第4話 俺、お茶会する


 よく晴れた空の下、俺はマグレノア公爵邸の庭園にてお茶会というものに参加していた。


 勿論俺にその招待状を贈ってくれたのはこのマグレノア公爵令嬢であるユリアスだ。


 いくつものテーブルがある中、俺はユリアスに連行されて成り行きのままユリアスの隣に座らせてもらっている。


(まぁ知らない人と同じテーブルになるよりかは安心だな)


 これもユリアスなりの気遣いだろう。感謝しなければ。


「今日は私の招待を受けてくれてありがとう。出来る限りの御もてなしをするから皆楽しんで下さると嬉しいわ」


 ユリアスの言葉に至るところから拍手が湧き上がる。暫くすると公爵邸の使用人達がティーカップとお茶菓子を抱えながら庭園へと現れた。


 運ばれたお茶菓子に俺は目を輝かせ食い入るように眺める。


 前世では目にかかったことすらない恐らく高級の菓子達は、飴細工で美しく形どられたものや色取り取りの果物の載せられたものなど多種多様だ。


「貴方ほど反応が分かりやすいとこちらとしては嬉しいわね」


 ふと隣に目を向けるとユリアスが俺を見てくすくすと笑みを浮べていた。


「ふふ、そうですわねユリアス様。そう言えば貴方はどちらのご令嬢なの?」


 ユリアスの片方隣に座っている令嬢が俺に話しかけてきた。おっとりしたふわふわしたご令嬢だ。


「あら、申し遅れてしまったみたいです。私はルアリア・イリムバーグと言います。皆様お見知り置きくださいな」


「まぁ、イリムバーグ家のご令嬢でしたの。私はハートリー伯爵家のミチルダですわ」


「ミチルダ様素敵なお名前ですね」


(おっと……名前を褒めるのは主に男性側のする事だったよな)


 元は紳士教育を受けていたせいか癖で相手の名前を褒めてしまった。ここは淑女的なら『ミチルダ様の髪はとてもふわふわして可愛らしいわ』とかだっただろう。


「ふふっそれは口説いているのかしら?ね、ルアリア嬢」


「ま、まさか口説いてないですってユリアス様!……本当に可愛らしいお名前だと思いまして」


「では天然なたらしね」


「た、たらし……!?」


「冗談よ。さ、皆さんもお茶を飲みましょ」


「私もお菓子食べたいわ」と言いながらユリアスはケーキスタンドに載せられた一つのタルトに手を伸ばす。


 それに続き各々お茶を飲みながらお菓子にも手を付けた。


 お菓子はどれも公爵家お抱えのシェフが作った物らしくやはりここは財力的な格差を見せつけられた。


(んー……でも、ちょっと甘すぎるんだよな〜。そうだまた今度日本の菓子でも試作してみようかなぁ)


 成功したらユリアスに頼んでこのシェフに作って貰おう。そしたら数倍も美味しくなって返ってきそうだ。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――



「あはは、ここは『ときラブ』の世界、そして私はヒロイン♡」


 王都の路地裏でそう独り言を呟く一人の少女。淡い桃色の髪をしたその少女は白い頬を朱に染めながらうっとりとした様子で思いを馳せさせた。


「私はヒロイン……絶対に、絶対にしかないでしょ。うふ、うふふ」


 恐らくこの世界の人間には通じないであろう言葉を連発させながら人の行き交う大通りへと出る。



「――まずは物語を始めましょうか」



 そう呟くと同時にとある邸宅の前で身体を倒した。すると、その邸宅から調度良く一人の女性が出てくる。


「あら、貴方は?……まさか、マリナ!?」


「い、いえ、私の名前はアイナです。マリナは……私の亡くなった母の名前ですが」


「そう、じゃあ貴方はあの子の……取り敢えず中に入りなさいな。貴方とは、ゆっくりとお話しなければいけないみたいだわ」



 ――物語の歯車は回りだす。


 世界の中心にいるのはヒロイン。

 そして物語を動かすのは攻略対象と悪役令嬢。


 しかし、一人でもゲームの方向性と違う動きをしていたら?


 世界の均衡は崩れ、強制力は弱まる。



 この物語は女装した攻略対象の少年がゲームの強制力を皆無にしてしまうそんなお話。






 ―――――――――――――――――――――――――――――――――



 序章を読んで頂きありがとうございました。

 第一章は幼少期編から少年期編に入ります。

 少し大人になった登場人物達を楽しんでいただけると嬉しいです。


 もし、今後読み進めていき面白いと思って頂けたら応援して下さると嬉しいです。作者の励みになります(^^)

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