第2話 なんか30位の人が死んだらしい

「おつかれー」

「おう、今日も早いなぁ」

「あはは、簡単な依頼だったからね」


依頼を終えて自宅に戻る途中、僕は裏世界の仲間と偶然遭遇した。仲間といっても、雇い主が違えば殺しあう、そんな関係だ。実際に殺しあったことはないけれど、できればその未来が来ないことを祈っている。

 ひどいときは、兄弟で殺しあうこともあるのだから。


「二人は、今日もツーマンセルで?」

「ああ、俺たちは周ほど器用じゃねぇからなぁ」

「器用というか、僕の場合はただコミュニケーションが苦手なだけなんだけどね。それに、僕はランキングが低いからたくさん依頼を受けないと、生きていけないし」


そういうと、二人からは同情した視線が向けられる。

この裏世界には、ランキングという制度が導入されてる。数万人が暮らす裏世界だが、その中でランキングが1000位以内に入っていれば、毎月の生活費が支給されるのだ。もちろん、ランキング順位が高いほどその支給額は大きい。


「シグも裕也も、ランキングが高いからうらやましいよ」

「そればっかりは、才能だから何とも言えないけど。でも、お前は必死に頑張ってるからな。そのうち、ランキング1000位には入れるさ」

「そうかな?」

「そうだよ。僕らも、心の底から応援してるし。君は、僕らよりも多く仕事をこなしているから、異能の練度も上がるだろう」


二人は優しい表情でそう言ってくれるけど、僕の実力では無理な気がする。僕の持つ異能では、残念だけどランキング入りする事は出来ないだろうし。結構、難しいんだよね、あれ。


「そういやぁ、話は変わるんだけどよ」

「どうしたの?」

「俺たちも少し前に聞いた話なんだが、ランキング30位のやつが作ってたグループが、皆殺しにされたらしいぜ?なんでも、護衛依頼を受けていたところ、別の奴と衝突したんだと」

「10人皆殺しですか。それは、恐ろしいですね」


10人皆殺しかぁ、僕も今回はそれくらい殺したけどなぁ。依頼人も殺しちゃったし、どうやって誤魔化したらいいんだろうなぁ。依頼人の護衛は完遂したけど、その直後に死んでるから、言い訳が大変面倒だ。


「お前も、注意しろよ。周。いつどこで、誰と衝突するのかわかんないからな」

「そうですね、強敵と接触したら生きることを考えるべきです」

「あはは、ありがとう」


優しい二人は、そう言って僕の心配をしてくれる。表面的ではなく、心の底から心配そうに見てくれるので、良き友人を持ったものだ。こうして偶に、裏世界の入り口で出会うだけの関係だったのに、今ではこうして会話しながら街中を歩くような仲になった。ランキングに差があるのに、本当に不思議な人たちだ。


「じゃあ、今日はありがとう。知らないことも知れてよかったよ。僕は依頼の完了報告をしたら、家に帰るからこれで」

「そうだな、じゃあなっ!」

「今後も、お気をつけて」

「二人もねぇっ!」


受けた依頼は、裏世界の統括ギルドで報告しなければならない。ギルドのロビーで二人と別れた僕は、低級者用の受付に並ぶ。ランキングに依存せず、依頼は自由に受けてこなすことができるのだが、その対応はランキングに応じて変わる。当たり前だが、上級者のほうが時間が貴重だからだ。

 僕は低級者用の列に並び、20分ほどで先頭に立つと依頼の報告をした。依頼者が死んでいることに関しては、何も言わなかったけど。依頼完了の電子書類を見せて、照合をとってもらえば、あとは口座に登録される。それだけの仕組みだ。


「これで依頼の完了報告は、問題ありません。今回も、ありがとうございました」

「いえ、こちらこそ何時もありがとうございます、ミラさん。それでは」

「はい、お疲れ様です」


ギルドを後にして、適当に夕飯の材料などを買うと僕は自宅へ戻った。僕の自宅は、実は裏世界でもそこそこの立地にある。安心安全の家に住もうと思うと、ちゃんとした層の人間が暮らしている場所に、自分の家を構えるしかない。

 まぁ、家といっても本当に最小限の小さな家だけど。低級ランクの人間だと、本来は住めないような土地に住んでいるのだから、仕方ない。まぁ、二人で暮らすには十分な広さだ。


「おかえりなさいませ、ご主人様」

「うん、ただいま。でも、ご主人様っていうのはやっぱりどうにもならないの?」

「無理ですね」

「そっかー」


家に入ると、メイド姿の銀髪少女がお出迎えをしてくれる。この子はイリスで、我が家で住み込みでメイドをしている。この家に住む条件で、この子を雇う必要があったんだ。

今では慣れたけど、最初は結構緊張したし焦ったなぁ。なんだか、懐かしい思い出だ。


「食材を購入してきていただけたのですね、ありがとうございます」

「別に構わないよ。というか、不要だったみたいだね」

「いえ、明日の夕飯に使わせていただきますね」


ニッコリと笑みを浮かべると、彼女はキッチンのほうへ歩いていった。それを見送って、僕も自分の準備をするのだった。

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