第15話 銃を両手に安全運転で



 ◆◇◆◇◆◇



「ーー良い眺めだな。住人もいなかったし、もうこのまま此処にするか。より良い場所があったら移り住めばいいし」



 マンション最上階のペントハウスのバルコニーから周囲を一望する。

 結構な高さがあるからか、地上に漂っていた腐臭や血の臭いがしない。

 眼下のゾンビ達の呻き声も〈超感覚〉で聴覚に意識を集中しない限り聞こえてこない。

 ペントハウスには元々誰かが住んでいたようだが、所々に埃が溜まっていたので、もう随分と戻って来ていないことが読み取れる。

 幸いにもマンションのインフラは無事だったので、食料さえ調達すれば住むのに問題はないだろう。



「とはいえ、まずは掃除からかな」



 窓を全開にして埃臭い室内の換気をしつつ、自動掃除ロボットと共に新居の掃除を開始した。


 久しぶりの大掃除だったが、体力も身体能力も高まっている今の俺が行えば汗をかくこともなく隅々まで綺麗にできた。

 拠点となるペントハウスの掃除を済ませると、次は駐車場に停めている車の中にある物資の運び出しだ。

 マンションの最上階にあるペントハウスから立体駐車場までは、それなりの高低差がある。

 エレベーターは動きはするが、それでも移動するのに多少時間がかかる。

 荷物を持って上がる際は仕方ないにしても、下りる時はもっと早く下りられないだろうか……。



「……今の俺なら此処から飛び降りても無事かな?」



 度重なるモンスター討伐による強化のおかげで、まさに超人と言える身体能力になっているが、具体的にどれほどのレベルかは分かっていない。

 SNS上には空を飛ぶ飛行機から身一つで飛び降りても平気だった、とかいう真偽の怪しい投稿もあったりした。

 流石にそこまでのレベルではないにしても、世界変革日以前の常識では測れない身体能力に至っているのは間違いない。

 だが、いきなり十階以上の高さから飛び降りるのは心理的ハードルが高すぎる。



「……徐々に試すか」



 身体能力テスト兼下降ショートカットを行うべく、必要素材を取りに出かけることにした。

 エレベーターで車がある階のとこまで下りて渡り廊下へと向かう。

 血の池地獄の如く真っ赤に染まった渡り廊下を通過する最中、渡り廊下を赤く染めるのに使った簡易金属棒が視界に入った。

 大量のゾンビの血肉に塗れたコレはもう使えないが、今から俺が行うことはこの簡易金属棒にヒントを得た物だ。


 一度車の元へと寄った後、直接地上へと飛び降り、軽く身体能力のテストを行う。

 流石に十メートル程度の高さではダメージは無く、余裕で着地することができた。

 そのまま渡り廊下の真下から近くにある別の駐車場に向かい、目的の物を探す。



「えっと……あー、飾ってあった写真と同じだしコレかな?」



 ペントハウス内には元住人の持ち物である大型バイクの写真が飾られていた。

 同じメーカーロゴの入った鍵もあったので敷地内にあると思っていたが、やはりバイク用の駐車場に停めてあった。

 コレに乗って必要素材を取りに向かうのだ。

 愛車となった装甲機動車を使わないのは、物理的に封鎖した立体駐車場から出すのが面倒だからだ。


 バイクに詳しくないので車種は知らないが写真で見た通り、なんか手放し運転でショットガンを撃てそうなゴツいバイクだな。

 そんな印象を抱いたことで、先ほど車からショットガンを回収しておいた。



「黒スーツとサングラスがあれば完璧だったな」



 鍵を差してエンジンをかけると、当然ながら敷地内にエンジン音が鳴り響いた。

 徐々に接近してくるゾンビに捕まる前に爆音を立てながら発進し、マンション敷地内の障害物を避けながら車道へと飛び出した。



「さて、ホームセンターに目的の物があるといいんだが」



 拠点となったマンションの近辺には様々なジャンルの店がある。

 その一つである某有名ホームセンターに向かってバイクを走らせた。

 それにしても中々の爽快感だ。

 帰りはバイクを乗り捨てて軽トラとかで帰るつもりだったが、後でバイクを拾いに行ってもいいかもしれない。

 今の俺ならバイクを持ち上げたまま音を立てずに走ることもできるだろう。



「……あっ、そもそも徒歩で行けば良かったか。ま、いいか」



 大型バイクに乗ってみたかったのだから仕方がない。

 誰かに迷惑をかけるわけでもないので楽しんでも構わないだろう。

 全く良い世の中になったものだ。



 

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