第13話 炎焔の試練

 翌朝、焚き火の跡が冷たくなりかけた頃、俺たちは再び旅立った。風の守護者から得た力が、俺たちの体に宿っているのを感じながら、次の目的地へと向かった。レイヴンの塔を後にし、俺たちの次なる試練は西にあるとされるエンカンティアの秘境、ファイマクレストの山脈だ。そこには火の守護者が眠るという。


「ここから西へ進むと、火の守護者の試練が待っているファイマクレストの山脈にたどり着きます」アリアが地図を見ながら言った。彼女の指先は山脈の位置を指し示しており、その周囲には火の守護者の伝説が記されていた。


「火の守護者か……聞いたことはあるけど、どんな試練が待ってるのかな。」レオンが興味津々の表情で言った。


「どんな試練が来ようと、俺たちなら乗り越えられる。風の守護者の試練を乗り越えたんだから」俺は自信を持って答えた。


「そうですね。私たちの力を信じて進みましょう」アリアが微笑んだ。


 道中、俺たちは様々な冒険者や村人と出会った。彼らは旅の途中で出会う者たちに温かく接し、貴重な情報や食糧を提供してくれた。ある村では、村の長老から火の守護者にまつわる伝説を聞くことができた。


「ファイマクレストの山脈には、火の守護者が眠る洞窟があると伝えられています。その洞窟には厳しい試練が待ち受けており、真の勇者だけがその力を得ることができると言われています。」長老は静かに語った。


「厳しい試練か……でも、俺たちならきっと乗り越えられる。」レオンが自信満々に言った。


「そうだな、俺たちならやれる。」俺も同意し、仲間たちと共に次の目的地へと進んだ。


 やがて、遠くに高くそびえるファイマクレストの山脈が見えてきた。その山々は赤く染まり、火山活動の影響か、時折煙が立ち上るのが見えた。山脈の麓には古びた石造りの門があり、その門には火の紋章が刻まれていた。


「ここがファイマクレストの山脈か……さすがに迫力があるな。」俺は息を呑んだ。


「健太さん、気をつけてください。ここにもきっと多くの罠や試練が多く待っているはずです。」アリアが緊張した声で言った。


「分かってる。でも、これを乗り越えないと次には進めない。」俺は自分を奮い立たせるように言い、仲間たちと共に山脈の中へと足を踏み入れた。


 山脈の内部は熱気に満ちており、足元にはボコボコと溶岩が流れていた。壁には火の紋章や古代の文字が刻まれており、それがこの場所の歴史と重要性を物語っていた。俺たちは慎重に進みながら、試練の間へと向かった。


 第一の試練は、火の迷宮だった。溶岩の川が複雑に絡み合い、正しい道を見つけ出すのは容易ではなかった。迷宮の壁は熱く、誤った道に進むと溶岩が溢れ出す危険があった。


「これ、どうやって進めばいいんだ?」レオンが困惑した表情で言った。


「溶岩の流れを読まなきゃならないみたいだね。アリアさんの魔法で溶岩の流れを視覚化できないか?」俺が尋ねた。


「やってみます。」アリアは両手を前に突き出し、静かに呪文を唱えた。すると、溶岩の流れが赤く輝く糸のように見えるようになった。


「これならいける。」俺たちは溶岩の流れを頼りに、慎重に進んでいった。迷宮の中で何度も迷いかけたが、アリアの魔法と俺たちの協力によって、何とか迷宮を抜け出すことができた。


 次に待ち受けていたのは、火の試練の間だった。そこでは激しい火炎が吹き荒れ、立っているだけでも熱さに耐えなければならなかった。火の力で床が焼かれ、壁に触れると火傷を負う危険もあった。


「ここをどうやって進む?」レオンが声を張り上げた。


「お互いに支え合って進もう。」俺はそう提案し、皆がそれに従った。アリアは再び魔法を使い、火を和らげるバリアを張った。それでも熱さは強烈で、何度も倒れそうになったが、俺たちは互いに助け合いながら前へと進んだ。


 最後の試練の扉を開けると、広大な空間が広がっていた。中央には大きな石の祭壇があり、その上には火の守護者である巨大な炎焔の蛇が待ち構えていた。その蛇の体は火のように赤く輝き、瞳は燃えるような赤色をしていた。炎の鱗が煌めき、動くたびに空気が熱を帯びて揺れた。


「これが……火の守護者か。」俺はその壮大な姿に圧倒されながら呟いた。


 炎焔の蛇は俺たちに視線を向け、低く唸るような声を発した。「よくぞここまで辿り着いた、勇者たちよ。しかし、我が力を得るためには、その覚悟と実力を示さねばならない。」


「覚悟はできている。俺たちはエンカンティアを救うためにここに来た。」俺は剣を構え、炎の蛇に向かって力強く言った。


「ならば、試してみるがよい。その希望と知恵を」炎焔ほのおの蛇は口を開き、火の息を吐き出した。その炎は強烈で、俺たちの体を焼き尽くすかのような力があった。


「みんな、気をつけて!」俺は叫び、仲間たちに注意を促した。


 戦いが始まった。炎焔の蛇の鋭い目が俺たちの動きを捉え、その巨大な体が素早く動いて襲いかかる。俺たちはその攻撃を避けながら、反撃の機会を探った。


「レオン、アリア、連携して攻撃するんだ!」俺は叫び、仲間たちに指示を出した。


 レオンは大剣を振りかざし、炎焔の蛇の身体を狙って突進した。アリアは魔法の力で蛇の動きを封じ、俺たちの攻撃をサポートした。俺も剣を振りかざし、蛇の隙を狙って一撃を繰り出した。


 炎焔の蛇の攻撃は熾烈を極めた。炎の尾が鞭のようにしなり、俺たちを弾き飛ばそうとする。レオンがその攻撃を大剣で受け止め、アリアが炎を防ぐ魔法のバリアを張る。しかし、その強大な力に俺たちは苦戦を強いられた。


「アリアさん、蛇の動きを封じる魔法をもう一度使ってくれ!」俺は叫んだ。


「分かりました。やってみます!」アリアは集中し、再び呪文を唱えた。青白い光が蛇の体を包み、その動きを一瞬封じた。


「今だ、レオン!」俺は叫び、レオンに攻撃を促した。


 レオンは力を振り絞り、大剣を振りかざして蛇の体に深く突き刺した。炎の蛇は苦しげにうねり、口から炎を吐き出したが、アリアの魔法がその炎を防いだ。


「アリアさん、もう少しだけ持ちこたえてくれ!」俺は叫び、剣を握り直して再び蛇に向かって突進した。


「頑張りますっ!」アリアは汗を流しながらも、魔法のバリアを維持した。


 俺は蛇の体に近づき、その鱗の隙間を狙って一撃を繰り出した。剣が深く刺さり、蛇はさらに苦しげに叫んだ。しかし、その声は次第に弱まり、やがて静かになった。炎の蛇の体がゆっくりと地面に沈み込み、その赤い瞳が消えた。


「やった……!」レオンが息を切らしながら叫んだ。


「皆、無事?」俺は仲間たちの様子を確認した。


「大丈夫、なんとか持ちこたえましたー。」アリアが微笑んだ。


「見事、健太、レオン、アリア。これで火の守護者の力を得ることができる。」


 俺は剣を収め、仲間たちと共に炎の蛇の前に立った。


 その瞬間、蛇の体から輝く光が溢れ出し、俺たちの体に吸い込まれるように流れ込んできた。熱いが心地よい力が体内を駆け巡り、俺たちは新たな力を手に入れた。


「これが……火の守護者の力か。」俺はその力を感じながら呟いた。


「これでエンカンティアを救うための力がさらに増しましたね。」アリアが微笑んだ。


「次の試練も、必ず乗り越えよう。」レオンが拳を握り締めた。


「そうだ、俺たちならできる。」俺は仲間たちと共に誓いを立て、次の目的地へと進む決意を新たにした。


 ファイマクレストの山脈を後にし、俺たちは新たな力を胸に、次なる試練へと向かうのだった。

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