第2話 考察
「………結局、誰も発見できなかった」
英語とは程遠い言語で書かれた看板や、現実には存在しないはずの生物を目撃したことで、イサトは今いる場所が地球ではなく、中世ヨーロッパ風の異世界であると認識する。その後、陽が沈むまで無我夢中で街の住人を探し続けたが、誰も見つけることが出来なかった。
そして現在、イサトは暗い闇夜を照らすため、あることに使用するために用意していたチャッカマンと集めた廃材で焚き火を作る。地べたに腰を下ろして今までに起きた経緯を考察した。
「俺の身に一体、何が起きたんだ? ひょっとして俺、交通事故で死んで、この世界に転生したのか?」
記憶が途切れたのは青信号を渡っている最中だったとイサトは思い出す。渡っている途中で信号無視または居眠り運転の車両が突っ込んできて、轢かれたのではないかと推測する。
「い…いやいや、まさかな! 服装だって
イサトは今起きている事が夢だと思い、自らの頬を強く抓った。しかし、痛覚が存在することから、これが現実であると理解し、これが夢だという希望は潰えた。
「そうか……俺は死んで、異世界に転生したのか。だったら仕方ない、受け入れよう……」
イサトは、自身の死を潔く受け入れた…………………
「…って…受け入れられるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
わけ無かった。
「ふざけんなふざけんなふざけんなぁぁぁぁぁぁ!! どうして俺が死ななきゃならないんだぁぁぁ!! 折角、大学受験合格したのに、楽しみにしてたゲームを購入したのに、合格祝いとして家族旅行に行く予定だったのに、今までの苦労が全部、水の泡になっちまったぁぁぁぁぁぁ!!」
イサトは死んだ事実を受け入れられず、癇癪を引き起こす。それもその筈、誰だって最初は自分が死んだという事実を受け入れることなど出来る訳が無い。これが本来の常人の反応である。
「一体誰だ!! 俺を異世界に呼んだのは!? きっと神様的な存在か召喚術師が、『何かの手違いで殺してしまった』とか、『この世界を救う勇者に選ばれた』とか、そんな異世界もののド定番の理由で転生させられたなんてあんまりだ!! しかも『トラック転生』というベタ中のベタで!!」
彼の癇癪は治まる様子もなく、周囲に怒りの感情を込めて叫び続けた。
「アイツと子供の頃、約束したのに…天寿を全うするまで生き続けるって! 神様、聞こえてますかぁ! お供え物と賽銭、神社の掃除を毎日しますので、どうか俺を……元の世界に帰して下さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」
イサトは神様(?)に聞こえるよう真っ暗な夜空に向かって、大声で元の世界への帰還を懇願する。
しかし、無駄なことをしていると自覚した彼は虚しい気持ちで一杯になり、一度深呼吸をして精神を落ち着かせた。弱くなってきた焚火に新しい廃材を黙々と追加し、再び地面に腰を下ろした。大きな声で叫んだ影響で喉が渇き、水筒に入った麦茶を飲んで喉を潤した後、頭の中である疑問が浮かび始めた。
「………そういえば此処…どんな世界だ?」
イサトは街を探索していた時を思い出す。いくら探しても住人が見当たらないことに奇妙な感覚を覚え、何か関連性があるのかと、どのような異世界か頭の中でいくつか想像を巡らせた。
①人間(亜人)が人間(亜人)を支配して、奴隷にしている世界・人間と亜人が共存する世界・人のみの世界
②魔法・魔術が存在する世界
③レベル・スキル・ステータスが存在するRPG風の世界
④魔族により滅亡寸前に追い込まれた世界
⑤ダンジョンが存在する世界
⑥倒したモンスターが消失し、アイテムがドロップする世界
⑦国同士が戦争する世界
⑧ロボットに類似する人型兵器が存在する世界
⑨男性と女性の貞操概念が逆転した世界
⑩欲望に溺れたチート転生者により支配された世界
「①~⑩の中だと、妥当なのは①~⑥だな。⑦と⑩とかだったら嫌だな」
予想でどんな世界か仮定した後、次は複数の種族について脳裏に思い浮かべた。
①緑の肌と小さい体躯の亜人【
②犬か狼の特徴を持つ獣人【
③豚か猪の特徴を持つ獣人【
④二本の角・牛の特徴を持つ獣人【
⑤鋭い爪・硬い鱗に覆われた亜人【
⑥魚特有の水掻き・鱗を持つ水陸両用の亜人【
⑦一・二本の角と強靭な筋肉・皮膚を持つ亜人【
この七体が異世界もので最も有名な亜人で、モンスターとして恐れられている複数の種族だ。
「ダークファンタジー系だと、
イサトは昔のことを思い出す。子供の頃にある大人向けのダークファンタジー漫画を知らずに読み、眠れない夜を何度も過ごす程のトラウマを植え付けられた過去を持っている。
「出来れば、転〇ラみたいな平和な世界で、
イサトは焚火に再び廃材を追加しながら、平和な世界でありますようにと心の中でそう願っていたその時、
『ガタンッ!』
「!?」
月の光が遮られた薄暗い道に、物が倒れる音が響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます