第24話 菱珪玉の生き方

「私としても、正直あまりに突然のことだったから、最初は信じられなかった。まさか、こんなに早く菱家へ戻る日が来るなんて」

 と言うと、菱珪玉は自らを嘲笑うかのように軽く冷笑した。

「もともとはいつまでいる予定だったんです?」

「さあ。でも、百里家での先例を考えると、おそらく二年以上だったんじゃないかな。少なくとも、半年以内で菱家へ戻るなんて言うのはまずありえないよ」

「と言うことは、上官家と菱家の間で何かが起こったということなのでしょうか?」

「うん。それも可能性としてあり得るし、もしかすると、百里家と菱家の間で何かが起こったということも考えられる。だって、百里家と上官家は一蓮托生の仲だし、どちらかに想定外のことが起これば、もう片方の家は必ず全力を尽くして手を打つだろうからね。共通の対立勢力である菱家に対しては特に」

 その時、上官景砂は初めて気づいた。菱珪玉の拳が固く握りしめられていることに。

「まあ、そんな話よりも、これからこの菱家で過ごすことについてなんだけどさ。君が必要とするものは、我々菱家ができる限り準備をすることにする。だから、その点だけは心配しなくてもいい。ただ、君の安全を考えてのことなんだけどさ、なるべくこの部屋からは出ない方がいい」

「どうして?」

 すると、菱珪玉は困り果てたように頭を数回かいてから言った。

「できれば、その理由も聞かない方がいい。菱家のことに関しては、知っていることが少ない人間ほど最後まで生き残れる確率が高くなるんだ」

「それなら、あなたは菱家の持つ秘密を何も知らずに今日まで生きてきたのですか?」

 だが、菱珪玉は冷笑しながら首を横に振った。それから、まるで人生最大の隠し事を打ち明けるかのような口調で言った。

「私の場合は、何も知らないふりをして生きてきたんだ。でないと、世子とはいえ、万一の時には口封じをされてしまうからね。人質程度じゃ済まない」

 その時、開かれた窓から陰険な目つきをした下僕が上官景砂を一瞥して通り過ぎた。たったそれだけのことで、菱珪玉は慌てて全ての窓を閉める。

「菱公子、なぜ窓を全て閉めるんです?」

「さっき通り過ぎた奴を見ただろう? あいつは、父が信頼している密偵なんだ。普段はああやって下僕のように振る舞っているが、いざという時には父の邪魔者を容赦なく消す」

「なるほど。••••••どうりで」

「何が?」

「いや、さっきあの人を見た時に、なんて狐のような顔をしているのだろう、と思っていたんです。だから、さっき菱公子の話を聞いてつい腑に落ちてしまって」

「はははっ。そうだね。でも、それは我々だけの秘密だからね」

 菱家に来てから初めて、菱珪玉の顔にも純真な笑みが漏れた。

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