第7話 修蔵との対話
翌朝、清二は早朝の茶屋を訪れることにした。まだ陽が昇りきらない涼しい朝の空気が、彼の気持ちを引き締める。茶屋の庭には朝露が降り、桜の木々がしっとりとした緑を帯びていた。
「おはようございます、桜井さん。」清二は庭を掃除している薫の父・修蔵に挨拶した。
修蔵は少し驚いたように振り向き、清二を見つめた。「おはよう、山田君。こんな早くからどうしたのかね?」
「少しお話を伺いたくて、お邪魔しました。お忙しいところすみません。」清二は深々と頭を下げた。
修蔵は清二を庭の縁側に案内し、座るように促した。二人は静かに座り、庭の風景を眺めながら会話を始めた。
「山田君、君はなぜこの茶道に興味を持ったのかね?」修蔵は穏やかな口調で問いかけた。
清二は真剣な表情で答えた。「私は東京で多くのことを学びましたが、日本の伝統文化に触れる機会が少なく、この地で茶道を学ぶことで、より深く日本の文化を理解したいと思いました。」
修蔵は頷きながらも、その目には鋭い光が宿っていた。「それは立派な考えだ。しかし、茶道はただの技術ではなく、心の修行でもある。君はその覚悟があるのか?」
清二は力強く頷いた。「はい、桜井さん。私は本気で茶道を学び、心の修行を続けたいと思っています。」
その言葉に修蔵は一瞬驚いたような表情を見せたが、やがて微笑んだ。「そうか、それならば君に少し話をしよう。」
修蔵は庭の桜の木を見つめながら話し始めた。「この桜は私の曾祖父が植えたもので、もう何代にもわたって桜井家を見守ってきた。この木の下で多くの茶会が開かれ、多くの人々が心を通わせたんだ。」
清二はその話に耳を傾けながら、桜の木に込められた思いを感じ取った。「本当に素晴らしいですね。桜井家の歴史と共に育ってきた桜の木が、今でもこうして美しく咲いているのは。」
修蔵は少し笑って続けた。「そうだ、この桜の木も我々と共に生きている。そして、君がこの茶屋に来たことで、新しい風が吹き込んだように感じるよ。」
清二は感動しながらも、少し緊張した表情で修蔵に向き直った。「桜井さん、私はこの茶道を学ぶことで、薫さんの力になりたいと思っています。彼女が抱えている悩みや苦しみを、少しでも和らげる手助けができればと。」
修蔵は一瞬驚いたように清二を見つめたが、やがて深く頷いた。「山田君、君の気持ちはよく分かった。だが、薫のことは私が一番よく知っているつもりだ。彼女には彼女の道がある。」
清二は強く言葉を返した。「桜井さん、私は薫さんの道を邪魔するつもりはありません。ただ、彼女が自分の本当の気持ちに正直であってほしいと願っているだけです。」
その言葉に修蔵は深い考えに沈んだように黙り込んだ。しばらくの沈黙の後、彼は静かに口を開いた。「分かった、山田君。君の誠実さは伝わった。これからも薫のことをよろしく頼む。」
清二は深く感謝の意を込めて頭を下げた。「ありがとうございます、桜井さん。これからも全力で薫さんを支えます。」
修蔵は微笑みながら清二の肩を軽く叩いた。「まあ、あまり無理はしないようにな。君自身の道も見失わないように。」
清二はその言葉に励まされ、再び強く頷いた。「はい、桜井さん。ありがとうございます。」
その後、清二は薫との稽古を続けるために茶室に向かった。彼の心には新たな決意が芽生え、薫との未来を守るために、さらなる努力を誓った。薫もまた、清二の真摯な姿勢に感謝し、彼の支えに勇気を得て、自分の道を見つめ直す日々を送るのだった。
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