第23話 思い込み1
鴻巣が、今まで僕たちが話してきたことをまとめた。
「整理しよう。まずは、中島のために痛み止めの入手。
すぐに職員室で騒ぎを起こしてもらおう。今から15分後を目処とする。保健室の篭原先生にも連絡する。それから、体育館と別棟がどうなっているかも聞く。
その間に、並榎は弓矢と北本は提供してくれる糸の準備を頼む。
そのあとは、救急車のタイミングで別案の作戦を実行する。消防署へ電話を掛け続けるんだ。救急車が来てくれるとなったら、体育館と体育別棟に
この、作戦方針に見落としはないか?」
僕たちは頭の中で反復する。
そこで岡部が口を開いた。
「職員室で蒼貂熊を誘き寄せる件だけど……。
蒼貂熊相手には同じ手は2度は効かないと考えるべきだ。それに、2頭で行動しているってことは、仲間内でなんらかのコミュニケーション手段を持っているということだ。一度見せた手は、他の個体にも通用しなくなると考えた方がいい。
だから、このあと、体育館側に蒼貂熊を誘き寄せるにしても、今回とは違う手が必要になると思った方がいい。さっき並榎が撃退できたのも、蒼貂熊の逃走というよりは撤退と取るべきだ。無秩序に逃げ惑ったのじゃなく、思わぬ負傷に仕切り直しを選んだんだよ。
だから職員室には、できるだけ稚拙な手で注意を惹いてもらいたいな」
なるほど、生物部の岡部が観察していてそう思うなら、それは正しいのだろう。なによりもその観察は論理的だ。
「わかった。これも職員室に伝える」
鴻巣がそう応じ、「これでいいか?」と全員の顔を見渡した。
「それでいいけど、1年生含めてここから駆け出したあとは、どこに行くの?
その場で解散して自宅に向かうにしても、自転車回収できたとしても蒼貂熊に追いつかれて各個に喰われるよ」
そう言ったのは、今まで黙って話を聞いていた漫研の横田
「決まっている。校門の先の1ブロック先の施設だ」
「あ、あそこか。確か……、地域防災センターだっけ?」
毎日見ている近い施設でも、日常で縁がないと具体的に名前を憶えてなんかない。
「そうだ。あそこには水と食料がある。毛布とトイレもあったはずだし、救急セットもあるだろう。しかも、1年と3年の全員が閉じ籠もっても大丈夫な量がある。倉庫だから頑丈で窓もなくて、蒼貂熊の侵入を許さない安全な場所だ。」
「……それって、私たち自身が入れないんじゃない?」
「それはいいな」なんて思う間もなく、横田の続いての指摘は厳しい。鴻巣、「防災」だけに自由に入れると思い込んでいたらしい。ぐっと詰まった。
そこで、ボランティア部の喜多が口を開く。
「俺たちは、一度見学に行ったことがある。だからあの建物はよく知っている。物資の出し入れは頑丈なシャッターを開けないとだけど、人の出入りはその横の扉だ。鍵はないけど、小さなアルミサッシのドアで、上半分がガラスのヤツだ。
だから、ガラス1枚は割る必要があるけど、蒼貂熊は横幅的にも入れないし大丈夫だろう。まぁ、不法侵入は緊急避難ということで、しかたないだろう」
おお、すごいな。よく知っているって、そんなヤツもいるんだな。
「じゃあ、そのときは喜多が先導して、上尾と走ってくれ」
鴻巣がそう役割を振って、喜多は頷いた。
「そろそろ、もういいかな。じゃあ並榎、頼んだぞ」
「応っ」
僕は自分に気合を入れながら返事をする。
そこへ……。
「言いにくいんだけど、保健室へ矢を射届けるのは並榎くんより私の方がいいと思う」
えっ、なんでだ、宮原?
あとがき
第24話 思い込み2
に続きます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます