ヒトは異能を選べない!
下駄箱の中に手紙があった。まさかラブレターなんじゃ……? と思って人目を気にして開いてみれば、『果たし状』と書かれてあった。
「まあそうだよなあ」
ラブレターを貰えるようなことをした覚えはないし、好意を寄せてくれる女の子の知り合いもいない。それを言ったら果たし状を貰う心当たりもないわけだが……。
場所は屋上か。決闘を望んでいるらしい。
放課後、屋上で待っていますと丸い字で書かれていた。果たし状という文字だけ墨汁で書かれた達筆で、中身については丸いおんなのこの字だった。筆跡で特定してくれと言っているようなものではないか?
というか果たし状を出した相手は女の子? いや、女の子に寄せた字って可能性も……。
「放課後か……、って、長くないか?」
現在は朝だ。一日、授業を終えてから屋上で決闘……? 普通は放課後の下駄箱に入れるよな? この手紙を入れた人物はかなり抜けているところがあるようだ。
教室に入ってクラス全体を見る。俺に視線を向ける生徒は……いるな、多い。人が入ってくれば自然と視線を向けるのだから仕方ない。決闘のための熱視線があればその人物が送り主という考えもあったが……、これじゃあ分からない。
仕方ない……果たし状の相手は放課後までお預けだ。筆跡を見る機会があれば、似ているかどうか意識して見ればいいかもしれない。
「――今日は文化祭で、クラスがなにをするのか決めたいと思います。案がある人は挙手してください。私が黒板に書き出しますので」
「お化け屋敷!」
「はい、お化け屋敷ですね……やしきは……ひらがなでいっか……」
文化祭実行委員の女生徒が黒板に案を書き出した。お化けやしき、巨大迷路、ミニ遊園地、きっさ店……などなど。難しい漢字はひらがなで書いている。
メガネをかけたできる生徒ってイメージだけど、彼女は勉強があまり得意ではなかった。メガネをかけている理由が必ずしも勉強ばかりしているから、ではないのだ。生まれつき目が悪い人だっているわけだし……。
「それと私の案ですけど、『格ゲーきっさ』はどうですか?」
格ゲー喫茶? 格闘ゲームが置いてある喫茶店……需要はあると思う。
提案者が実行委員長、というのが驚いたけど。
「それ委員長がやりたいだけでしょ。もうっ、格ゲーオタクなんだからー」
「そもそもゲーム機を持ち込んでいいの? お客さんが多いと一台じゃ足りないよね?」
「ゲーム機の持ち込みは……まあ、ばれなければいいのでは?」
「……
脇で見ていた先生が、当然ながら許可を出すことはなかった。委員長も想像通りだったようで、自分の案は黒板に書き出すことなく却下していた。
「確かに格ゲー喫茶は好きですけど、自分たちでやる必要はなかったですね」
言いながらも委員長は少し拗ねていて……本当はやりたかったんだろうなあ、と分かった。
クラス一同がそんな委員長の表情にほっこりしていると、彼女が手を打った。
「さて、どれにするか多数決を取りましょう。実現可能かどうかは置いておいて、どの出し物にみなさんが興味あるのか……それだけを見極めたいと思います」
個人的にはお化け屋敷だった。文化祭と言えばお化け屋敷と言ってもいいくらいには有名だろう。準備期間も当日も楽しい出し物だ。人生で一度くらいは体験したい……。プロが作ったお化け屋敷はいきたくないけどな。
多数決が始まり、最も多く票を集めたのはお化け屋敷だった。俺と同じ意見が多数なのかもいしれない……。
お化け屋敷を作った経験がない生徒が今年の文化祭でやってみようと思ったのかも……。人によっては小学校、中学校で作っていたかもしれないから――未経験側の意見からすれば、そういう経験も活きてくるから経験者がいてくれると心強い。
「ではお化け屋敷にしようと思います。異論はありますか?」
「他のクラスもお化け屋敷を選んでいたりしないの?」
「その場合は抽選で決まりますね。まあ、譲ってくれるのが一番ですが」
「だろうけど、譲ってくれる? どうせ抽選になる気がするけどねー」
「譲ってくれるのを待つのではなく、譲らせるのですよ。賢い人は相手を待ちませんから」
怖いことを言い出した。が、内容が分からないので注意もできなかった。
……委員長、なにをするつもりだ?
俺の視線に気づき、思っていることまで見破られていたようで、
「競合相手のことを調べます。知れば対抗策も、仕留め方も分かるでしょう?」
なるほど、頼りになる。だが、彼女が俺を狙った果たし状の相手でなければ――こんなにゾッとすることもなかったのになあ。
「……黒板の字……あぁ。筆跡が同じだなあ……」
見間違いでほしかったけれど、まるで狙って一致させているように同じだったのだから……きっと、彼女が果たし状の相手であることは確実で……。
照れ隠しで果たし状と書いて本当は告白だったとか、まあないよなあ。
放課後、約束通りに屋上へいくと――――いた。
四人いた。
屋上の柵を背に俺を待ち構えている四人の少女たち。
ひとりはもちろん氷室。氷室紗雪。じゃあ、他は……?
「あなたを呼び出した理由は分かるかしら? 分かるわよね? だって……あなたが最近噂の略奪者、でしょう?」
「…………」
「異能者から異能を奪っていると言う……。あなた自身が奪った異能を使えるわけではない、というのは既に調べがついているわ。あなたの横暴を、これ以上許すわけにはいかないの……こういう目に遭うと思わなかった、とは言わせないわ――
氷室がレンズの先から俺を睨む。……なるほど、全てばれているわけか。
「俺をここで仕留めて、どうするつもりなんだ?」
「奪った異能を返してもらえれば。既に他人へ譲渡しているのでしょう?」
「ああ、まあな」
「誰にどんな異能を渡したのか、全て説明しなさい」
「分かりやすくしてるけどな……そっちと違って」
俺の反抗的な態度に舌打ちし、氷室が異能を発動する。
――バチチィッ、と、
耳を貫く音と共に俺の足下の地面が穿たれた。
一瞬の閃光と目に見えない破壊力が飛んできた。
雷の異能。
そう、氷室紗雪の異能は――――雷を操る力。
き、気持ち悪い!!
「……異能者、なら……隣の人は……」
「あたしは
さらに隣の少女が答える。
「
「
まただ……、なんでこうも世の中の異能者は名前と異能が合っていないんだ!!
……だから俺がやるしかなかったんだ。異能者から異能を奪い取り、合った名前の人に異能を渡す。今回で言えば、土井の異能は氷室に渡すべきで、風間の異能は土井に渡すべきだ。
氷室という名前の異能者が雷を操るんじゃないよ、まったく分かってないなあ……っっ!!
「俺がしていることは世直しなんだよ、氷室さん……悪いけど、俺はもう止まれないよ」
「そうですか。なら戦いましょう――」
氷室の雷。火下の水。風間の土で、土井の氷。
文字にしてしまうとはっきりと分かる気持ち悪さだった。異能と名前は合わせてくれ……。
見ろ、俺を見習え。
俺の名前は横鳥で、異能だって相手の異能を奪う、横取なんだから!
…了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます