16_しのぶ花(企画採用作品)

 夏も盛りの暑い日のこと。


 栄次郎えいじろうは体を引きずるようにして、墓参りに向かっていた。70歳を過ぎた老体に、夏の日差しが突き刺さる。


 手に持ったポケットラジオからイラク戦争を伝えるニュースが流れてくる。栄次郎は顔を歪ませた。


 やってきたのは、半世紀以上も前に亡くなった想い人の墓だ。訃報を聞いた時、栄次郎はまだ14歳だった。


「今年も夏が来たよ……達彦たつひこさん」


 栄次郎は、人知れず恋して、今も想っている男の名を呼んだ。

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