第18話
盾殴りのナゲキスは、女戦士の実力を見誤っていた。おそらく、自分よりレベルが高く格上の存在だと、今は感じていた。
(この女、場慣れしすぎてる。しかも、対人戦の。
けど、デュペルと連携すれば、倒せない相手じゃない。デュペルは【デュアルシフト】以外は今まで通り使えるはず)
ナゲキスは相手の力を認めたうえで、次の行動を頭の中に思い浮かべる。
すぐにでも仕掛けようと思ったのだが、女戦士は彼女の予想とは全く違う行動をしはじめた。
「じゃ、私戻るわ。バイバイ、私に蹴られた人」
急に熱が冷めたのか、女戦士は長双剣を鞘に戻す。そして冷めついた笑顔を崩さず、女戦士は優雅に手を振っていた。
そして女戦士は、再び元いた木の上に向かって飛び上がった。
「ちょっと、そんなのあり? 戦うんじゃなかったのかよ!」
先ほどからずっとペースを崩され続けているナゲキス。追跡かと思いきや戦闘に入り、また追いかけっこの時間に戻りそうだった。
「良いの入ったからとりあえず満足なの。
っあ、あれお願い」
木の上に逃げた女戦士は、近くにいる仲間の魔法使いに声をかける。
「はぁいはぁい。
【自由を奪う闇】多連」
バンダナを巻いた魔法使いの男は、しゃがみこんだまま無愛想な態度で魔法スキルを発動する。
彼の周囲にバチバチと音を鳴らす雲のような形をした漆黒の光が出現する。それもいくつも。
ナゲキスたちの視点からでは、無数に生まれたその「闇」によって、女戦士と魔法使いの姿が見えなくなってしまった。
「闇系統っ! まためんどくさいのが出てきたね」
スキルの中には、炎系統、水系統などの超自然的現象な効果を生み出せるものがある。そしてその系統には、それぞれ特徴がある。
炎系統であれば、熱を持ち物を燃やす力が強いが、水系統には相性的に不利である。逆に水系統は炎系統には強いが、雷系統のスキルを防ぐことが出来ない、といった有利不利がある。これは対戦相手のレベル差による威力の違いによって変わっては来るが、大まかには決まっている。
そして闇系統の特徴は、何にも有利ではないが、何にも不利ではない、というものである。
炎にも、水にも、雷にも、純粋なスキルの攻撃力や魔力の大きさによって勝敗が決まる。
そんな器用貧乏にも思える闇系統スキルだが、その多くは他の能力を持っていることがほとんどである。
それが、相手に不利益な効果を授ける、という内容だ。
いわゆる、デバフと言われるものである。
そして魔法使いが放った【自由を奪う闇】もそのデバフ効果を内蔵している。
【自由を奪う闇】詳細
効果……闇を作り出しそれを射出する。闇に触れた相手の速度を減少させる。
この闇に触れれば、たちまち動きが鈍くなってしまう。一撃ならまだしも、こんな大量の闇に飲み込まれれば、身動きが取れなくなる可能性もある。
「ナゲキスさん、ここは一旦引きますか?」
アシトンは、一時的にこのチームのリーダー的立ち位置にいるナゲキスに助言する。
ナゲキスとデュペルは今すぐにでも奴らを追いかけたいところだが、実際はその逆を強いられていた。
「っち、さすがにこれ全部からあんたたちを守り切れない、か」
前方を覆いつくす暗黒の闇を見て、ナゲキスは暑くなりすぎた頭を冷やしていく。彼女は相手の注意を引き仲間を守るタンク、というポジションだ。それゆえに、防ぎきれない攻撃を前にして、自分が情けなく感じた。
「分かんないけど、クインクウィならそうする気がする。
って、うわぁ! 襲ってきた。
もう、逃げるしかないって!」
【自由を奪う闇】の生成が終わると、その闇は標的である彼らに向かって近づいてくる
。そこまでスピードはないが、これだけ広範囲だとこの中を掻い潜って前に進むのは困難だ。炎や水なら、ダメージは覚悟で飛び込むことも可能ではあるが、ここに突っ込んでは、デバフ効果で動けなくなってしまう。
デュペルは一目散で池から離脱することを決めた。彼は【速度上昇】というパッシブスキルを持っているので、逃げ足は速い。
「くそォォォ! くやしいぃ!」
なすすべもなく対比するしかない現状に悲観しながら、ナゲキスはデュペルの後を追う。
「今回はしょうがないです。シェントルマさんやトーマさん、他にも冒険者がここにはいっぱいいるわけですし、何とかなりますよ」
精霊マノワルが消えた時とはうってかわって、アシトンは平静を保っていた。なんなら、暴れ馬がいなくなったことにより、召喚した時よりも落ち着いていていられた。
アシトンはナゲキスの側で共に走っていた。
その道中、彼女の視界に、地面に転がった泥まみれのカエルの死骸が見切れる。
彼女は疑問に思った。
このカエルたちを殺したのは誰のか、ということを。
アシトンたちの前に現れた冒険者パーティー・ニールダウンは、【ディスキル】使いの魔人と闇系統スキルの使い手、そして双剣で戦う女戦士だ。
誰も泥系統のスキルを使うそぶりすらなかった。
もちろん、彼らのスキル画面を確認するまでは断定はできない。
が、アシトンは犯人は別にいると考えていた。
(なにかがこの池周辺で起こっている?)
アシトンは一抹の不安を抱きながら、闇から逃れるために一旦、この場から離れるのであった。
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