第一章 光陰の革命


 僕は、日本の国会で改革野党の旗を高く掲げる三十九歳の若き指導者だ。政治家の二世ではなく、エリートでもなかった。


「若者こそが、フロンティア精神を持つべきだ」という基本理念を掲げる国立大学を卒業し、政治家の世襲に頼らず、自らの力で区議会議員からここまで登りつめた。


 名前は、西園寺公太郎さいおんじこうたろう。古い政治家にありがちな三つの悪習とされる条件。――僕には地盤(親から引き継ぐ選挙区)、看板(自慢できる肩書や地位)、かばん(金銭)など微塵たりともなかった。


 ただひたすら、政治家として「日本を救わなければ!」という強い決意があり、支援者に支えられている。


 血筋について言えば、母は外国人、父は日本人。しかし、僕の心は、生まれたその日から純粋に日本を愛するものだ。僕は日本人の国籍を誇りに思い、偽りなく公表している。


 初めて自由民進党で衆議院議員に立候補した際には、一部のマスコミやネットで騒ぎ立てる人から「二重国籍ではないか?」と揶揄される批判があり、僕自身の耳にも入った。そのたびに「今に見ていろ。こんなことで負けてたまるか!」と国会議員になる意志を固めた。


 だが、なぜか総裁選挙では左から右までの党派を超える国会議員の支持を集め、青天の霹靂のように、第102代内閣総理大臣へと選出されたのだ。


 その奇跡には、二週間前の衆議院選挙に起因する出来事の背景がある。


 新聞などで、「増税裏金隠し解散」と酷評される中、当時の総理大臣の伝家の宝刀により衆議院が解散された。国会の議場には、「こんなのは猫だましや!」と荒い怒号が飛び交っていた。


 国会議員の裏金問題が世の中でかつてないほど痛烈に批判されて信頼を失う中、僕はひそかに仲間たちと日夜議論を重ねていた。このままでは、日本が沈没してしまうと僕らは危惧していた。


 そして、ついにこれまで誰も思いつかなかった二十二世紀への大改革プランを練り上げた。最初はプランの名前を『太陽の光と影』と考えていたが、なんとなくしっくりこなかった。そんな訳で、悠久からの歴史の響きを感じさせる『日輪の光陰にちりんのこういん』に変更し、日本を根本から刷新し、新たな百年の礎を築く計画を策定した。


 過去の歴史をさかのぼれば、新潟出身で叩き上げの総理大臣の後を継ぐ大改革プランであった。あの総理は金権スキャンダルで余儀なく退陣したが、今は亡き彼が官僚を上手に使った能力や、唱えた地方活性化の先見性には一目置いていた。


 僕は革新野党の若きリーダーとして、元総理の先見の明と決断力を尊敬し、参考にしながら、我々の計画のアウトラインを衆議院選挙で前面に打ち出した。

 幸いにも、小手先の改革に終始した巨大な与党を破り、事前の予想を覆す完全勝利を収めた。それは、晴天の霹靂のような番狂わせの出来事になった。


 これまで政治にあまり関心を持っていなかった若者たちも、選挙に積極的に参加し始めている。「未来を生きるのは自分たちだ。もう年寄りなんかに任せておけない。令和の民主革命を起こすぞ!」という強いメッセージを送ってくれたのだろう。


 国会の議場全体で響き渡る盛大な拍手は、僕のこれまでの前例のない努力と決意を称えるものだったのかもしれない。その時、その瞬間、僕は令和時代を象徴する「日輪の今太閤」として、世の中の注目を集めたのだ。


 ライブのニュースで衝撃的な主人公として関心を集め、人気ドラマの放送を中断するほど、あらゆるテレビ番組で特集された。


 どんなに持て囃されても、僕は自分自身で奢ることだけは避けていた。政治家はいつ梯子を外されるかわからない。総理大臣ならなおさらだ。まだ挑戦は始まったばかりで、僕の前にはまだやらなければいけないことがたくさん残っている。


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