006 エピローグ(残酷描写、鬱展開注意)
その後マティアスは、「魔族」の力を持つ「人間」すなわち「魔人」を名乗り、使役する魔物の大軍とともに王都を急襲。
彼が予測したとおり、統制を失った王国軍は戦いぶりに精彩を欠き壊滅、城も陥落した。
なお戦闘後、捕虜への拷問により刺客の黒幕は王都守備隊の大隊長であったことが判明。平民が勇者パーティの一員であったことが不満だったらしい。
その処刑方法は妻と娘を目の前で凌辱されたのち、三人まとめて生きたまま魔物に内臓を食われるという凄惨なもので、見物人には気を失う者が続出したが、マティアスは満足げに笑っていたという。
血の粛清はこれに留まらない。王家最後の生き残りである王女もまた、残酷な運命をまぬかれなかった。
「平民、それも父と兄の仇に犯されるのも屈辱だろうが……限界まで尊厳を踏みにじるなら、それだけじゃ足りない」
マティアスに純潔を散らされたあげく、犯罪奴隷たちの
王女は十四歳、名もなき赤子はわずか数分の生涯であった。
その首は
ともあれ、彼は国内の残党狩りと戦後処理を終えたところで「魔人王マティアス1世」を称し、
そして各地で捕らえた、あるいは降伏の証として差し出された姫や貴族令嬢たちをことごとく
むろんその子らは隷属の魔法によって絶対服従を強要されており、反乱を起こすことはできない。ドラグーンを急速に大国に成長させた原動力、それはまさに闇の魔力による、絶望という支配にほかならなかった。
マティアス1世は欲望のままに戦争と支配を重ね、やがて老衰により世を去る。
奇妙なのは、闇魔法の研究によって自らもアンデッドとして永らえることが可能であったにも関わらず、それをしなかったことだ。
宗教の影響とも、単に生きること自体に飽きただけとも言われ、歴史家や文学者の間でも意見の一致を見ない。孤独感から
また、彼は後継者を指名しなかった。
「余が死ねば隷属は解ける。なら後継者を指名しても無駄なことよ。誰が素直に聞くというのだ? 争うがよい。勝った者が王だ」
常々そう
当然、泥沼の後継者争いが勃発。
のみならず、混乱に乗じた他国の侵攻を受け、征服地域の離反も相次ぎ、魔人王が半生をかけて獲得した領土は、
王がこの事態を予測できなかったわけがない。いかなる意図で混乱を招く言動をしていたのだろうか?
諸説あるが、彼は広大な征服地はあくまでも自分「だけ」のものと考えており、最初から内乱で国が分裂することを望んでいたという見解が有力視されている。
それが当たっているかはともかく、絶えざる戦禍と抑圧、そして重税に苦しんだのは、言うまでもなく力を持たない
今日においては「まるでマティアス1世だ」とは相手を非難する常套句であり、それどころか新生児にこの名をつけることを禁ずる国や、儀式として彼の等身大人形に投石したのち火あぶりにする国さえ存在するのである。
かつては自分も平民として虐げられていたのに、力を手に入れて支配者の側に立ったとたん、民を踏みつけ一顧だにしなくなったマティアス1世。彼はリッチを撃退こそしたが、その心は確かに闇に染まっていた。
魔王がマティアス1世に替わっただけである。
考えようによっては、彼は魔王軍に敗北したのかもしれない。
ドラグーン王国は魔人王の死からおよそ四百年後、魔王カレン・オルダスによって領土の六割を回復するが、ここでは全体の復活には至らなかった。彼女は占領価値がコストに合わない僻地には見向きもしなかったのだ。
この辺りは、とにかく目に見えたもの全てを征服したいと考えたマティアス1世と、野心はあっても割に合わないことは嫌った魔王カレンの性格の差が出ている。男性と女性の違いもあろうか。
ドラグーン全土の再統一は魔王カレンからさらに約二百年、かの英傑、魔法皇帝グラトスの登場を待たねばならない。
グラトス皇帝によって、ドラグーンが帝国と名を変えて復活したのは、魔人王マティアス1世の死から六百十九年後のことであった。
【完】
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