第13話
こちらはAチーム。
所属するのは、風心クインクウィ、盾殴りのナゲキス、精霊使いのアシトンの女性3名である。
彼女たちは村から北を目指していた。この先にも大きな池があり、さらにその先を行くと、国境とそれを繋ぐ大橋がある。
「そろそろカエルたちが出現するかもな」
生息地付近に近づいているので、クインクウィは戦闘が近付いていることを仲間に伝える。
「っお、やっとね。早く殴らせろーい」
両肩をブンブンと回す盾殴りのナゲキス。彼女は両手の甲に常にバックラー(小型の盾)を装備している。いつでもやる気十分なのである。
「クインクウィさん、ナゲキスさんと私ってことは、入れ替わるんですか?」
新人のアシトンが、リーダーのクインクウィに質問する。実は、チーム分けは適当に分けたわけではない。この3人の組み合わせは、戦闘スタイル的に相性が良いのだ。いや、正確にはもう1人のクインクウィの場合、なのだが。
「そうだよ。よし、あいつも出たがってるだろうし、チェンジと行こうか。
行くよ、デュペル。
【デュアルシフト】」
クインクウィは瞳を閉じると、あるスキルを発動する。この【デュアルシフト】は希少スキルの中でもさらに数の少ない特殊なスキルだった。希少性だけではなく、変化球のその効果も、特殊スキルの由縁と言える。
スキルを発動したクインクウィの体が、青紫色の魔力のオーラに包み込まれる。そして一瞬、彼女が姿を消す。が、すぐにそこには、人間の姿が出現する。
しかしその人物は、クインクウィとは違う自分だった。
「うっす! 頑張るぞい!」
光が消えてそこにいたのは、クインクウィと同じ紫の髪をした男性だった。彼女よりも少し若く見える。
背も少しだけ低いように見える。元々クインクウィが170センチを超えるので、彼の身長が低すぎるというわけではなかった。
着ている装備も彼女のものとは若干違っていた。スタイリッシュで動きやすさを重視した服だった。
腰には剣が納刀された鞘を巻きつけていた。
彼の名はデュぺル。風心クインクウィに対して、彼の二つ名は雷心。
これが、【デュアルシフト】で顕現したクインクウィの別の姿である。
【デュアルシフト】詳細
効果……別の姿にスタイルチェンジする。
これにより現れたデュペルは、クインクウィとは完全に別人であり、その戦闘力も全く異なる。
しかし、それとなくクインクウィの面影が残っているようにも思える。
彼らの関係はあくまで対等。どちらが主人、ということはない。何故ならどちらが元の体なのか医者には判別不可能だったからである。【デュアルシフト】は生まれつき、いや生まれる前から所持しており、胎児の状態でスキルに発動を繰り返した。母親のお腹を蹴るように、2人はスキル発動を繰り返したのである。
なので、今となっては、どちらが先に生まれたのか、分かりようがないのだ。
「デュペル、ちゃんとクエスト内容分かってる? 寝てたんじゃないの?」
ナゲキスは入れ替わりに驚くことなく、自然にデュペルと会話をしはじめる。彼も同じパーティーの一員なので、何度も話した事がある。
「大丈夫! カエル退治だよね! っあ、あとララクたちが参加したのもちゃーんと、聞いてるから。
僕、一応、副リーダーなんだからね」
雷心デュペルは、自分の胸に親指を当てて、自信満々といったところだった。
落ち着いた雰囲気のあるクインクウィと違って、彼の言動はどこか軽かった。
【デュアルシフト】で人物が入れ替わり、顕現していないほうは、内側で身を潜めている状態になる。その中で、眠ることも可能だし、起きて視覚や聴覚を共有して、外の情報を得ることも可能なのだ。
「副リーダー、初めて知りました」
新参者の精霊使いアシトンは、表情を崩さずにポツリとつぶやく。まだ彼女は入ったばかりのようで、デュペルとは距離を感じる。
「ほら、風心雷心の雷心だもん俺!」
「私も初めて聞いたんだけど。トーマのおっさんじゃなかったっけ」
ナゲキスはぽかーんとした表情をしている。どうやら、彼の副リーダーというのは自称のようだ。
「っえ、トーマさん!? いやいや、違うでしょ。っえ、違うよね??」
自分でも自信が持てなくなるデュペル。年功序列で行けば、ねんごろのトーマガイはリーダーでもおかしくはない。
「この話、もうよくないですか?」
アシトンは、デュペルの着地点のなさそうな会話を気だるそうに聞いていた。
「っえ、アシトンちゃん、俺に冷たくない??」
「まだそんなに仲良くないので」
「が、がーん」
デュペルは頭を両手で抱え込み、分かりやすく悲哀の漂う顔をしている。口を開けて悲しそうに目を細めている。
「……はあ、私も戦闘準備に入りますね。
【精霊召喚・爆破】
おいで、マノワル」
デュペルの間の抜けたテンションに慣れない様子のアシトンは、彼のことは放っておいて、自分のスキルを発動した。
【精霊召喚・爆破】
効果……爆発系統のスキルを使用する精霊を召喚し使役する。
アシトンの目の前で、魔力の光が集合し始める。それはコンパスを使わずに書いたような不安定な円形となり、そしてそこに命が宿る。
全身は常に燃え盛っているような光をしており、赤黒く輝いている。そこに両目と口のようなものがかたどられていた。
「おっし! はやく爆発させろぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
森全体に響くかのような大音量で叫び爆誕したのが、精霊使いアシトンの相棒・爆炎のマノワルである。
サイズはアシトンの顔ほどしかないが、態度はかなり大きそうだ。
「うるさいマノワル。まだダメ。カエルが現れてから」
「はやっくぅ! 爆破させろよォォォ!」
爆破の精霊マノワルは、育ち盛りで言う事を聞かない男児のようだった。
彼の目や口はぎらついており、今ここで爆発してしまいそうな勢いを感じさせる。
「相変わらずうっさい奴だねぇ~」
盾殴りのナゲキスがいつもの調子で煽り始める。
「ばっくは~!」
しかし、マノワルは全く人の話を聞いていない。特に主人であるマノワル以外の事は。
「マノワル、もう少し待ってね! たぶん、もう少し進むとカエルたちいると思うから」
「はやっくぅ! はやーく!」
聞かん坊のマノワルは、自称副リーダーの雷心デュペルの言う事にも当然聞く耳を持っていない。
マノワルをなだめる手段は、アシトンのお馴染みの一言だけであった。
「マノワル、召喚止めるよ」
「っばっくはー……。……」
アシトンの言葉を聞いたマノワルは、すぐに黙り込んでしまう。急にしゅんっとし始め、心なしか体が小さくなっていくように見えた。
スキル効果によって召喚されたマノワルは、主人であるアシトンがスキルを終了すれば消えてしまう。本当ならマノワルはずっと外で暮らしたいと願っているので、これでしつけることが出来る。のだが、一度消えてしまうと、すぐにマノワルは起きたことを忘れてしまう。これはスキル効果による記憶の消失ではなく、単純にマノワルがすぐに物事を忘れてしまう性格なだけである。
「お2人ともすいません。先を急ぎましょう」
「母親みたいだね、アシトンちゃんは。よーし、カエル退治といきましょーう」
雷心デュペルは、片腕をまっすぐ伸ばして勢いづき行進するかのように歩き始めていく。
カエル掃討作戦・チームAのメンバーは、1人交代、1匹追加と、大幅な編成をしたのち、目的地の池を目指して歩いていった。
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