祖父の通夜
三十年ほど前に亡くなった私の祖父は常に摺り足で歩いていたので近付いてくると足音だけで祖父だとわかりました。
そんな祖父のお通夜の事です。
時刻は午前三時頃、一時間ほど前から弔問客が来なくなったことから休憩というわけではないですが、一晩中遺体の傍に居たいという祖母一人を残して私や他の家族は一旦祖父の知人や遠縁の親戚などが集まっている談話室に行ってお礼の言葉を伝えたりしていた時でした。
突然、遺体のある部屋から玄関までずりずりと引き摺る様な音が移動したのをその場にいた全員が聞き、私を含めその場にいた全員はその音が祖父の足音だということで意見が一致しました。その音を聞いた瞬間に私は『祖父がどこか遠くへいってしまったのだ』と実感し、自然と涙が溢れてきました。
泣いていたのは私だけではなく、多くの人が泣いていました。
そんな中、母は流れる涙を拭って祖母のところへ行き、今の音の話をすると遺体の傍にいた祖母だけはその音を聞いていませんでした。
不思議なことってあるんですね。
因みにこれは祖母が亡くなった後で母から聞いたのですが、祖父は帰宅時に祖母と顔を会わせると必ず「ただいま」と言っていたとのことですが、「いってきます」とはただの一度も言ったことはないそうです。
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