第10話 払除の家元
「帰ったわね」
食事を持ってくる人に、
母屋に行くよう言われやってきた。
畳の大部屋には親族と麗奈。
そこには案の定、母が待ち構えていた。
「今回の件、
貴方が犯したことを羅列してみなさい」
犯した、
と表現する時点でこちらが悪いという決めつけ。
「私の行動に、一点の曇りもありません」
「犯したことを羅列しなさいと言ったでしょう!」
「ッ」
「貴方がやったことわねぇ!
一般人でも除霊できる方法を
考えて教えたことよ!
私達の食い扶持を減らして
飢え死にさせる魂胆!?」
「決してそんなことは…」
「お黙り!」
顔を合わせる度、いつもこうだ。
「いいこと!?
落ちこぼれの貴女を
施設に送れないから
私が仕方なく養ってあげてるの。
恥を晒すことのない特別待遇の人生の、
何が不満なの!?」
「私だって、誰かの役に
「除霊以外の方法を考えなさい!」
「才能がない方面より、
才能のある方面で
人助けする方が効率的でしょう?」
この人は、叱咤の中に正論のようなものを
織り交ぜるから嫌いだ。
「もういいわ…下がりなさい」
「はい…」
畳の広間から出る。
ある人から見れば、
私の状況は贅沢になるだろう。
衣食住ほぼ完備、一応使用人がいる、
擬似的に一人暮らし。
すみれさんは、どう思うだろうか。
同情してくれるだろうか。
「今回も絞られちゃったね」
母屋に戻る途中に、麗奈が立ち塞がる。
「あなたが不当な報告をしたせいでしょう」
「人聞きが悪いなぁ。
私が細かいやり方まで伝えてたら、
恋人と離れ離れになることも有り得たんだよ?」
「…」
全てが麗奈にかかっていたせいで、
塵程の温情をありがたく感じてしまうのが
腹が立つ。
「感謝はしないわ」
「酷いなぁ」
麗奈を避けて離れに向かう。
「本当に、あの人に認めて貰えると思ってるの?」
認めてもらえないような言い方。
「実績に対しては正当に評価してくれる人よ」
「なら実績を得ないとね」
「…」
実績。
お金になる実績。
いろいろと当たり必要がありそうね。
「例えば、そう…ブツブツ」
「それじゃばいばーい…って聞いてるぅ?」
「やらせてください、お願いします」
「まだ懲りていないようね」
日曜日、頭を下げて頼み込む。
今度はリビングで内密な話。
内容は、営業して得た除霊の仕事を
やらせて欲しいというもの。
「貴方が何をしでかしたか覚えているかしら?」
「無報酬で除霊をしたこと、
一般人に除霊ができる可能性のある方法を
教えたことです」
「…よろしいでしょう、条件を出します」
固定電話の前に置いてあるメモ帳を破いて、
何かを書き出す。
「一つ、払除家の名前を出さないこと。
二つ、今回失敗すれば二度と
除霊に関わらないと約束すること。
三つ、今後も続けるようであれば、
税に関する事柄を家の会計士に一任すること。
これらを呑むことが出来れば許可します」
メモを突きつけられる。
「分かりました。その条件、呑みます」
「いいこと、
他になにか聞きたいことはありますか?」
「ございません」
「よろしい、行ってよし」
リビングを去る。
「…ふぅ」
成功した。
昨日の今日だから、
またねじ伏せられるのも覚悟していた。
朝の血圧が低い時に話しかけてよかった。
準備と、すみれさんに連絡をしなくては。
月曜日。
振替休日でどこかに行こうと
話していたのが叶った今日。
でもそれは、
学生の行く場所とは少し違っていた。
「おまたせー、待った?」
「いえ、今来たところよ」
「ナイスー」
「自分がこういうセリフを
言うことになるとは思わなかったわ」
「確かにね」
「すみれさんに借りた漫画で覚えたわ」
「それは光栄だ」
呼び出された要件に、最初は驚いた。
だけどすぐ、
彼女の家に関連したことだと気づいて、
黙って着いてきた。
それにしても。
「その服、似合ってるね」
私服姿を見るのは初めてだ。
黒いブラウスに白いスカート。
公私どちらでも行けそうなクレバーな選択。
「そ、そうかしら…すみれさんも似合ってるわよ」
「えへへ」
案件の内容はもう聞いている。
事故物件での除霊。
何度か行ったことある街の、
なんの変哲もないアパート。
「着いたわ」
管理人のような人が待っている。
少し気弱そうなおじさん。
「今回は、よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
お辞儀を合わせる。
管理人室のような場所に通される。
「改めて、今回はよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「こちら、前金です」
茶封筒が霊美ちゃんに差し出される。
「いえそんな、
成功してから全額いただきますので…」
「ここまで御足労いただいたので、
お渡しいない訳にはまいりません」
「では…」
受け取って鞄にしまった。
「それで…
お話の詳細を伺ってもよろしいでしょうか」
「はい…三年前のことになります」
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