第3話 頭痛とめまいが続く男子
杉橋右京は勉強ができた。見た目も良く、運動もできる方だ。生活態度も良く、いわゆる秀才だった。中学では「内申点」の為に、学級委員でも実行委員でも生徒会役員でも、何でもやった。高校生になっても、この成績ならば推薦で良い大学に行けそうだと思い、生徒会長に立候補する事を決めた。
なぜ右京が良い大学に行きたいか。それは本人にもよく分かっていなかった。右京の両親、特に母親の息子に対する期待は大きく、右京は母親の期待に応えるべく、良い大学を目指している。母親には大学受験であまり良い結果を出せなかったという過去があり、一流大学へ息子を入学させる事が、今の彼女の夢なのである。
小さい頃から物覚えが良く、何かにつけて母親には褒められた右京。褒められて、期待されて嬉しいと思う反面、サボりたくても、楽をしたくても、強迫観念に駆られてしまう自分がいた。無理に生徒会などに手を出さなくても、と思う時もある。勉強だけしていればもっと楽だと思う。だが、失敗できない。推薦がダメなら一般受験で、という保険をかけておきたい。絶対に、絶対に失敗できないのだ。自分が大学受験に失敗したら、母親がどれだけ落胆するだろう。右京は完全に縛られていた。
いつの頃からか、朝起きる時にめまいがするようになった。乗り物に乗ると気持ちが悪い。勉強をしていても頭痛がする。何をしていても気が晴れず、常に頭が痛いか、めまいがして気持ちが悪いのだった。
病院にも行ってみた。大きな病院で検査をした。脳の検査をしたが、特に問題はないと言われた。だから、それ以上は病院に通うのを辞めた。何か重い病気があるわけではないのなら、無視する事にしたのだ。
大学にさえ受かってしまえば。そうすれば、頭痛もめまいも治る気がした。あと2年。そう思うと長い。長いと思うと辛いから、1年と8カ月だと思うようにしていた。もし推薦で受かれば、1年半だ。
とはいえ、辛かった。いつからか、右京から笑顔が消えていた。親は、
「男の子なんて、家ではそんなもんでしょ。」
と言った。家では無口で不愛想。それが普通だと思っていた。それは、学校では友達と明るく楽しく過ごしている場合の話なのだが、学校でも無口で不愛想な右京が、正常なのかどうなのか。
昼休み。立候補演説を終えて教室に戻って来た右京は、教室の真ん中で机に突っ伏し、すやすやと眠っている一本木保(たもつ)を見て、思わずため息が出た。
(あいつは気楽でいいな。)
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