうのだ、しかも相手は集落を襲撃するような怪物である。


「はっ! 直ちに現地へ向かいます!」


 気乗りはしないが、そんなことは言ってられない、今も機動部隊員が命を懸けて戦っているのだ。

 こういった事態は財団職員になった時から覚悟している、異常存在から人類を守るのが財団職員の使命だ。


 *


 20xx年5月1日12:30、現着。


「ああ、如月さん! わざわざ出向いていただきまして……助かります!」

 Cクラス研究員の原田が出迎えてくれた。

 矢継ぎ早に機動部隊員の一人が現状を説明してくれる。

「現地住民、財団職員共に死者0名、負傷者十数名。一般関係者にはカバーストーリー"武装テロ組織掃討作戦"を実施中、現状、暴れていた方のアノマリーはあらかた掃討しました、その内1体確保に成功しています。」


 ぱっと周りを見渡してみると、空爆にでもあったかのような惨状("怪物"のせいなのか"掃討作戦"のせいなのかはあえて聞かない)だが、人的被害は思ったよりも少ないようだ。

(暴れていた方のアノマリーは1体確保済み……ということはそれとは別種の"暴れていない"アノマリーが未確保……ね)


 何故"暴れていない"方が未確保なのか、嫌な予感がする。


「これが確保済みアノマリーの写真です。」

 原田が資料の中から一枚差し出した。

 爬虫類のような硬そうな外皮をしたゴリラに似た生物、体長はゴリラを二回りくらい大きくしたゴリラ、うん"怪物"だ。

「よく掃討出来ましたね、さらに確保まで」

 如月は心底称賛したつもりだったが、原田の顔はうつむいたままだ。

「ええ、こいつらには銃器が通じたんで……」

(つまり未確保のアノマリーはこちらの装備が通用しないということね……最悪だ)


 機動部隊のベースキャンプ、といっても仮設テントだが、如月はそこに原田と共に歩いて向かってる時にふと思ったことを聞いてみた。

「あの、このゴリラ……」

「ああ、皆さんコレはトカゲゴリラって呼んでますよ、もちろん仮称ですが」

 原田が食い気味にそう応えた。

「そ、そうですか、このトカゲゴリラ何体くらいいたんですか?」

「20体くらいですね」

「それらの死体、もう隠蔽したんですか?」

 見渡す限り瓦礫の山で有機物らしきものが見当たらない。

「いえ……その、絶命してしばらくすると蒸発してしまいました」

 ああ、うん、相手は異常存在だ、それくらいでは動じない。

「あ、はい……たまにそういうやついますねー」


 そうこうしてるうちに、ベースキャンプに到着すると、一人の大男が二人を出迎えた。


「機動部隊い-2、隊長やってる谷口だ、まあ……座れや」

 如月はあまり歓迎されて無いような態度に面食らったが、機動部隊なんてのは言ってしまえば軍隊だ、軍人ってのはこういうもんだろうと、平静を装いこちらも手短に挨拶を済ませる。


 用意された簡易チェアーに腰かけると、横から谷口が無言で双眼鏡を押し付けてきて、前方を指で指した。

 確かに遥か前方に、瓦礫ではない何かが見える。

 双眼鏡を覗いてみると……女の子がこちらをじっと見つめているのが見えた。


「女の子……ですね、現地住民のお子さんでは?」

 激しい戦闘が行われたであろう瓦礫の山に子供がいる、間違いなくあれがアノマリーだが一縷の希望をこめて一応そう尋ねる。

「この集落に子供は居ないことを戸籍から確認しています、住民の親戚関係も当たりましたが該当者なしです」

 予想通りの答えが原田から返ってきた。


 人型実体……か


 如月はそう思いながら双眼鏡で観察していると、人型実体であるアノマリーはこちらを見据え何かしゃべっている。

 唇の動きを見た感じ……た・す・け・て……と言ってるように見える。

 おそらくこの場にいる全員が気付いている、あのアノマリーは意思疎通が出来る可能性がある、と。


(これか……私が呼ばれた理由は……)


「あの子……いやあのアノマリーは初めからあの場所に?」

「ああ、初めは空を仰いで笑ってたよ、こちらの存在に気付いてからはずっとあの調子だ」

 谷口が鼻をほじりながらそうぶっきらぼうに答えた。


「戦闘中も、ですか?」

「ああ」


 おかしい、集落一つが瓦礫の山と化してる状況で無傷どころか服すら汚れていない。


「変ですよね、でもこれを見てもらうと良くわか……異常性がはっきりわかると思います」

 原田はそういうとタブレットを取り出し戦闘中の映像を如月に見せ始めた。


(砂煙で何も見えない……)

 原田が映像のシークバーを少し右にずらしたところで砂煙が一瞬途切れ、画面端に件のアノマリーの姿が見えた、ロケット弾がアノマリーの胴体に着弾しそうなところで映像を止め、拡大&コマ送りで再生する。


 ロケット弾が胴体の後ろを通過しているかのように弾頭が徐々に隠れていく……が、いくら待っても反対側から出てこない。

 映像を巻き戻し、該当シーンを繰り返し見ていくうちに弾が背後を通過しているのではなく徐々に削り取られるように消失していることに気が付いてしまい、「あっ」 と思わず声が漏れてしまう。


(着弾した瞬間に消失!? それって、もしアレに触れてしまったら!? アレが私に掴みかかってきたら!?)


 如月は半泣きになりながら原田を見つめ、うっかりこうこぼしてしまった。


「ディ、Dクラス職員を……」


 Dクラス職員とは死刑が確定した囚人と取引をして財団が引き取った人材、つまるところ危険な現場に何も重要なことを知らされずに投入される使い捨て職員の事だ。


 原田も同情するといった感じで申し訳なそうに、「サイト-8107にDクラス職員は配属されていませんでした、他のサイトからの応援も要請しましたが却下されてしまいまして……」と口にする。


 突然、バン!と激しい音がテント内に響き渡り、思わず如月は咄嗟に身構えた、谷口が机を思いっきり引っぱたいたのだ。


「だから俺は反対だって言ってんだ! 時間かかってもいいからDクラスの派遣を要請し続けろ! 

 お前らだって知ってるだろ!? 人型のアノマリーは危ないんだよ! 子供の姿をしてるやつは特に危ねぇ! 俺たちが本能的に躊躇しちまう、そういう隙を狙ってくるやつなんだよ!」

 谷口の感情が爆発した、如月は声量にも驚いたがぶっきらぼうな態度は自分を慮っての態度であったのだと悟り、少し涙をこぼした。


 そうだ、確かに人型実体を伴うアノマリーは危険なものが多い、皆それは嫌というほど理解させられてきた。

 だがDクラス職員とて無限ではないのだ、冷静に考えれば今回のケースはDクラス投入が適切かというとそれも微妙なところだ、不謹慎だが事実として死者が出ていないのが痛手だし、一応触らなければ今のところ無害だし、現状だけを鑑みれば上の判断もあながち間違ってはいない……。

 第一、アノマリーについて何も知らないDクラスが対処したところで何かが変わるだろうか?

 これ以上何か有用な情報が得られるだろうか?

 だったら多少なりともアノマリーと意思疎通を試みた経験のある者が対処した方が良いのではないか?

 財団の隠蔽工作にも限界はある、来るかわからないDクラス職員を待つほど時間はかけられない。


 如月はこぼれてしまった涙を袖で拭い毅然とした顔で谷口と向かい直した。


 谷口が茫然とした表情で

「お前……」

 と何か言いかけたところを遮ってこう答えた。


「やっぱりこれはフィールドエージェントの仕事ですね、私が対処します」

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