目立ちたくない転生彼女と隠れ蓑英雄
わかめこんぶ
第1話
私は生まれながらにして莫大な魔力を持っていた。それだけじゃなく魔力を他者に貸し与える能力と他者の魔力を見る能力も有していた。本来この世界の魔力は血液と一緒でおいそれと他者に渡せる物ではなかった。だけど、私にはできた。
私には結婚を約束した幼馴染がいた。子供の頃からずっと結婚しよう、結婚しようとその子と二人言い合っていた。その子は死んだ父の様に勇敢な冒険者になりたいともよく言っていた。大きくなったら二人で冒険者になろうと。
お世辞にもその子の魔力量は多いものではなかった。だから私はその子にほとんどの魔力を授けた。活躍して欲しかったのだ。それに目立ちたくもなかったし。
それからというもの彼はメキメキと強くなった。
二人で故郷の村を出て王都で冒険者になった。最初はなれない都会生活に四苦八苦したが、冒険者として依頼をこなしていくうちに彼は頭角を現していった。
そして彼のお父さんの仇でもある邪竜を五日間の死闘の末、単騎で撃破し一躍この国の英雄とまで呼ばれる様になった。国からの報酬で王都外れに家を建て二人で暮らした。
順風満帆な日々の筈だった。
「悪りぃ、今日でパーティー解散な」
彼、レオンが朝食をフォークで突きながら私にそう告げてきた。
「理由を聞いてもいい?」
「実力が足りてない。イシュリーだって周りから色々言われるのは嫌だろ」
確かに、私はレオンとパーティーを組むには実力が足りてないと散々言われてきた。冒険者協会からもパーティーを解散するよう勧告されてきた。
彼のためにも了承してあげないといけないのかもしれない。でも、納得できない自分もいる。
「周りからなんと言われようと私はレオンの隣にいたい」
うーん、とレオンは唸った。
「実は冒険者ギルドに入るんだ。お前はこの先ついてこれない。あ、この家には別にいていいぞ」
レオンの言い方に私はちょっとピキッときてしまう。
「…分かった。…どのギルドに入るかだけでも聞いていい?」
リオンがちょっと困った様に頬を掻くと
「桃色ムチプリハートに入る」
と、答えた。
ギルド桃色ムチプリハートと言えば確かにこの国屈指の冒険者ギルドだが、女性が九割もしめるギルドでもある。邪な気持ちがあってこのギルドに入るに違いない。
「なんで桃色ムチプリハートに入ろうと思ったの?」
私が尋ねるとレオンは「なんだっていいだろ」と、言って気まずそうにそっぽを向いた。
ため息が出る。私との結婚の約束はどこへ行ったのだろうか。
「やっぱり納得できない。一緒に冒険者になろうって約束は?」
レオンはハハッと小さく笑った。
「嫉妬すんなって。別にお前の考えてる様な事は起こらねーよ。…多分」
呆れた。なんでこんな奴とずっといたんだろ。よく見たら顔もそんな好みじゃなし性格も良くないし、なんかもういいや。
私は朝食を掻き込み席を立った。そのまま玄関に向かう。
「お、おい、どうした?ちょ、ちょっと待てって」
「さよなら。頑張ってね」
尚も呼び止めるレオンを無視して私は家を出た。
これからどうしようかな。レオンから魔力を返してもらうのは当然として、逆に冒険者として大成功を収めてやろうか。
そんな事を考えているとチュドーンと爆発音が聞こえてくる。気になって音のした方に向かうと一人の少年が魔法の練習をしていた。
同い年くらいの男の子。羨ましくなるくらいの直毛に美形、まんまると大きい目に長いまつ毛は女の子の様でかっこいいというよりかは可愛いといった感じだ。
こんな街の外れで魔法の練習なんて珍しい。しかも王都内にある学園の制服を着ている。もしかして貴族だろうか。
少年の手に魔力が集中している、今から魔法を発動する気だ。しかしボンッと少年の手が爆発し失敗に終わってしまう。
少年は呻きながら蹲った。
「大丈夫ですか!」
私はすぐさま駆けつけ少年の手に回復魔法【ヒール】をかけた。手の怪我がみるみる内に治っていく。
「す、すごい」
少年が自分の手をまじまじと見ながら呟いた。
「大事なくてよかったです」
貴族の子なら愛想振り撒かねばと渾身の笑顔で私は言った。頬を赤く染めボーッと私の顔を眺める少年に「どうかされましたか?」と、尋ねた。
「あ、いえ、その…傷を治していただきありがとうございます。ぼ、僕はゼルディスと申します」
ゼルディスってどっかで聞いたことがある気がする。だけど思い出せない。
「私はイシュリーです」
私はスカートの裾をつまみ上げて上品に自己紹介をした。
「す、素晴らしい魔法でした。アレは独学で?」
「はい、そうですよ」
独学と言っても呪文を覚えれば簡単にできてしまうから努力をしたわけではない。
「羨ましいです。僕は魔法が全然駄目で、よく周りからもいじられるんです」
ゼルディスがシュンッと分かりやすく落ち込んだ。
周りからいじられるか、私もレオンとパーティーを組んでる時周りから色々言われたから共感できる。
「もしよかったら私が見てあげましょうか?」
何かを教えてあげられるわけではないが助言ぐらいならもしかしたらできるかもしれない。それに多分貴族の子だ。恩を売って損はないだろう。
ゼルディスの顔がパッと明るくなった。
「本当ですか!嬉しいです!あの今から見ていただいてもよろしいですか?」
ウルウルと上目遣いでお願いされたら誰が断れようか。
「勿論いいですよ」
「本当ですか!やったー!」
ゼルディスが子供の様に喜ぶ。
なんか可愛いし応援したくなったからこの子に魔力を授けようかな?
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