第6話 崩壊
で……。
電柵程度のぴりぴり感では蒼貂熊はまったく怯まないし、5mを超える巨体を押し止める強度、跳躍力を考えるなら高さ12mは必要ってフェンスも当然のようにろくには作られなかった。こんなものを日本中の農地すべてに作ろうとしたら、国家予算が倍あっても厳しい。
こうして農業が崩壊すると、食料関係の産業から輸送に至るまで連鎖的に崩壊していった。なのに、旧来のマスコミは
そもそも、現在進行系で各産業が崩壊しつつある日本では、食料とか生活必需品を輸入に頼るしかなく、貿易輸入額の増加はうなぎのぼりだった。だから、この状態が続くことを諸外国は望み、法的にも外国からの世論工作を防げない以上、こういう結果になるしかないのは火を見るより明らかなことだった。
そして、諸外国には表向き、言い逃れ以上の大義名分があった。蒼貂熊に対して自衛隊を使わないと決めたのは日本人なのだから、そこから生じた被害に応じて求められるままに食料を売ってやることは、日本を助けてやっている善意以外のなにものでもないのだ、と。
こうなると、市井の誰もが考えることは同じだった。
残された手段として自衛のために少しでも頑丈な車を買い、集団で行動し、避難訓練をしてバリケードを築く練習をする。
せめて銃刀法に抵触しない範囲でなんらかの武器を持ちたかったけど、木刀で殴るとか投石程度では蒼貂熊に対して有効な防衛手段になりえず、だけど、有効ななにかを用意すると容赦なく警察から検挙された。
「銃刀法に引っかからない蒼貂熊駆除」なんて動画を上げたY0uTuberも、さっそく逮捕されBANされた。
僕には、警官の人的被害に耐えかねた警察が、蒼貂熊との戦いを放棄したようにしか見えなかった。そして、仕事をしているというポーズをとる角度を、鳥獣保護法と拡大解釈した銃刀法に変えたに違いない。それは結果として、人類より蒼貂熊の味方になったに等しかったんだ。
そんなことから、地方在住者は毎日、出没する蒼貂熊に完全な丸腰での対応を迫られた。運悪く出会ってしまったら、体長が5mもあってこちらを食べものとしか見ていない蒼貂熊に対し、「うつ伏せに寝てやり過ごせ」というクマに準じたマニュアルに従うことを求められた。もう、これ、正気の沙汰じゃない。
僕たちは、せめてもの現状への抵抗として、部活の道具を持ち歩くようになった。
これなら、たとえ武器未満であっても持ち歩きできる道具を大幅に増やすことができる。警官から職質を受けても、言い訳ができる範囲だったんだ。
そんな状況の中で、魔界から入り込む蒼貂熊の数は天井なしで増え、あまつさえこちらの山中で繁殖まで始めた。その総数はいつの間にか推定100万を超えるとも言われ、農畜産物から山中の鹿や猪までを食い尽くした。蒼貂熊は米や麦に対しては無関心だったから、巨体を維持するカロリーは、まずは肉食に偏っていたんだ。
だから、山中の野生動物を食い尽くしたそのあとは、当然のように人間が狩りの対象となった。そしてその場は、武装解除されていて肉が柔らかい若い個体が集まっている「学校」で、一斉に襲われだしたのが「今日」だったんだ。
あとがき
第7話 接近
に続きます。舞台は高校に戻ります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます