第9話 嫌われ者。

 そして、二人は戻って来たが……姿は、全く変わらずフロックは、人間で——エリアルは、カエルのままだった。


「ねぇー!!! 本当に、治るのよね!」


「ああ、少し経てば元の姿に戻るから心配するな。

 それに、この姿なら……逃げなくても良くなったから——こっちの方が都合がいい」


「あんたは、いいかも知れないけど……私は、アンタの代わりに首を刎ねられるなんて嫌よ!」


「それはないだろ!

 色も違うし、見た目も少し違うから」


「いや、人間には区別つけにくいわよ!」


「大丈夫、大丈夫! もし、捕まったとしても

 時間が経てば治るんだから。見逃してくれるよ。

 だから、今は——とりあえず街に行って何か食べよう!」


「この姿で!? 嫌よ! 絶対に嫌!!!」


「でも、このまま——ずっと森にいる訳にはいかないし……


「別にいいじゃない! このまま、姿が戻るまで森に隠れていれば」


「でも、そしたら……お前、本能で虫食う事になるぞ——。

 さっきから、虫が通るたびにヨダレが凄い垂れている……」


「えっ!? 嘘……じゅるッ……

 本当だ! えっ!? 私、虫を食べたがっているの?」


「誰も本能には、逆らえない」


「いや、そんなの嫌!!!」


「だろ! だから、街行って食事をしよう。

 そうすれば、治るから」


そうして、納得したエリアルを連れて街に向かった。



「エリアル、気にするなよ。

 誰もお前がカエルになったなんて、気づかないんだから堂々としてれば良いんだよ」


「分かってるけど……人の目が気になるのよ」


「そうか……? 俺は、気にした事無いから分からねーや」


「あんたも少しは、気にしなさいよ! 元は、人間だったのだから……」


 そんな事を話しながら店を探すと


「エリアル! いつもの——あの店にしようぜ」


 そう言ってフロックが指を差した先には、私達が初めて会ったテラスのある。

 あの、お店だった。


 そして、店に入ると外のテラス席に案内されるとウェイトレスの女の子が水を持って来てくれた。


「いらっしゃいませ〜〜ご注文は、何になさいますか?」


 軽く挨拶をしたウェイトレスは、フロックにはコップを丁寧に置いたが……

 私は、ゴトンッ! と、音が鳴るくらい雑に置かれた。


「いつものサンドイッチで!」


「いつものと言われましても……貴方みたいなイケメン初めて見ました! キャハッ……」


「フランスパンに、レタスとハムを挟んだヤツです。私もそれで、お願いします」


「チッ……気安く話しかけんなよ」


「えっ……?」『私に言ってるの……?』


「かしこまりました〜〜……」


 すると、ウェイトレスの女の子が何かを落とした。

 フロックが、それを取ろうとテーブルの下に潜り込むと……

 ウェイトレスの女の子は、エリアルに顔を近づけると——

「イケメンと居るからって、調子に乗んなよ! このカエル女が!!!」


そして、顔に唾を吐きかけて来た!


「えっ……えっ……」


「あっ! これどうぞ……

 エリアル? 顔色が悪いけど、どうした?」


「ありがとうございます!」


 そう元気よく挨拶をするとウェイトレスの女の子は、その場から居なくなる。


「……フロック……あの子……怖い……唾かけられた……」


「あの子か……あの子は、彼氏に振られると

いつも、唾をかけて来るんだよ。

 そうか……今日は、お前がかけられたのか」


「あなたは、いつも……あんな事をされているの?」


「いつもでは無いけど……たまにだよ。アハハハハハッ」


そう言って笑うフロックを見て……


「何で怒らないの?」


「別に、怒る事でもないだろ!? 唾をかけられるくらい。

 むしろ、ご褒美と喜んでるオッサンを見た事もあるぞ!」


「オッサンなんて、どうでも良いのよ!

 あなたは、嬉しくはないでしょ!!!」


「嬉しくは無いが……怒るほどでも無い。

でも、エリアルが嫌な思いをしたのなら……」


 そして、ウェイトレスがサンドイッチを運んで来た。


「こちらが、レタスとハムのサンドイッチになります!」


 そのサンドイッチをフロックには、丁寧に渡したが……エリアルには、テーブルに叩きつけるように潰して渡した。


「はい、これ! 早く食べなさい!」


「……君!? 俺の仲間に、酷くないか?」


「あっ……ごめんなさい。

 つい、カエルだから——別に良いかなぁ〜と思って!」


「ふざけるな!」


 そして、フロックはテーブルに置かれたコップを持つとウェイトレスに、水をかけた。


「きゃッ! 冷た〜いッ——何するのよ!!!」


すると、奥から店の主人が飛んで出て来た!


「どうなさいましたか? お客様……」


「この子が、僕の仲間に失礼を働いだんだ!」


「それは、申し訳ございません。お客様……

 しかし、お客様のお連れの方はカエルで、いらしいますよね」


「それが、どうした!? 見た目なんて関係ないだろ!」


「この店は、人間が食事をする場所でございます。

 その場に、魔物を——しかも、カエルの入店を許しているだけでも感謝して欲しいくらいです!

 いえ、お客様が悪い訳では決してございません。 このカエルが、悪いと言っているだけですので……」


「ふざけるな!!! こんな店、出るぞ——エリアル!!!」


「えっ……ええ……」


 そうして、お会計をテーブルに叩きつけると——フロックは……


「サンドイッチは、テイクアウトお願いします!」


『サンドイッチは、お持ち帰りするのね……』


 そう言って、店を出ようとすると


 店の主人が……


「お客様! お会計が足りません……」


「………………」


 そして、エリアルが——


「これで足りるでしょ! お釣りは、要らないわ!」


 そうして、店を出た——。


「何で、あんたって——そう言うところ、ちょっと惜しいのよ! 恥ずかしかったじゃない

 でも……怒ってくれたのは、嬉しかったゎ」



「……でも、何で!? この街の人達は、魔物をそんなに嫌うのか?

 攻撃をして来るって事は、怖いって訳ではないはずなんだよなぁ〜……」


「確かに、そうね。

 この街の人の貴方カエルに対する態度は、少し異常な所があるわね……」


 そして、二人はサンドイッチを食べながら……そんな事を考えていると


 フロックがキョロキョロと周りを見渡し出した。


「どうしたの? フロック……?」


「別に、どうもしてないけど」


「いや、さっきからキョロキョロして……

 てか! その行動ってカエルだからじゃなくて人間でもするのね。

 やめた方が良いわよ! そんなに人を舐め回すように見るの……いつも、気持ち悪がられているじゃない」


「気にするな。昔からの癖だ!」


 そして、フロックはたまにすれ違った人に触れる。


「あんたは、そんな事をしているから……

 体液がついたとか言われて怒れて、嫌われるのよ! 人にやたら無闇に触れちゃダメよ」


 しかし、カエルではないフロックに触れられた者たちは嫌がるどころか——少し喜んでいた。


 イケメン恐るべし……女性だけではなく、男性まで顔を赤らめている。


『それは、ちょっと違うと思うけど……』


「やっぱり、体液が出せるカエルの姿じゃねーと難しいな……」


「あんた、何やってるの?」


「ただのメディカルチェックと治療だ!」


「すれ違う人みんなに、そんな事をしていたの?」


「皆んなではないが、目についた者だけだ!」


「何の為に?」


「何の為? そんなの怪我している人がいたら治療するに決まってるだろ!」


「頼まれてもいないのに?」


「頼まれるも何も……自分自身の怪我にするら気づいてないヤツばかりだ! 頼まれるはずないだろ。

 ほら、あそこのばーさんを見ろ! 腰と膝に少しダメージがある」


 すると、フロックはお婆さんの腰と膝を目にも止まらぬ速さで回復する。


「本当なら、バンテリンを配合した体液をつけてやるんだがな……」


 そんな事を言いながら、次は——すれ違った冒険者達を瞬時に治す。


「あの女の人は、手首を疲労骨折していたな……これだから冒険者は、体が頑丈に出来ている分、怪我に気付きにくい。

 この戦士は、肩から胸にかけて怪我をしている。雑な手当てしかしていないのか……

 本当に、どいつもこいつも——もっと、自分の体を大事にしろ!!!」


「あんたは、ちゃんと説明してから治療しなさいよ。

 だから、怒られるんでしょ!」


「毎日、4・50人くらい治してるんだから。いちいち、説明してから回復なんてしてたら時間かかるだろ」


「そんなに治療してるの? 誰にも感謝されないのに——本当に、あんたって……

 しかも、前から思っていたのだけど……冒険者を助ける時も、治療する場所を瞬時に判断するなんて鑑定スキルでも持っているの?」


「鑑定スキルなんて使わなくても、常に相手の隙や弱点を見るようにしていると

 怪我の場所も特定出来るようになるぞ」


「戦闘で培った特技って事ね……」


「そんな事より、これからどうする?」


「相変わらず、自分の事には興味ないのね。

 そうね……この街に居ても、白い目で見られるだけだし。

 どうせなら、体が元に戻るまで街から離れていたいわね」


「なら、ダンジョンにでも潜るか!?」


「ダンジョン?」


「ああ、俺も余り行った事は無いが——せっかくカエルの姿なってるんだ!

 その体の使い方を教えてやるよ」


「別に、良いわよ。カエルの姿なる事なんて、もう無いから」


「そんな事を言うなよ! 便利だぞ、その体」


「でも、良いわ! ダンジョン——行きましょう。私も興味あるわ!」


 そして、二人はダンジョンへと向かった。

 

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