第32話 帰路

 レオナルドが隠し部屋を出た際のこと、彼はとある変化に気づいた。

(あれ?出入口の偽装がなくなってる?)

 隠し部屋の中からだと偽装は見えず、普通に水路と繋がって見えていたため、今気づいたのだ。

 レオナルドがそれを不思議に思っていると、

『おそらくは私の力を使っていたのでしょう』

 精霊から答えがあった。一瞬、レオナルドの肩が微かにビクッと上下する。

「そういう仕掛けだったのか……。って、考えただけで返事があるってやっぱ妙な感じだな」

 さすがにまだ違和感が大きいようだ。

『早く慣れてください』

(わかってるよ)

 レオナルドはこの感覚に早く慣れるため、頭の中で会話することにした。

 そうして、ここからまた警戒しながら進まなければならないのか、とちょっとげんなりしながらもレオナルドが、剣を抜いたところで―――、

『少し離れたところに魔力反応がありますね』

 精霊がそんなことを言った。

(何っ!?)

 精霊が魔力探知をできること、それに反応があること、二重の意味でレオナルドは驚いた。

『これは人間でしょうか。殺しに行きますか?』

(…近いのか?こっちに向かってきてたりするか?)

 レオナルドは精霊が言った「殺しに行きますか」を意識的に聞き流した。

『いえ、こちらに向かってきている様子はないですね』

(そっか……。じゃあ今は放っておこう。それはたぶんゴブリンだ)

『ゴブリン?』

(ああ、魔物の一種だよ)

『マモノ?』

 魔法のときと同じく精霊の知らない単語のようだ。

(もしかして知らないのか?)

『ええ。少なくともあそこにですから』

(そうなんだ……。魔物ってのは、まあ簡単言うと、体内に魔核っていう石を持つ生物だな。魔核っていうのは、空気中の魔素が体内で結晶化したものって言われてる。魔力も持ってるぞ?)

『なるほど……、魔物、ですか……』

(そんなことより、精霊は魔力探知もできるのか?)

『ええ。それなりの範囲でできますよ。この水路内くらいは余裕ですね。魔力を覚えれば相手の特定も可能です』

(マジか……)

 できるどころではない。とんでもなく高性能だ。魔法の魔力探知とはレベルが違っている。

(って、よくここが水路ってわかったな?)

『あなたと視覚を共有しただけですよ』

(そうですか……)

 精霊はさらりとまたとんでもないことを言ってくる。精霊にとっては大したことないのかもしれないが、レオナルドにとっては驚くべき事実ばかりだ。次々と出てくる精霊の高い能力にレオナルドは若干の呆れと疲れを滲ませるのだった。


 しかし、喜ばしいことも事実だった。精霊が魔力探知できるなら、速度を上げることができる。

(それならとりあえず水路を出るまで魔力探知をお願いできるかな?ゴブリンに遭遇しそうだったら教えてほしい)

『わかりました』

 レオナルドとしても長居したい場所ではないため、精霊の魔力探知を頼りに急ぎ水路を進み、行きの半分以下の時間で地上への扉の前にたどり着くのだった。


 レオナルドが地上に出ると、陽が沈みかけていた。

 できれば夕食の時間には間に合いたいため、レオナルドは歩調を速めて屋敷へと歩みを進めた。


 するとどうしたことだろうか。道行く人々がレオナルドとすれ違う度に、口元を押さえながら、まるで嫌なものを見るような目でチラチラ見てくるのだ。

(いったい何なんだ?さっきから……。どうして……?)

 レオナルドとしては、抜き身の武器を持っている訳ではないし、格好だっておかしなところはないはずで、見られる意味がわからない。

 その視線にレオナルドは何とも言えない居心地の悪さを感じた。

 するとレオナルドの思考と感情が伝わってしまったのか、

鬱陶うっとうしい視線ですね。殺しますか?』

 精霊がそんなことを言ってきた。

(しねえよ?水路のときもだけど、すぐ殺すことを誘ってくるなよ……)

 レオナルドはげんなりしながら否定する。水路でもそうだったが、二言目には殺したがるのをやめてほしい。

『もしかしたらあなたも殺してやりたいと思ってるのではないかと』

(あのな?俺はこんなことで人を殺したいなんて思わないからな?だからもう誘ったり―――)

『そうですか。ですが私としては殺せるならいつでも殺してやりたいので、つい言ってしまうのは仕方ないですね』

 レオナルドが誘ったりするな、と伝えようとしたところへ被せるようにして精霊は言い放った。

(そうかよ……)

 やめるつもりはないらしいとわかったレオナルドは諦めたようだ。というか、この程度なら問題ないと判断した、と言った方が正しいかもしれない。相手をするのがちょっと面倒だが、本当にただ言っているだけでゲームで言われていたように精神を汚染されているような感じもしないからだ。精霊契約によりレオナルドの意思に反しない、それが本当か念のため今しばらくは注意が必要だろうが……。とりあえずは口癖とでも考えることにする。


 そんなやり取りをしながらも、周囲からの視線を無視して歩き続けたレオナルドは屋敷を視界に収め、門前にアレンが立っているのを見つけた。

 アレンの方もレオナルドを見つけたようで、余程心配していたのだろう、破顔しながら駆け足で近づいてくる。

「レオナルド様!よかった!無事お戻りになられ――――うっ!?」

 だが、どうしたことかアレンはレオナルドの前に来ると最後まで言い切ることなく、手で口元を押さえた。動きが道中すれ違った人々と同じだ。

 そんなアレンにレオナルドはいったいどうしたのか、と首を傾げるのだった。


 ―――――あとがき――――――

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