第31話 世の中分からないことだらけ
◆◇◆◇◆◇
四店目のドラッグストアでやっとソフィアが必要だという医薬品が見つかった。
だが、ここまでで思ったよりも数が残っていなかったため、今のうちに出来るだけの数を確保することにした。
俺も道中のアウトドアショップで調達したクーラーボックスの中に、ドラッグストアに残っていた無事なアイスや冷食を確保したりなどしていた。
四店目のドラッグストアまででクーラーボックス内はいっぱいになっていたので、以降のドラッグストアではソフィアを店の出入り口で待つだけになるはずだったのだが、そうもいかなかった。
「つまり、物資を調達したいから店内に入りたいと」
六店目のドラッグストアにソフィアが入店して間もなく、他の人間達が店にやってきた。
男五人女三人の十代二十代ぐらいの若者達で、全員が包丁や角材、鉄パイプなどで武装している。
出入り口前に停めた車に寄り掛かり、これ見よがしに身の丈もある自作グレイヴを見せびらかしながら目的を尋ねたところ、警戒心剥き出しのまま物資調達が目的だと答えてきた。
まぁ、そりゃそうだろうな、と思いつつ、グレイヴを持つ逆の手で拳銃も見せ付けながら言葉を続ける。
「入れてやりたいところだけど、今連れが店内にいてね。君達がどういう人間か分からないから、連れが店内にいるうちは通すわけにはいかないな。だから少し待っていてくれ。俺達が去った後は好きに入店してくれていいとも」
至極真っ当なことを告げただけなのだが、どうやら俺の態度が気に食わなかったらしく、武器を構えたまま罵詈雑言を浴びせてきた。
「オッさんか……初対面の相手に対して言う言葉じゃないな」
十代後半のソフィアはお兄さん呼びをしてくるというのに、やっぱり他人の呼び方一つだけでも、相手の育ちの善し悪しが分かるよな。
「良いことを教えてあげよう。口は災いの元という言葉があるが、今の世の中での災いとは、死を意味するということをね」
一番調子に乗って口汚く罵ってきていた汚い金髪のプリン頭男に向かって、拳銃の引き金を引いた。
一応調子に乗るだけあってプリン頭男は銃弾をギリギリで避けてみせた。
プリン頭男はしゃがんで避けた体勢のまま両手にサバイバルナイフを持って此方に駆けてきた。
随分と慣れた動きなので、対人戦は初めてではないようだと思いながら、そのまま下から掬い上げるようにしてグレイヴを振るう。
銃弾よりも迫るのが速かったからか、単に自信の表れか。
迫るグレイヴの剣刃を二つのサバイバルナイフを交差させて受け止めようとしてきた。
「それは悪手……おや?」
今の自作グレイヴは骨カラスの爪と怪物トカゲの小骨だけでなく、〈錬金鎧〉による謎金属を表面に纏わせていた。
内部にも液体のように浸透させており、切れ味も強度も以前より数段階上がっている。
だからまぁ、防御のために構えた二つのサバイバルナイフごとプリン頭男が真っ二つになるのは分かるのだが、その際に放たれた……衝撃波? いや剣圧? 的な力によって、プリン頭男に続いて向かってきていた男二人と、呑気に突っ立っていた女一人までもが真っ二つになってしまった。
「はて? コレはいつ得た力だろうか?」
仲間が一気に四人も死んでパニックになっている残りの四人を銃撃しつつ、新生グレイヴをマジマジと見る。
ソフィアの〈風刃〉に似ていたが、なんとなく違う気がする。
先日までのデカウサギ狩りの時にはなかった現象だが、これまでとの違いは特に思い付かない。
強いて挙げるなら、さっきスケルトンを倒したことぐらいだが、おそらく違う。
銃弾による痛みで呻きながら命乞いをする四人の声を無視し、彼らに向かってグレイヴを適当に振るう。
だが、次は剣刃から何も放たれなかった。
「んー? 条件でもあるのか?」
或いは力を使うという意思とかかな。
さっきはサバイバルナイフごとプリン頭男を真っ二つにするつもりで振るったから、あり得ない話ではないだろう。
試しに必ず倒すという殺意を乗せてグレイヴを横薙ぎに振るうと、今度は剣刃の軌道に沿って衝撃波が放たれた。
初撃の衝撃波以上に鋭く速い一撃は、見事に彼らを両断してみせた。
「なるほど……コレもカロリーを消費するのか」
「お兄さんも〈風刃〉を手に入れたのデスカ?」
少し前から出入り口の物陰から様子を窺っていたソフィアが、開口一番にそんなことを尋ねてきた。
相手が相手だからか、俺が容赦なく倒したことを気にした様子はない。慣れって怖いね。
「いや、おそらく違う能力だ。魔法系よりも出し難い感じがする」
少なくとも、〈炎熱掌〉の炎や〈錬金鎧〉の謎金属を生み出す際の感覚とは違う。
「必殺技系とも違いますカ?」
「あー、言われてみれば近いかも。でも〈強蹴〉とは微妙に違う感じなんだよな。獲得したキッカケも不明だし」
「うーん、謎デスネ」
「謎だなー」
まぁ、今の世の中分からないことだらけだからな。
ネット上でも日々真偽の怪しい情報があがっているし、そのうち答えが見つかるだろう。
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