67話 修理屋リューク


 小さな小屋の前に立つ。

 ただ、全員が全員小屋の中に入るのを躊躇っていた。

 そう。俺も少し躊躇っている。

 異様なまでの気配が小屋の中からする。

 圧倒とは違う。これは───強者が自身を弱者と信じ込み隠れているつもりというある意味どうしようもないやつだ。

 例えるなら…気弱なフランケンシュタインが気を張っている?

 扉をノックする。

「…はい」

「こちらで携帯コンロを修理できると聞いたのですが」

「…入れ」

 扉を開ける。

 小屋の奥に1人の男性がいた。

 身長は190センチ位か、筋肉質な体つきで髪は短く目つきは鋭い。

 俺は事前に取りだしておいた携帯コンロとその破片をテーブルの上に置く。

「………2刻だ」

「了解。では夕方に取りに伺います。ああ、甘い物は?」

「…好物だ」

「ではお土産も持ってきます。では」

 それだけ言って小屋を出た。

 うん。地球でも会ったタイプだ。

 バカみたいに強い超陰キャコミュ障だ。

 趣味は鍛錬。

 しかし過去のトラウマなのか他者に怯え挙動不審と吃音をよく起こしていた。

 小屋で見た彼は一度考えてゆっくりと言葉を単語として発する方法で解決したというわけだ。

 俺もそんなに人付き合いは得意では無いからなぁ…うん。

「えっと、大丈夫でしたか?」

 副神官長が声を掛けてきた。

「人見知りなだけのいい人でしたよ。夕方また取りに来ます」

「「え?人見知り?」」

「恐らく人の視線が苦手なんでしょう。視線をずらしたらこちらを見ていたので」

「「ええええ?」」

 副神官長とアスハロアが俺から少し離れて話し合いを始めた。


「彼、うちの暗部ですよね?」

「そう聞いたことがありますね」

「神官長直属の暗殺者ではありませんでしたか?」

「あっ、なんか聞き覚えが…数年前の教皇様暗殺未遂事件で…」

「そうそうそれ!証拠が無かったから公には動かなかったけど暗殺者が動いて帝国の軍務卿を暗殺したらしいわ」

「えっ?…何処の情報ですか?」

「法国のルイさん」

「……副神官長…」


 2人が戻ってきた。

「ちょっと事実確認をしていました~」

「そうですね…彼、ちょーーーっと対人対応が苦手なようですね」

 アスハロアと副神官長がそう言っているが、視線を合わせない。

 別に良いんだけどな?

「では戻りましょうか」

 俺らは小屋を後にした。



 部屋に戻ってきた。

 コンロは使えないが、俺にはパールが居る。

「パール、少し火をもらえないかな?」

 何故か俺のベッドの上でゴロゴロしているパールに声を掛けるとむくりと起き上がりやってきた。

 因みにナーパもその隣でゴロゴロしていた。

「火?暫く残る火?」

「できれば」

 俺はそう言って壺状に形成した障壁の口を向ける。

「はい」

 パールがその壺目掛けて火球を放り込む。

 一瞬だけ火柱が上がり、後は壺の中で火の玉が揺らめいている。

 よし。これでまずは揚げ物の続きをして…続いては飴玉作りをしようか…

 まずは蜂蜜飴を作って、次に普通の飴玉だな。

 今後の予定を考えながらドーナツ作成をしていく。

 食らいつかんばかりの勢いで2人が近寄ってくるが…油はねが危険だから離れて欲しい。

 シュワー、ジュワーといい音を立てて油の中へと生地が入って行く。

 リングドーナツと、日本的なチュロ(粉砂糖がけ)をどんどん作って行くが…

「おい?」

 白金達がそれらをせっせと収納していく。

「今6個収納したな?これで女神の分は終わりだ」

 そう言うと白金達はフッと消えた。

 残りは4つしか残ってねぇ…まあご機嫌伺いと諦めよう。

 俺はため息を吐き、残りの生地を油の中に投入した。



 夕食後、携帯コンロを取りに小屋へと向かう。

 夜になるとあの時のような気配は一切無くなった。

 ドアをノックする。

「……入ってくれ」

「失礼します」

 やはり1人で来たのが正解だったようだ。

「出来上がっている。確認してくれ」

 テーブルの上にあった携帯コンロは何事もなかったかのような状態だった。

「外見の修理と設置時の安定性の向上、そして回路を弄って変換効率の上昇を行っておいた」

「ありがとうございます。これは対価という事で…」

 俺はドーナツと飴玉各種、そして皇法国で購入した稀少金属を少量テーブルの上に置いた。

「これは…!」

「回路など弄る場合は必要な物ですよね?」

「…ああ。しかし、何故」

「この部屋を見れば修理よりも物作りが好きなのだろうなと。あと、人と接するのが苦手ですよね?色々話そうとして口から出なくなってしまうとか」

 男は目を見開いた。

「知人にも居たので…見た目は貴方のような体格。暗殺術を嗜み修行好き…ただ彼は大の甘党でスイーツショップをする事になりました」

「!?」

「ああ、対面接客等雑事はまったく出来ない人間でしたから全て他人に任せていましたよ」

「…その手があったか!」

 唇をワナワナと震わせさっき以上に目を見開いている。

「貴方のことを損得無く見てくれている人、もしくは損得のみでキッチリ見極めている人がいればその人を頼って雑事一切任せたらどうでしょうか。

 それならばあんな昼間は人が来ないようにと必死に気を張る必要は無いかと」

「───そう、だな…考えてみる」

「では、失礼します」

 俺は一礼して小屋を出た。

 しかし本当に稲郷のおじさんに似ていたなぁ…異世界にも似た人は居るという事か。勉強になるな…


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