誰に何と言われようとも、余命数ヶ月の最高にかわいい義妹を救いたい!!!
楽園
第1話 義妹を救いたい!
俺―如月幸人は、彼女いない歴年齢のいわゆるモテないボッチ高校二年生だ。話題になるのは、陽キャラの爽やかなイケメンで陰キャでモテない俺に興味を持つ女の子はいない。今日もサッカーの授業中、女子たちは陽キャメンバーの天野結城らに群がって、キャアキャアと黄色い声をあげていた。
俺はイケメンにキャアキャア言ってる女子達に興味はない。だが、俺ってかっこいいだろ、とアピールする陽キャ連中にはもっと関心がなかった。
俺は今日も授業が終わるとひとり走って正門をくぐった。
「今日は、元気だろうか?」
俺は家に帰らず、駅前の総合病院に向かう。
「あっ、ゆきくん、来たよ来た! 美久ちゃん、今日は元気だよ!」
「おばさん、ありがとう!」
「……おば、ちょっと!! まだ二十八歳なんだからね。お姉ちゃんでしょう!」
「ごめん、三十路でしたね」
「コラァ、それを言うならアラサーと言いなさい!!」
俺はナースステーションでいつもの挨拶を済ますと504号室に向かった。数日、精密検査で会えなかったので、きっと美久は首を長くして待ってるだろう
俺は扉をトントンと軽くノックすると、少し時間をおいて声がした。
「お義兄ちゃんらしくないなあ、入ってよ!」
内心ドキドキしながら、病室に入る。目の前には肩までの髪を綺麗に揃え、クリッとした大きな瞳が可愛い義妹の美久が待っていた。
「大丈夫か? 辛くなったらすぐに言うんだぞ!」
「もう! 大丈夫だって! 少しずつ良くなってきてるんだからね」
「……あっ、ああ」
俺は歯を噛み締めて、美久の言葉に応じる。学年の誰よりも美少女だと思う。きっと美久が退院する事があれば、校内で大騒ぎが起きそうだ。
「無理するなよ、本当に……」
「大丈夫だって、お義兄ちゃんは心配性だねえ。それよりなぜ? ノックして入って来たの?」
病気の進行が早く、気楽にお見舞いに来れる状態じゃないのだ。看護士達も急激な感情の変化で病気が悪化するのを心配している。
「お前も一応女の子だからな。着替えてる時もあるだろ」
「うーん、お義兄ちゃんなら、見られたっていいんじゃない?」
「義兄だからって、ダメだろ!」
美久は大きな? を顔に浮かべて俺をじっと見た。
「ふうん、全く女の子として意識してないと思ってたけど、お義兄ちゃんも少しは美久を女の子として見てるんだ」
少しじゃねえよ。俺は可愛い美久にドキドキさせられっぱなしだ。確かに俺は義兄だが、ただの義妹にここまで特別扱いしないよ。
「いつ頃、退院できるのかなあ。あーあ、早く学校行きたいなあ」
学校の一言に俺の心臓は飛び出しそうになった。
「つっ……、ちょっとな。俺、トイレ行ってくるわ」
俺は慌てて後ろを向いて、そのまま部屋を出ようと扉に手を伸ばす。
「……どうしたの?」
ダメだよ。今話しかけないでくれ。今話しかけられたら、涙腺が崩壊してしまう。
「漏れそうだから、行くよ」
少しぎこちないが、涙を見られるわけにはいかない。俺は階段まで走った。涙腺が崩壊して溢れてくる。
神様! なぜ、こんな残酷なことするんだよ!!
涙は枯れると言う人もいるが、いくら泣いても涙は止まらない。
「幸人、来たんだね!」
母親は俺が泣いてるのをあえて気にしないふりをして、そう言った。
「なんとかならねえのかよ!!」
「幸人が言わなくったって考えたわよ!! いろんな治療をした……、悔しいのは幸人……だけじゃない!!」
それはそうだ。母親と美久は俺と違って血が繋がっている。俺が初めて出会った時は、まだ入院はしてなかったが、それでもその時から病魔は美久を侵していた。
「父親に相談してみたのか……」
「どうしようもない、と言われた」
「なぜ、そんなこと言えるんだよ。ふざけんなよ!」
「医者は神じゃないわ。愛する母親の連れ子を突き放す親なんて親じゃない。少なくともお父さんはそう言う人じゃない。分かってるでしょ」
分かってる。分かってるから、こそ悔しい。
「緩和ケアをした方がいいかも知れない……」
美久の母親は悲しそうな表情をした。それは生きるのを諦めろ、と言うことなのか。
「そんな事できるかよっ……」
「だっ、だよね……分かってる。分かってるけど、見ていて辛くて」
美久は弱い。自分が助からないと知った時の絶望が美久を壊してしまう。
「行くわ……、あんま、遅くなると美久が変に勘繰るといけないから……」
「幸人……血は繋がってないけど、幸人は本当にいいお義兄さんだよ。きっと美久はそんなお義兄さんの義妹で嬉しかったと思う」
「過去形で言わないでくれ……美久は今も生きてるんだ」
「そうだよね」
俺は病室に戻ると、美久は少し頬を膨らませて待っていた。
「遅い……ぞ!」
「ごめん、いくら出しても止まらなくてな」
「……そうだよね……」
「あまり、体調悪いから今日は早く帰ろうかな、と」
俺の言葉に美久は真剣な表情をした。
「……いて欲しい……わたし……分かってるから!」
「っ……、おいおい、何言ってるんだよ、何が分かってるんだ? 俺のトイレのことか、美久って実は案外スケベだよな……」
「分かってる。無理して隠さなくていいよ。わたしが後そんなに生きられない事……」
「なっ、何言ってるんだよ! おい、お前、誰に言われたんだ。そいつを探して義兄ちゃん、殴ってやるぞ! そんなの嘘だから……」
「お義兄ちゃん、嘘つかなくていい。さっき先生とお母さんが話してるの偶然聞いちゃったんだ……緩和ケア……」
俺は頭がぐるぐる回っておかしくなりそうだった。俺はたまらず美久の細い身体を両手で抱きしめた。
「何バカなこと言ってるんだよ! お義兄ちゃんに任せとけ!」
「……わたしの身体変だし、流石に気がつくよ」
「だから! 大丈夫だ。お義兄ちゃんに任せとけって言ってるんだ!! 美久を絶対助けてやる!! 絶対な!!!」
俺はたまらず病室を飛び出して走った。どこをどう走ったのか分からないけど、気づけば目の前に鳥居があった。
「こんな所に神社なんてあったかな?」
俺が境内を見回す。昔来た時はただの山道だったはずだけど。その時、突然、目の前から女の声がした。
「
「えっ!?」
「お前の命と引き換えにしても義妹の命を救いたいか!」
目の前の境内は眩いくらいに光り輝いていた。
「こっ、これはどう言う事だ!!」
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