13 アルス王都でつかの間の

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「カレン、ほら起きて? 貴女寝すぎよ……夕食を食べに行きましょう?」


 テンション高めに私を起こしに来たのは、私のお世話係を自称するアルスの騎士様だ。


 だが起きぬけの私にに、その無駄に整った顔で優しく微笑んでくるのは今すぐ止めていただきたい。


 ……心臓に悪いから。


「もうそんな時間?」


「ほら顔洗って! そしてこれ着ましょうね?」


 そしてエディは懲りることなく、少女趣味のピラピラとしたワンピースを取り出してきた。


(この人はいったいどこからこんな少女趣味な服を用意してくるんだろか? もしや一人で買いに行ってるんじゃ……)


「……絶対いや」


 そして私は可愛いワンピースを勧めてくるエディからするりと逃げて、流れるような動作で錬金術師のローブを羽織った。


「えっ、ちょっと! それでいくつもり?」


「ほら、いくよー?」


「あっ、ちょっと! 待ちなさいよー!」


 


◇◇◇



 

 そびえ立つ城壁に囲まれたアルスの王都。

 イクスとはまるで違う景色に感慨にふけりつつ、カレンとエディの二人は夜の屋台街へと向かう。


「うわー! いい匂い! 期待高まるぅ!」


「え、本当に屋台でいいの?」


「何を言う!? 屋台が良いんじゃんか! コース料理なんて食った気がしねぇし、本当に美味しいもんはこういう所でエール片手に食う飯なんだよ!」


「……ほんと見た目に全くそぐわない、詐欺ね貴女は。中身おっさんじゃない?」


「それをそっくりそのままお返しします? このオネェ騎士め」


 そして見つめ合う二人。

 そしてここから恋が始まる予感は一切しない。


 冷たい夜風に、ふわりとカレンの癖のあるハニーブロンドが揺れる。


「くぅー! 肉ー! エール! 最ッ高ッ!」


「よく食べるわねぇ? 貴女の小さい身体のどこにそれが入るのか、不思議だわ……」


 軽く三人前の肉料理をペロリと食べたカレンに、エディは驚きを隠せない。


「ぷはー! くー! うまー! 錬金術師はね体力勝負なの! 食わないと死ぬ!」


 そんなカレンはエールを一気にあおり、大層ご満悦だ。


「貴女、本当に女の子なの? 私が知ってる令嬢達は、そんなに食べないわよ?」


「なーに言ってんの? みんなぶりっ子して外では少食っぽく演出してるだけだよ? 演技してるんだよ、女の子なんてみんな! そんなんじゃエディ悪い女にだまされちゃうぞぉ?」


「……騙されないわよ」


「そう? ふーん。 そっか、そっか、 エディはそっちの方だったもんね? ヨカッタヨカッタ」


「なっ!? 違っ!」


「え、違うの? なんか私……急に身の危険感じ始めたんだけど? やばっ、私の貞操が危ないー? 襲われちゃうー? チェンジー! お世話係チェンジぃー!」


「はぁ、もう。貴女ってほんといい性格してるわね?」


「お褒め頂きどーも? でも私は美少女だから危なくね? やばくね? エディのえっち!」


「はあ、大丈夫よ。未成年の子どもになんて、手ぇださないわよ。そこまで女に飢えてないわ」


「あ? ガキ扱いしてんじゃねーぞ?」


「ホント……喋らなければ可愛いのに、貴女勿体無いわね?」

 

「あ、おねーさん! エールおっかわりぃー!」


 


「……想像していた子とは、違いすぎるな」


 ポツリとカレンに聞き取れない小さな声音で、エディはつぶやく。


 資料によるとこの目の前の少女は、大人でも難しいとされる錬金術師試験に若干八歳で合格。

 そしてたった十二歳で当時世界を震撼させた謎の死病カトレアの特効薬を開発し、世界に救国の錬金術師として知れ渡る存在になった。


 だからもっとお高くとまった気難しい性格だとエディは思っていた、けれどそんな事は全然なくて。


 粗野だが、誰に対しても平等に接する人当たりの良い普通の女の子だった。


 だからエディは少し不安になった。

 

 カレンは十七歳にしては少々幼いが、つい見惚れてしまうほど美しい容姿を持っている。

 だから今後この国アルスでカレンに対して貴族達から縁談が殺到するだろう。


 正直なところエディ自身も護衛という立場じゃなければ、カレンに求婚書を送っていただろう。


 ただいくらカレンが美しいからといって。

 手を出すつもりはエディには毛頭ない。


 だってカレンはエディの家族や友人の命を救ってくれた、大切な恩人なのだから。

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