新学期と一年戦争【三】
レイア先生が一年戦争の開幕を宣言した後、実況解説を務める女生徒がルール説明を始めた。
一年戦争はトーナメント形式で行われ、優勝者には剣王祭の一年生枠が与えられる。
試合に持ち込んでいいのは剣のみ、防具などの持ち込みは一切禁止。
対戦カードは公平を期すため、試合開始直前のくじ引きにより決定。
どれもごく普通のルールであり、特段珍しいものは無い。
「――さぁてそれでは! ルール説明を終えたところで、記念すべき第一試合に参りましょう!」
観客席最前列にある実況解説席に座った女生徒は、小さなボールがたくさん入った透明な箱に手を入れた。
見れば、ボールの一つ一つには名前が書かれていた。
きっとアレがくじの役割を果たすのだろう。
「一人目の選手は――この方ですっ!」
彼女が勢いよくボールを取り出すとそこには――俺の名前が書かれていた。
「なんと一試合目から出ました! みなさんご存知、一年A組アレン=ロードル選手っ! 謎の集団――素振り部の部長にして生徒会の裏ボス! 大五聖祭では対戦相手を半殺しにし、新勧期間には剣術部の副部長を卑怯な手段で討ち取り、部費戦争ではシィ会長を
実況のアナウンスが響いた直後。
「おーっ! あいつが噂に聞くうちの問題児か、初めて見たぜ!」
「へへ、今度はどんなことをやってくれるんだ?」
「俺はお前を見に来たんだぜーっ! アレンーっ!」
一部の先輩たちから、熱烈な声援が送られた。
(これは……喜んでいいのだろうか……)
なんというか少し、複雑な気持ちだった……。
「さぁて、アレン選手に対するは――一年B組レイズ=ヴォルガン選手! 中等部時代、他校の生徒十人を病院送りにしたという噂があります! 『
実況がそう告げると、レイズさんが舞台へ上がった。
「ほぉ、あの曲剣使いか!」
「そういや聞いたことがあるな……。とんでもねぇ狂犬だって噂だったか……」
「さてさて悪逆非道のアレン=ロードルか、曲剣使いのレイズ=ヴォルガンか。一戦目から面白いカードじゃねぇの!」
観客が盛り上がる中、俺はレイズさんをジッと見つめた。
レイズ=ヴォルガン。
男にしてはやや長い、えんじ色の髪。
左耳には銀のピアス。
身長は俺と同じぐらい百七十センチほど。
(彼と剣を交えるのは、これで二度目になるな……)
一度目は確か……。
俺が停学を開けてすぐ、彼が突然魂装場へ乗り込んできたんだっけか……。
俺がそんな昔のことを思い出していると、
「よぉ、ひっさしぶりだなぁ。アレン=ロードルさんよぉ?」
彼は笑顔を浮かべたまま、気さくに挨拶をしてきた。
「……お久しぶりですね、レイズさん」
「いやぁ~。まさか初戦からお前と当たるとは……ついてる、ついてるねぇっ! 今日は流れがいいなぁ……っ!」
彼は血走った目をこちらに向けて、叫ぶようにそう言った。
(どうやら、逆恨みのようなものを買ってしまっているようだな……)
そうして俺とレイズさんが睨み合いを続けていると、
「両者、準備はよろしいでしょうか!? それでは――試合開始っ!」
実況が試合開始を宣言した。
俺はすぐさま剣を抜き放ち、正眼の構えを取る。
対するレイズさんは前回と同じように、開幕早々魂装を発現させた。
「
その瞬間――肉の無い骨の体をした三匹の龍が、突如として姿を現した。
彼らは
「これは……っ」
大きい。
以前戦った時よりも一回りも二回りも大きくなっている。
「ははっ、気付いたかぁ!? でもなぁ、ただでかくなっただけじゃねぇぞぉ! ――
彼がそう叫ぶと同時に――三匹の龍は一斉にこちらへ牙を剥いた。
「「「コロロロロロッ!」」」
大きく先端の尖った牙。
全身から飛び出した鋭い
文字通り、全身が凶器だ。
(……初めて見る技だな)
だけど、わざわざ向かって来てくれるならば――話は早い。
前回と同じように粉砕するだけだ!
「八の太刀――
八つの斬撃で、三匹の龍を破壊しようとしたその瞬間。
「――甘い、甘ぃいいいっ!」
それを予見していたかのように、レイズさんが斬り掛かってきた。
「ぐっ!?」
技の出を潰された俺は、レイズさんと
そこへ、
「「「コロロロロッ!」」」
三匹の龍が俺の手足目掛けて殺到した。
「……っ」
俺は身を
「ぐ……っ!?」
体から飛び出した鋭い骨片が、肩を浅く切り裂いた。
「ふはっ! いい顔だなぁ、アレン=ロードルぅ……っ!」
レイズさんはしっかりと俺の剣を抑えながら、口元をグニャリと歪める。
「……なるほど、超接近戦で俺の技を封じるつもりですか」
ここまで距離を詰められれば、飛影も朧月も断界も八咫烏も――自由に放つことはできない。
(技を放てないのはレイズさんも同じだが……。彼には<
遠隔操作が可能なあの魂装のおかげで、彼は一方的に強力な攻撃を放てるというわけだ。
「ふはっ、その通り! お前に負けたあの日からずっと、俺はただひたすら超接近戦の修業をしてきた! 全てはただ――お前をぶっ殺すためになぁっ!」
彼は勝ち誇った顔でそう言い放った。
(超接近戦にて相手の剣術を封じる、か。言うは易く行うは難し、だな)
並大抵の剣士では、とてもじゃないが不可能な戦術だ。
それを可能にするのは、レイズさんの素早い反応速度と優れた剣術。
(さすがは千刃学院へ実力で入学したエリートだな……)
基本的な能力が桁外れに高い。
「くくっ、その様子だと……まぁだ魂装は使えないようだなぁ? えぇ、落第剣士のアレン=ロードルさんよぉ?」
「……えぇ、そうですよ」
残念ながら、彼の言う通りだ。
「ぷっ、あっはははははは……っ! やっぱお前には才能ねぇよ……! ほらほら、こっからどうするんだぁ? 自慢の剣術は封じられ、魂装も使えない……っ! 降参するなら今のうちだぜぇ?」
レイズさんは挑発を繰り返しながら、俺を
「まだ手はあります」
「……へぇ、おもしれぇじゃねぇか。どんな手があるのか、ぜひご教授願おうかぁ?」
「剣術を封じられたのなら――力でゴリ押すまでです」
「はぁ? 何を言って……っ!?」
俺は全身に力を込めて、
「――セァッ!」
鍔迫り合いの状態を腕力だけで押し切った。
「お前……なんって馬鹿力をしてやがる……っ!?」
「はぁああああああ……っ!」
そこから畳み掛けるように袈裟切り・切り上げ・切り下ろし――渾身の力を込めた斬撃を繰り出す。
剣と剣がぶつかり合い、激しい火花が舞い散った。
「ぐっ、こいつ……っ。人間じゃ、ねぇ……っ」
レイズさんは俺にぴったりとついたまま、その連撃をひたすら防御し続けた。
その後、一分二分と経過したところでついに、
「ハァ゛ッ!」
「く、ぐは……っ」
たび重なる連撃で握力が弱ったのか、彼は俺の斬撃に耐え切れず大きく吹き飛んだ。
「ぐ、が……、がは……っ!?」
あまりの衝撃に彼は受け身を取れず、地面を転がっていった。
「……終わりです。降参してください」
<
超接近戦も身体能力の差で押し切った。
――勝負ありだ。
すると全身を強打したレイズさんは、
「くく……っ。はは……、あはははははははっ!」
突然、狂ったように笑い始めた。
「あぁーあ……。ついてるよ、俺……ほんっとについてるなぁ……っ」
うわ言のようにブツブツと呟きながら、彼はゆっくりと立ち上がった。
(……あれは、何だ?)
よくよく見れば、彼の右手には――黒い機械のようなものが握られていた。
「そしてぇ、アレン=ロードルぅ……? お前は最高に――ついてねぇなぁっ!」
彼が右手のスイッチを押したその瞬間。
「っ!?」
俺の足元から眩い光が溢れ出し――大爆発が起きた。
「……くっ、爆弾!?」
咄嗟に片手で飛影を放ち、爆発と相殺させたが――態勢不利な上に片手で放った斬撃では、さすがに押し負けてしまった。
俺は勢いを殺すように地面を転がり、しっかりと受け身を取る。
「ふはっ! あそこから逃げ切るとは、いよいよ持って人間の反応じゃねぇな! だがよぉ……もう終わりだぜぇ……?」
彼はそう言って、わざとらしく俺の右手を見た。
先ほどの大爆発によって、剣は吹き飛ばされ――俺は完全な丸腰になっていた。
「……仕込みはルール違反のはずですが?」
さっきの爆発は<
恐らく一年戦争の前日などに仕込んだものだろう。
「はぁ……。一年戦争とか、剣王祭の出場資格とか……そんなもんはどうだっていいんだよ……。この俺に恥をかかせてくれた……てめぇさえぶち殺せればなぁ……っ!」
そう言って彼は、両手を前に突き出した。
「死ね――<
その瞬間、三匹の龍はバラバラに分解され――一匹の巨大な龍へと変貌を遂げた。
「グォロロロロロロロ……ッ!」
巨龍は地鳴りのような唸り声をあげ、俺を丸呑みにせんと迫った。
目前に迫る巨大な骨の龍――俺はその頭蓋骨を強引に掴むと、力の限り地面へ叩き付けた。
「ハァ゛ッ!」
凄まじい破砕音が鳴り響き、舞台上にいくつもの骨が飛び散った。
「グ、グォロロ、ロ……ッ」
粉々に粉砕された骨の龍は、眼窩に灯った赤い光が消え――ピクリとも動かなくなった。
「……は?」
レイズさんはポカンと口を開けたまま、その場で固まってしまっていた。
「残念ながら、俺の方が
もしも爆弾ではなく、もっと他の何かを仕込まれていたら――無傷とはいかなかっただろう。
「そんな卑怯な手を使っているうちは――俺には勝てませんよ」
俺はそのまま彼との距離を詰め、腹部に強烈な一撃を見舞った。
「か、はぁ……っ!?」
肺の空気を全て吐き出した彼は、その場でうずくまるようにして気を失った。
「な、なんとっ!? まさかまさかの素手による決着! 問題児対決は、格の違いを見せつけたアレン=ロードル選手の完全勝利ですっ!」
こうして無事に第一戦を制した俺は、第二戦へと駒を進めたのだった。
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【※読者の皆様へ、大切なお知らせ】
新作を公開しました!
タイトル:怠惰傲慢な悪役貴族は、謙虚堅実に努力する~原作知識で最強になり、破滅エンドを回避します~
URL:https://kakuyomu.jp/works/16818093087479543721
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