思い出は人と過ごすからできるものだよ、と白ウサギのマスコットに諭されました

みそカツぱん

第1話





「ねぇマシュマロ、なんで先生は毎日宿題を出すんだろ?」

『レンは何度もこの質問をするよね。それは今が伸び盛りだからでしょ。サボりを覚えちゃったら、頑張れなくなるからちゃんとやろうね』

「そんなに可愛いのに、キミはせんせーとかおかーさんみたい。もっと甘やかしてくれていいんだよ?」

『なんたってボクはレンの成長を助けるためにいるんだから。それがなんだよ』

「ぶーっ」


今よりちょっと未来。

科学技術が進歩し、個人でディバイス型AIを持つのが当たり前の時代。

生活のほとんどのものはマニュアル操作からAIによるオート操作。それは社会に溶け込み、子供の教育に対応するまでに進化した。


この少女、犬崎白蓮いぬさきびゃくれんは使っているアバターが白ウサギなことから、これをマシュマロと呼んでいる。

一方でマシュマロの方は白蓮をレンとあだ名で呼ぶ。白蓮という名前は本人にとって仰々しい印象、だからレンと呼ばせている。


「でもさ、成績が悪くても将来困らないじゃない」

『そんなことないよ。勉強をしてなかったら仮にやりたいことが見つかっても、できないじゃん』

「いいもーん。今のままでも楽しく生きれる自信あるしー」

『やれやれ』


白蓮は普通の中学2年生。成績は下の方。


今の世の中、暇つぶしはいくらでもあるし、働かなくても食べるのに困らない社会。

人間が生存を心配する必要がなくなった結果、やりたいことをやって富を築く者となんとなく生きる者に分かれる社会になった。後者は多数派だ。白蓮だけが特別な生徒ではない。


なら人間の役割は?

それは社会や技術を進歩させる才能を育てること。生産や設備管理などはAIをはじめ、機械にやらせればよいという考えだ。


『ところでレンは友達を作らなくていいの?』

「今どき友達を作らなくても生きていけるもん」

『でも思い出は人と過ごすからできるものだよ』

「…………」


マシュマロの言葉はいつも白蓮を諭すもの。彼女はそれが分かっているからこそ、下を向き口を閉じる。


AIが進歩した弊害の1つに人と人のコミュニケーションが減ったことが挙げられる。

人同士がやり取りをするとその過程で必ずと言っていいほどトラブルが発生する。しかし便利に世の中では人との接触を簡単に避けることができてしまう。


白蓮は過去の失敗で人と関わることを避けるようになった。

マシュマロとは普通に話せているが、それはペットと同じ立ち位置だから。同年代との会話を試みようとも、まともに続かない。それはマシュマロの助けがあっても同様だ。


それがわかっているからこそマシュマロはこれ以上白蓮に踏み込むことができない。

しかしマシュマロはチャンスがあれば白蓮を後押しするつもりだ。それは彼のの上位に位置する。

子供の成長を願う、それがパーソナルAIだ。


「そんなの分かってるよ……」


自分だけが聞こえるくらいの小さな声。

白蓮もこの状況が良いとは思ってはいない。


学校の登下校、給食、授業の空き時間で彼女の目には様々なものが映る。仲の良い友達同士のやり取りや気軽に話すことができている同級生。

白蓮ができていないことばかりが目についた。だからマシュマロの言葉に頷くことができない。これからもできる気がしないから。









――――――――――――――――――――



今回は近未来SFです。

そんなにITに詳しくはないので複雑な設定は使わないつもりです。軽めの現代ファンタジーくらいの気持ちで読んで頂けたらと思います。


AIのアバターを含め、登場人物が多くなるので三人称視点での進行を採用します。


この3日で3話ずつ投稿予定です。

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