Days17 半年

 もうすぐ夏休みだけれど、大学受験の年に当たるわたしたち高校三年生にとっての夏休みは、そんなに浮かれたものではない。灰色の青春とはよく言ったもので、スポーツがさほど強くない我が校では、今年も野球部の敗退をもってすべての運動部の三年生が活動を終了した。一応十一月に文化祭があり、文化部はそこまで活動する。しかし、文芸部なのに文章を書かないわたしにとっては、それは一大発表の大舞台というわけではない。一方写真部の彼はというと、逆に、四六時中撮りまくった写真の中から何枚かを引き延ばして印刷するだけだというので、やはりそこまで特別なイベントではないのだ。


「一学期が終わる……」


 彼が珍しく机に突っ伏してうめいている。ひんやりした机の天板を頬にくっつけるのは気持ちがよさそう。教室の備品はなんとなく汚い気がするから、わたしはやらないけれど。


「俺は大変なことに気づいてしまった……」

「どうせたいしたことじゃないでしょ」

「どうして雪ちゃんは聞く前からそういうことを……」

「わたしの経験則からいうと、あんたの場合、大変なおおごとだと言って話し始めることはだいたいどうでもいいことで、たいした話じゃないんだけど、から始まる話のほうがおおごとなの」

「理解のあるカノジョで嬉しいぜ……」


 クラスメートの男子が彼の背中を叩いて「なんだよ、よくわかんないけど元気出せよ」と適当な声掛けをする。彼の友達はみんな適当なことを言う。男子高校生って、適当なことを言う生き物なのかしら。


「聞いて驚け」


 彼が顔を上げ、指折り数え始める。


「七月が半分終わった。八月。九月。十月、十一月、十二月――一月。あと半年」


 わたしもはっと息を呑んだ。


「共テまであと半年しかないって知ってた?」


 教室が静まり返った。


 それは、大変なおおごとだった。


「おい! 現実に引き戻すようなこと言うなよ! 花火大会の話でもしてろよ!」

「花火大会までの間にもみっちり授業が入ってるからなあ。あ、違いますね、夏期講習ですね。夏期講習という名目で教科書の終わらなかった分を勉強する任意参加形式でした、謝罪の上訂正致します」

「その任意参加、ふつうに考えて不参加のやついねえよな。進学率100%の我が校でよ」


 大学ではなく専門学校に行くという何某さんと何某くんが不参加だという話が流れたついでに、また別の男子が「えっ、清森参加するの? お前こそ来なさそうなやつなのに」と言った。わたしもそう思った。


「うるせえ、お前ら見てろ、俺はお前らなんかよりよっぽどいい大学に行ってやるからよ」


 ある女子が後ろから話し掛けてくる。


「よかったね、早苗さん。夏休みも待ち合わせなしで清森くんと毎日会えるってことだね」

「そう……なのかな……?」


 彼氏と毎日会うより大事なことがあるのが受験生なのでは、と思ったけれど、それを言うとわたしが感じの悪い女になりそうな気がしたのでやめた。



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