第1章
第5話 俺、誕生日会を迎える
爽やかな朝日に反射する薄茶色の髪はふわりと風に吹かれ、長いまつ毛に縁取られた新緑の瞳が姿を現す。
少女の優しげな雰囲気に合う清楚なシルクのドレスには細かな刺繍が施されておりその腕前や材質から一級品のものであることは誰の目からも分かる代物であった。
一枚絵になるような美しさを持つこの少女(?)はイリムバーグ家が令嬢ルアリア・イリムバーグという――。
「いやぁ今日で俺も十四歳かぁ若いとあっという間だなぁ」
と、言うことで前言撤回。
俺は女装令息のルア・イリムバーグ。『ときラブ』の攻略対象の一人だ。
しかし、俺のモブになりたいという願いから、前世の記憶を取り戻した八歳の頃から今日まで女装をして暮らしている。
おかげで俺は社交界では"侯爵家の令嬢"という今のところモブだ。
「ルア!……皆が会場で待っているぞ」
「まぁ、もうそんな時間だったのですね」
自室にて待機していた俺の下にシグルドが少し髪を乱した状態で入室してきた。
この四年間でシグルドはもう十六歳、幼かった頃の愛らしさは欠片もなく凛々しい目鼻立ちと整った輪郭をしたモブでありながら美しい好青年へと変わり果ててしまった。
シグルドと俺は色味は似ているものの同じ男でありながら成長速度も成長具合も全く異なる。
俺の場合筋肉は付かないし身長も男性の平均身長に満たない程度、女装をしている身としては有り難いことであるがどうしても男として情けないという失望感は感じた。
「そういえばまだアルバート様の婚約者は決まってないのですか?」
ふと、ずっと気になっていたことを口に出す。それはアルバートにまだ婚約者がいないからだ。
「あぁ、本人がまだ婚約者は要らないっていう一点張りでね」
『ときラブ』ではあの幼少期のパーティーでアルバートとユリアスの婚約が決定していた筈であった。
まぁユリアスの悪役令嬢阻止計画のために元々ユリアスとアルバートの婚約はこちらで妨害する予定であったため好都合である。
「さ、ルアおいで」
考え事をしていたらあっという間に着いてしまったようだ。
二メートルはあるであろう大きな扉を開くと侯爵家自慢の庭園には見知った顔の数々がちらついている。
「「「ルアリア(嬢)お誕生日おめでとうございます」」」
色取り取りのフラワーシャワーを浴びせられ、温かなサプライズに自然と頬は緩み口元は弧を描いた。
「まぁ……ありがとうございます。とっても嬉しいです!」
――今日は俺の十四歳の誕生日パーティーなのだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「ルアリア」
「ユリアス様!こうして対面してお会いするのは久しぶりですね。お元気でしたか?」
振り向くとそこには艷やかな黒髪にルージュの瞳が特徴的な美しい少女が俺の下に歩み寄っていた。
一際大人びた容姿は子供の頃から更に磨き上げられ、引き締められた足腰にそれでいて華奢な身体つき、何処を取っても変わらず彼女は美しかった。
「えぇ、それよりも貴方の方が心配だわ。長期休日中は毎回体調を崩しているでしょう?……今回は私の別荘地にお出かけ出来るといいわね」
(……それは仮病を使って休んだやつだな。申し訳ない)
流石に女装をしている身、中身は男性なのだ。日帰りの旅行ならまだしも泊まりとなってくれば話は違ってくる。
ユリアスの醜聞を曝す訳にはいかないし、そもそもそんなことさせたくない。
「そうですね。今年は是非連れて行ってくださいね」
「何処かに行くの?ルアリア嬢、とユリアス嬢久しぶり」
「「アルバート殿下お久しぶりです」」
ユリアスに倣って軽くカーテシーを向け挨拶を交わす。
……全くそんなにひょっこりと現れないでくれよ王太子殿下。下手なことしたらこっちが不敬罪で捕まるんだからな。まぁこんなこと口が裂けても言えないな。
「ユリアス様の別荘地のお話をしていたのですよ。夏場の王都は暑いですからね。避暑地で過ごすのも良いものかと」
「ふぅん……それは要相談なるよルア」
「……分かってる。行くつもりはないって兄さん」
アルバートの後ろに付いていたシグルドがこっそりと俺の耳元で話しかけてくる。
しかし、俺の返答にシグルドは不満そうな表情を浮かべた。
「全く……ねぇユリアス嬢そこに俺も行っちゃ駄目かな?ほら、ルアのお目付け役として」
「構いませんわ」
「アルバートも行きますよね?」
「勿論」
「で、殿下も来るのですか!?」
「シグルドは行くのに俺だけ行けないのは悲しいだろう」
いつもの澄まし顔から引き攣った表情を浮かべるユリアス。対象的にアルバートは愉快そうにおどけた様子だ。絶対にこの状況を楽しんでるだろ。
それに「来るよね?」「勿論」ていう会話で軽々と予定を取り付けたのだ。ユリアスの事を考えると可哀想だな。まぁ公爵家だし何とかしてくれると思うが。
「あらぁ……?そちらにいらっしゃるのはアルバート様とユリアス様ではありませんかぁ」
(は……?)
(なんでこいつがここにいるんだ?)
その甘い声に身の毛がよだつ程の嫌悪感が湧き出す。
そいつの顔を見るだけでも酷い頭痛が響いた。
――アイナ
ヒロインが何故か俺達の前に現れた。
まだゲーム本編は始まっていないはずなのに。
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