死に戻りして【ざまぁ】される未来を知った俺、今度は意地でも公爵令嬢と婚約破棄はしたくない

真嶋青

第1話

「ラインハルト、貴様を国外追放とする」


 謁見の間の最奥。憮然とした態度で椅子に座る王の言葉は、広間に良く響く。

 そして、それを聞いた誰もが息を呑んだ。

 それは沙汰を下された当人とて同じ……。

 

「国外……追放? そんな! 俺はこの国の第三王子なんですよ⁉」

「だからこそだ! この大馬鹿者め! 王族ともあろうものが、平民の女と浮気しただと⁈ ふざけるのも大概にしろよラインハルト! ワシは今すぐ貴様の一物と首を此処で叩き落としたいぐらいだ!」

「父上……話を聞いてくれ! お、俺はあの女に騙されて……」

「ヴィラール男爵家の長男に暴行を働いたのも女の所為か⁈ 他にも被害の報告は枚挙に暇がないわ! 浮気だけに留まらず、貴様の言動は目に余る! お前のような人間をこの国の王族としておくのは度し難いのだ!」

「で、ですが……」

「言い訳無用! どんな理由があれど、貴様は婚約者であるリーナ嬢を裏切り、多くの人間に迷惑を掛けた! ワシの息子なら男らしく自らの罪を償え! 最後くらい王族としての矜持を見せてみよ!」


 ラインハルトは助けを求めて周囲の人間を見回すが、誰も彼を助けようとはしない。

 それどころか、絶望する彼を見てニヤニヤと嘲りの籠った笑みを浮かべている者までいる。

 ざまぁみろ! そんな言葉が浮かんで見えそうな顔だ。

 

 ただ一人、ラインハルトと婚約関係にあったリーナ・エマニエルは彼を憐れむような目で見ている。

 しかし、それでも彼女がラインハルトを助けることはない。

 何故なら、彼女もまたラインハルトの被害者なのだから。


(どうしてだ……どうして俺は……こんなことに)


 もはや逃げ道など無いことをラインハルトも理解した。

 どうしようもない程に、これはもはや決定事項なのだと理解してしまったのだ。

 だから、彼が苦悶の声と共に絞り出したのは、下された罰を受け入れる言葉だけだった。

 

「……くっ……承知、いたしました…………」


 その日、マーランド王国の第三王子であるラインハルト・マーランドは王国からその姿を消した。


 国外へ追放された直後、彼は盗賊に襲われてあっさりとその命を落とす。


 こうして、バカ王子として語り継がれるラインハルトという男の滑稽な人生は幕を閉じる――かのように思われた。


 


(あれ? なんかチンコがぬくい?)


 意識を取り戻したその時、ラインハルトが最初に抱いたのはそんなバカな感想だった。


 ◆


(おかしい、俺は盗賊に襲われて……それで…………その先が思い出せない)


 ラインハルトは困惑していた。

 目の前に広がる光景と、意識を取り戻す寸前の記憶が嚙み合わないからだ。

 そして、どうにも見覚えのある景色。殆ど物が置かれていない簡素な一室。


(なんだ、確かに覚えがある。それも、凄くインパクトのある経験をしたような……)


 何かを思い出しそうで思い出せない。

 ラインハルトは必死に考えるが、あることがそれを邪魔している。


「それにしても、チンコがムズムズするな」


 ラインハルトはそんな言葉と共に股間に手をやると、サラリとした感触の何かに手が当たった。

 まるで人の髪のような――否、まさにそうなのだろう。

 

「んふ……」


 ラインハルトに触れられ、彼の下腹部の辺りから女の艶のある笑い声が聞こえてくる。

 ラインハルトはその声を聞いた瞬間にハッとした。


「そ、その声は⁉ ファラか‼」

「はい? どうしたんですかラインハルト様?」


 目線を下げれば、そこには下着姿の女が一人。

 ラインハルトが通う学園の女生徒――ファラ・ランドルフ。

 ラインハルトの浮気相手であり、彼が国外追放という厳しい罰を下される元凶となった女。

 彼が追放された後は顔の1つも見せなかった女が、今まさに目の前でをおっぱじめる準備をしている。

 ラインハルトは理解不能な状況にさらに困惑した。


「お前……どうしてこんなところに…………」

「こんなところって……ここは私の寝室なんですけど…………」

「なん……だと?」

「ラインハルト様が人目に付かない場所をご所望だったので……。やはり、王族であるラインハルト様には手狭でしたか?」

「いや、狭いとか広いとかじゃなくて……」


 ベッドのサイズはそれなりだ。このサイズで狭いと抜かす奴は相当にアクロバティックなおせっせをするのだろう。

 だが、今はそれどころじゃない。


(いったい何がどうなっている⁉ 俺は確かに山の中で山賊に襲われていたはず……それがどうして‼ だが、確かにそうだ……見覚えがあると思ったが間違いない。ここはファラと初夜を迎えた彼女の寝室……まさか⁉)


「おい、今は何日だ?」

「えぇ? 突然どうしたんです? もしかして、記念日を覚えようとしてくれてます?」

「記念日? 何のだ?」

「それはもちろん、私とラインハルト様の……キャッ!」

 

 黄色い声を上げて頬を赤く染めるファラ。

 気娘のような反応だが、ラインハルトは知っている。


(何が「キャッ」だ! このビチグソ女め!)

 

 そして、ラインハルトは状況を理解した。


「だが、そうか……俺は、戻ってきたのか……あの夜に……!」

 

 思わず全裸でガッツポーズをとるラインハルト。

 そして困惑するファラ。

 誰かが見れば3度見はするだろう光景がそこにあった。

 

「あの、本当にどうしたんですラインハルト様? もしかして、お加減が――」

「ファラ、とりあえず俺のチンポを離せ。話はそれからだ」


 そそり立つ一物を握るファラに、ラインハルトは厳しい口調でそう告げるのであった。

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