第2話

 56回目の追放から、1年以上が経過していた。


 ララクは時とともに成長しているが、見た目はまるで変わっていなかった。薄く品のある金髪に、まんまるとした黒目。背は160㎝にも満たず小柄なため、よく子供に間違われる。が、18歳を超えているので、この国では成人として扱われる。


 そんな彼は、今でも冒険者を続けている。


 今回彼は、国民からの依頼であるクエストをやりに、海辺へとやってきていた。


 そして今回のクエストというのが、以下である。



「三本角を退治してくれ!」


 村の近くに釣りスポットがあるんだけどよぉ、最近そこに大鹿がうろちょろしてるんだ。おっぱろうにも、速すぎてどうにもできねぇ。

 それどころか、あのでっかい角でどつかれて、怪我しちまった。

 今、アジが旬なんだよっ! 俺に、俺に釣りをさせてくれぇぇぇぇ!!


         依頼者  釣りが大好きドンジ


 これがクエスト内容だ。

 それを受けた冒険者であるララクは、その指定場所である海辺へやってきた。


 だが、彼は1人ではない。現在の彼には、1人だけだが仲間がいた。そんな仲間は、海に向かってこう叫んでいた。


「海のバカヤローーーーー。青すぎるぞーーーーーー!」


 よく分からないことを大声で、水平線の向こうに聞こえるぐらいのテンションで吐き出していた。

 彼女は海にぴったりな開放的な格好をしている。

 下はひざ丈ぐらいのジーパンで、短めの白シャツを着てへそをだしている。これだけだと一般的な格好だが、そのシャツの上に魔法使いが着る銀ローブを羽織っている。かなりアレンジして動きやすくしており、マントのようになっている。


 その背中には、透明に輝く水晶で作られた戦闘用の棒、ロッドが携えられていた。名はそのままで、クリスタルロッド。これが彼女の愛用武器である。


 彼女の名前はゼマ・ウィンビー。役職は、ヒーラーである。


「青いのは良い事じゃないですか。ゴミが少ない証拠です」


 同じパーティーの仲間であるゼマの発言に、冷静にツッコミを入れるララク。ララクは、自分はそんな風に叫べないな、とどこか羨ましそうにしているようにも見受けられる。


「っあ、そっか。じゃあ、海ーーーーー、お前凄いぞーーーーーーーー」


 もう一度、腹の底から声を出すゼマ。特に意味のある言葉を言いたいというよりは、ただただストレス発散したいだけのような気もする。


「はは。元気ですね、ゼマさんは」


 ララクはゼマの陽気さを楽しみながらも、(凄いのは周辺の人たちだと思うけど)と、心の中で冷静に考えていた。

 この近くには村があり、そこの住民が今回のクエストを出したのである。普段から綺麗にしようとしているからこそ、自然そのままの形が残っているのだろう。


 2人は海を眺め終わると、後ろを振り返った。

 そこには、斜めになっている岩場があった。そこまで急斜面ではないが、足場が分かる人が上るのは困難な場所だった。


 そして、2人が岩場の状況を確認していると、それはタイミングよく姿を現した。


「美しい、ですね」


「よーし、叩きのめしちゃうぞー」


 彼らの上方にたたずむのは、高貴なる見た目をしたモンスターであった。


 岩場の頂上から、瑠璃色の瞳で2人を見下ろしている。

 特徴的なのは、頭から聳え立つように生えた三本の角。左右に一本ずつと、頭のてっぺんから一本、真っすぐに生えている。

 これが、今回のターゲットモンスター「トライディア」の自慢の三本角である。


 体は一般的な鹿と類似しているが、毛皮の上からでもわかるほどの引き締まった筋肉を持っている。全長も大きく、角を含めると5m近い。


「キャルルゥゥグゥゥ!」


 喉を鳴らし、すでに捉えた人間たちに向かって威嚇を始める。これが、釣り人たちを悩ませているのだ。特に攻撃を仕掛ける前から、すでに戦闘態勢に入っているのだ。

 おそらく、この辺りを縄張りとしているのだろう。

 この先には、野原が広がっており、草食生物が生活するには最適な場所になっている。村の人たちはそれを妨害するつもりはないが、それがモンスターには伝わらないのだ。


「やる気満々じゃん。そんならこのお姉さんが、その角、へし折ってあげる!」


 甲高い声で牽制するトライディアに対抗して、ゼマもすぐに戦闘ボルテージをMAX近くまで上げていく。

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