第10話 俺、仮面少年の正体に気づく

 仮面の少年はルアの言葉に苦笑いを浮べながらぱっとユリアスから身を離した。


 俺は自由になったユリアスを自分の方に引き寄せ、ユリアスを守るように背後に隠す。


 今度ユリアスに触れようとしてきたら思い切りはっ叩くか。


「ははは、手厳しいですね」


「おほほ、不埒な輩に常識を申し上げただけですわ」


「君、本当に面白いね」


「褒め言葉として受け取っておきますね」


 俺は淑女教育で極めた微笑みを顔に貼り付けた。一体どこが面白いのだろう……。別に面白い要素も何も無いだろ。


 少年は、今度は何やら考え込むような仕草をし始めるとバッと俺と向き合った。


 そしていきなり俺の肩を掴む。

 は?え?こいつ本当になんなの??今さっきの俺の話聞いてた?


「よし、決めた俺の女になれ!確かイリムバーグ嬢だったっけ?」


「はぁ……!?」


 いきなりの爆弾発言に素っ頓狂な声を上げてしまった。


 ユリアスはこの少年の言葉に石のように固まり、少年はというと俺の様子にくすくすと笑い声を上げている。


「後悔はさせないさ。後日そっちの家にも行くから」


「いや、ちょっと待ってくださいって……っ」


「慌てる姿も可愛いね。……あ、そろそろ時間か」


「あ、ちょ人の話を聞いて下さい!」


 踵を返そうとする少年の腕を引っ張る。すると逆に腕を取られてしまい軽々と身体を引き寄せられてしまった。


「すぐ迎えに行きますから」


 至近距離で見つめられ体が硬直する。


(この、瞳は)


 ルアの顔が赤から青に青ざめていき、血の気が失せていく。


(そうか、何で劇団で引っかかったのか、ここにがいたからか)


 仮面の隙間から見えるのは世にも珍しい黄金色の瞳。

 この瞳を持っているのは王国の四大公爵家の一つヴァレンシア家の血族だ。


 そして、この少年の名はカザリック・ヴァレンシア。


『ときラブ』の攻略対象の一人である。



 俺、モブのまま生きていけるのかな……。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――



「うわぁぁと……っても可愛いですユリアス様!」


「そ、そうかしら」


 王都中央街の俺の行きつけの服飾店へとユリアスと訪れる。


 実は前々から制作を願っていたものがあり、つい最近それが完成したという知らせが届いたからだ。


(前世でプレイしていたときに一個だけ限定追加コンテンツのダウンロードし忘れていたんだよなぁ〜)


 特別なイベントクリア後に手に入れることのできる各キャラクターの特別衣装だ。


 その特別衣装こそ"クラシックロリータ"衣装である。


 勿論デザインのオーダーは俺が細かく頼んだ。

 まずはユリアスの色味に合う用に瞳の色と合わせてワインレッドの深い赤と黒の生地にし、膨らみはやや抑えめにスカートの裾は膝が隠れる程度で合わせ、白のレースやリボンなどをアクセントに付けてもらった。


 普段はあまりレースやフリルの付いた衣装を好んで着ないユリアスのロリータ姿は、余りお目に掛かれない貴重な機会だ。


「ルアリア様の衣装はどうしましょうか?今ご試着しますか?」


「えぇ、勿論」


 女性店主の手元に握られているのはライムグリーンのユリアスの衣装と同じ形をしたロリータ衣装。


 そうお揃いの衣装である。これはもはや原作知識による転生特典だ。


「こんな可愛らしいドレス貰ってしまっていいの?」


「是非貰って下さい!これはそうですね、私からの贈り物なのです」


 こうしてユリアスの限定衣装コスチュームも、画面上ではなく生で見させてもらったのだ。元プレイヤーとしては嬉しいことこの上ない。


(今度は何を着せようか、日本の着物とか?メイド服か?それともチャイナ服?どれもユリアスなら似合いそうだなぁっ、て……)


(いやいや、変な奴だと思われたらどうするんだ。……まぁまたの機会にしよう)


 脳内で色々と妄想していたものを頭を振って打ち消す。



 うん、俺は紳士だ。変な事は断じて考えていない。

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