進化の軌跡〜突然変異を繰り返し最強を目指す!

朧月夜宵

プロローグ

ドクンッ――ドクンッ――。


 海面近くの海中をたくさんの卵が漂っている。


ドクンッ――ドクンッ――!


 漂う卵の殻を突き破り一匹の稚魚が生まれた。

 そして、それに続いて周りの卵からもどんどんと稚魚が生まれてくる。

 生まれた稚魚たちはまだ小さく、波に揺られながら海中を漂い始めた。





 稚魚が生まれて十日が経過した。体長は、2cm程まで成長した。

 一緒に生まれた兄弟達は、波に流されバラバラになったり、他の魚に食われたりして数がかなり減った。

今は、流れ藻にひっつき海を変わらず漂っている。 





 稚魚が生まれて六十日が経過した。体長は、5.5cm程まで成長した。

 ある程度身体の自由が聞くようになり、自分自身で行きたい場所に行けるようになった。 

  




 幼魚が生まれて一年が経過した。体長は大きく成長し、他の幼魚よりも一回り大きい18cm程まで成長した。これまで数々の危機を乗り越え生き延び、多くの知識を得て、知能が向上した。

 そして、仲間も得た。

 今は同じぐらいの大きさの同じ種族の幼魚達と群れを作り、回遊している。


『鳥に食べられないよう、上から離れて泳がないと。あと、下にも大きな魚がいるから気をつけなきゃ』

 

 幼魚は、群れを率いる立場となっていた。



❖ 

 


 幼魚が群れを作り、六年が経ち何回も鳥や他の魚、そして人間に襲われながらも順調に群れを大きくしていった。

 体長は45cmを超え、成熟を迎えていた。

 成魚となった魚は、これまで経験して得た知識を使いうまく生きてきた。

 だが、そんな日常はすぐさま消え去った。


『っ! なにか、来るっ!』


 生まれながらに持っていた、危機感知能力が危険の接近を感知していた。

 次の瞬間!


『いただきぃ!』


 ものすごい速さの魚が、群れの仲間達数匹を一気に連れ去っていった。


『みんな、散らばるんだ!』


 俺は、ひとまとまりになったところを狙われないよう、各自距離を取るよう指示する。   

 

 どんな魚が僕たちを食べようとしてるんだ、今まであんな速さで泳げる魚には会った事がない。


ビビッ!


 再び危険を感知した。


『ノロマ共め』


 見えた!


 また一瞬で、数匹の仲間を連れ去っていったが、今度はその姿を捉える事に成功した。


 顔の先に長い棒が生えており、身体は太長くて大きな背びれが生えていた。


『みんな、各自離れて逃げるんだ。後でまた集まろう!』


 俺は、みんなにそう指示すると遠く連れ去った仲間を食っている魚に目を向ける。


『怖い、本能が逃げろと言ってくる。でも、俺は群れのリーダーだから、仲間が逃げる時間を稼がないと行けない!』


 俺は、自分自身を奮い立たせて襲ってきた魚に立ち向かって行った。


『うおぉぉぉ!』


『なんだお前、まあいいや』


 襲ってきた魚は、立ち向かった俺を無視し逃げる仲間の元に泳いで行く。


 だめだ、行かせちゃだめだ。


 俺は、急いで方向転換し魚の後を追いかける。


『う、うわぁぁ』


『リーダーーっ!』


 魚の速度は、異常に早く背びれを広げ仲間の泳ぎを邪魔すると、頭の先の棒で仲間を叩き気絶させ、食らっていた。

 

『クソっ! よくも俺の仲間を!』


 俺は、思いっきり身体を動かし魚目掛けて突進する。


『食事の邪魔すんじゃねぇよ』


『ぐはっ!!』


 俺は、棒で思いっきり叩かれ瀕死になる。


 色々壊れた…! まともに身体が動かせない!

 なにか大事な物が壊れて、身体がどんどん沈んでいく……。


『り、リーダー、助け……』


『リーダー!!』


 俺は、死ぬのか? 仲間があいつに食われるのを黙って見ながら。

 今まで色んな経験を活かして、ここまでずっと生き延びてきた。

 鳥、人間、他の魚、数々の危機を乗り越えてきたのに、結局自分より強い魚には敵わないってことか。

 弱者は、強者に蹂躙される運命にある…………じゃあ、このまま大人しく仲間が食われるところを眺めながら、死を待つのか? 違うだろ、そうじゃないだろ……俺は群れのリーダー! 仲間が逃げる時間を命懸けで稼ぐっ! 数匹だけでも生き残れば、俺の群れは存続し続ける!


 俺は、仲間を救うため、定められた自分の運命に逆らうため覚悟を決めた。


 普通に攻撃しても駄目だ、あの長い棒で叩き落とされて終わりだ。


『全くあの魚はしつこかっ……うま、うま』


 仲間を食って、周りに臓物や肉の破片、血が広がっている。

 これは死んだ仲間を汚す行為、怒りなら死んだ後にいくらでも受けるよ。

 今は、生きている仲間の為にその身体を使わせて貰う。

 すまない。


 俺は、水中に飛び散る仲間の死体を集める。


 くっ、身体がうまく動かせない。それに、どんどんと沈んでいく。

 チャンスは一度きり、絶対に成功させないといけない。

 タイミングを見極めろ!


『おわっ、クソ腹が破けて中のものがたくさん散った』


 一匹の魚をあの魚が食った瞬間、噛みどころが悪かったのか、中の臓物が溢れ血で視界が覆われた。


『っ! 今だ!』


 俺は、壊れる身体に鞭を打ち、無理やり魚に近づいた。


『スンッ。お前まだ死んでなかったのか! いい加減しつこいぞ!!』


 視界を覆った臓物と血はすぐにはれ、俺の接近に気付いた魚が棒を振りかぶる。


『させるか!』


 俺は、集めた仲間の死体を魚の目を目掛けて投げつける。


『な、なんだ、目が』


 魚は、仲間の死体で視界を奪われもたつく。    

 

 これだけじゃ、まだ足りない……!! 

   

『これも喰らえぇぇ!』


 俺は、身体を回転させ背びれと尾びれで魚の目を切り刻んだ。


『ぐわぁぁぁ、テメェ何しやがる! 絶対に殺す!』


『みんな、今のうちに逃げ……ぐはっ!』


 俺は、生き残っている仲間にここから逃げるよう呼びかける。

 だが、視界を片方奪われた魚が大きく暴れ出し、棒が俺の身体にもろにあたったり、所々突き刺さったりして、身体の肉を削がれた。


『リーダーも…!』


『俺の事はいいから、早く!』


 仲間が俺に対して呼びかけるが、俺はそれを拒絶した。


 こんな身体じゃあ俺は逃げれやしない、それにあまりにも周りに血が流れすぎた。

 血の匂いを嗅ぎつけて、奴らがやってくる。


『血の匂いだ』


『飯……』


『今日は、大物だ』


 もう来たのか、早いな。


 俺とあの魚の周りに、血の匂いを嗅ぎつけた奴らの大群が現れた。奴らは、身体に大きなヒレを持ち口には多数の凶悪な牙がある。奴らは、嗅覚が優れており、血の匂いにつられて集まってくる。


 やれる事はやった、もう悔いはない。


 俺は、自分の死を受け入れゆっくりと深く暗い底へと沈んでいく。


『や、やめろ、来るな……来るなぁぁぁ』


 一匹だけならまだしも、大量に来られるとあいつでも奴らの群れには敵わないようだな。


 あの魚は、大量の奴らに群がられ食われていった。


『あぁ、俺の方にも来たか。まぁ、わかりきってたことだ。俺も大量の血が出ているから……』


 俺にも、奴らが近寄り俺の下半身を食い千切っていった。

 

 もはや、恐怖も痛みも感じない。俺はただ、より深い海に沈んでいくだけ……。


 俺は、上半身だけとなりより深い海へと沈んでいった。



 


『…い…ょ……ぶ?』


 こえ? まだ俺は生きてるのか。我ながらしぶといな。


『…い…ん、…怪我……る! …治…て…げ…ね』


 温かい。


『どう…よ、……しだ……力じ…治……い。適当に使……ゃ……だって………てるけど……』


 さっきから聞こえるこの声は……温かさが、全身を包んでる。     


『……れ〜、治……。あ…、良か…た! …っ…きた』


 俺は、霞む視界を声の聞こえる方に向ける。

 

『よ…、これで…璧…治……!』

 

 霞む視界に、人形の影と青紫色の髪が映った。

 そこで俺の意識は再び途切れた。


〘上位者の力を確認しました。特異能力ユニークアビリティ喰奪変異アブソーブミューテーションを覚醒。死の運命からの生還を確認、異能力アビリティ再生リジェネを覚醒。世界からの知らせを終了します〙



 

  

『姫様! また城から抜けだしてこんな浅いところまで……。女王陛下が心配していますよ? あんまり浅いところに行くと人間に捕まってしまいます』


『は〜い、気をつけま〜す。ほら、帰ろ?』


『全く、調子が良いんですから』    


 二人の人影は、その場を後にし何処かに消えていった。

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