出会ったヤツを片っ端からTSさせてみた。〜そしたら最凶ヴィランと呼ばれるようになってしまった件

ななつき

第1話 TS伝道第0号

 男は転生した。そして生まれながらにして自分が願った事が叶わなかったことを理解し、涙を流した。

「何故だ、何故だァァァァァ!!何故!!!」


 その声は赤子の声として、「ばぶぅぅぅぅおぎゃぁああ!!!」と言う言葉になっていたが、知ったことでは無い。


「あらあら〜元気な赤ちゃんねぇ〜ほらーよちよち〜でしゅよ〜」


 そんな母親と見えたやつが必死にあやそうとも、男の心は絶対なる絶望に染められていた。


 絶え間なく泣く赤子はやがて精根尽き果てて眠りについた。

 母親はその鳴き声と泣く様子からこの子は大物になる。そう確信していたとさ。



 ◇◇◇


 男はかつて日本と呼ばれる国でサラリーマンという名の地獄を味わっていた。

 朝目を覚ますことを恐れ、アラームというクソッタレな必要アイテムを何度腹立たしいと思ったことか。

 日々精神と魂を燃やし尽くして、自分の生きるためのお金を稼ぐ愚行を犯し──、

 電車という名の牢獄はいつも同じ様相の人間をスクラップにしながら走り回る。


 そんな日々を15年続けた男【木原 政次】は、自分の髪が白くなっていくことの恐怖を何度も味わっていた。

 10歳だった時は自分は何者にでもなれるスーパーマンだと信じていた。そして自分がただの凡人に過ぎないことを15歳の時に知った。

 同期はさっさと上に上り、はたまたより優れた仕事を勝ち取って……さっさと消えていった。


 そして俺はある日

 仕事を急にやる気が無くなって、何もかもが嫌になって。家に帰ってひたすら快楽を求めてネットの海をさまよったのだった。

 そして彼は【TS化】(性別変換)というジャンルのものを見つけてしまったのだ。


「───素晴らしいじゃないか。うん、素晴らしい!……にしてもなんでこんなに俺の心は震えているんだろうか?」


 男には分からなかった。けれど何度も見るうちにようやく理解できたことがあった。

 それは──"TS化により性別が変わることによる羞恥心と環境の変化"が途方もなく羨ましかったということだ。

 既に35歳を過ぎた俺は、自分の環境が簡単に変化させれないことを知っていた。

 羞恥心なんて何度も味わいすぎて、最早慣れっこだった。


 だからこそ、性別の変化による存在しないはずの羞恥心を味わえる漫画のキャラクター達に男は嫉妬したのだ。


 そしてある日決めた。願った。男は次の人生では女に生まれ変わりたい、いや今の記憶を引き継いだまま女になって新たな人生を楽しみたい!と。


 ───うん、そしてその願いは全然叶わなかった。


 ◇◇◇◇



 男は死んだ。過労死である。

 繁忙期の仕事に追われた結果のこのザマに流石に哀れみを覚えた神様の手で彼は異世界転生を果たすのだった。


 ただし、神様は知らない。彼が願っていた事なんて。


 ◇◇◇◇


 そして冒頭に戻るって訳だ。


「やっぱさ、神様って人の話聞いてないんだなぁってワシ思うわけ。」


 男はそう言いながら魔法書を捲る手を止めてメモを書き記す。

 結局俺は【オータム・フォール】と言う名前の人間に転生した。男だった。


 あの時から既に58年が経過して、俺はほぼ老人になった。

 転生した世界には魔法があった。そしてそれはオータムを絶望からすくい上げる救いの手となったのだ。

 魔法はどうやら不可能を可能にする物すらあるらしい。


「ならば性別を変える魔法もあるのでは?!」


 そんな希望を抱いてからはや57年か。俺は諦めないで世界各地の魔法書やら伝承やらをひたすら漁っては試す事だけをしてきた。

 肩書き【賢者】なんてのも俺の夢を叶えるためには案外役に立ったかもな。

 世界各地を救っては何度も絶望し、その度に新たな情報を求めてダンジョンをさまよい───、


「……わしの命が尽きる前に、見つけられるのだろうかなぁ……」


 そんな事をふと考える年頃になっていた事にオータムはまたしても心から絶望した。


 ◇◇◇


 100が過ぎた。男は158歳になった今も必死にとあるギミックに挑み続けた。

 彼は偶々古代文明の遺跡に足を踏み入れた際、そこに閉じ込められてしまったのだ。

 そしてその中では時間すら完全に停止していた。


 それは彼にとって絶望になるはずだった。しかし彼はその遺跡の中で見つけたのだ。


【反転魔法】という魔法を。


 そして彼はその魔法を必死に覚えることにその生涯を費やした。その時間実に300。458歳となったオータムは遂にその魔法を理解し……そして遺跡から出ることが出来たのだ。


 出た後彼はまっさきに自分にその魔法を試した。

 薄汚れた肌、汚らしくなった瞳、しわしわと呼ぶのもおこがましいほどの自分の年齢を───、


【反転】させたのだ。その結果彼は18歳程の見た目に若返った。さらに────、


「…………ははっ、夢、ゆ、夢……夢じゃないよな……はは……っッッッ!!やった、やったぞ!!!!!!!俺はやったんだぁ!!!」


 オータムは真っ裸になりながら、その言葉を叫ぶ。


……俺はなったんだ!!!!!!」


 男は近くの池に行き、その姿を改めて見つめる。

 黒髪の美人……それがオータムだった。

 胸筋は発達し、2つの膨らみとなって手に重さを届けて。

 かつてから見飽きてしまったはずの陰部は……しっかりと溝があった。


 男(女)は喜びのあまり、暫く飛び回ったあと──、


 そうだ、TSのすばらしさを……改めてこの世界に広めよう!

 そんな事を考え出したのだ。

 ────こうして始まるのは、狂気にして凶気の異世界TS伝道奇譚。


 その日、世界に一匹の恐怖を振りまく存在が解き放たれたことを……世界はまだ知らない。





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