第16話 心と体ともう全部

――――――『一輝。どこにいる?』

『駅』

『どこの?』

『明日香とサボってよく行ったとこ。』


僕は明日香からの電話に出てそれだけ話して切った。



―――――――――無人駅。


僕の横に無言で明日香が座る。

僕は…明日香を抱き締めた。

抱き締めたけど、抱き締められてた。


「一輝、えらかったね。よく待ってたね。」

「……おせーんだよ。なんでもっと早く来ねーのよ。」

「ごめんね。」

「こんなに…明日香でいっぱいなのに。」

「……あんたこれやりすぎ。どうなったらこうなるの。」


僕の右腕を見て少し驚いてた。


「いっぱい噛んだ。噛んで今日少しだけ刺した。」

「なんでこんなことする前にあたし呼ばなかったの。」

「呼んでどうなんの。もう誰も俺の事分かってくれない。分かるわけない。頭おかしいだけ。」

「……一輝。この腕噛んでる時どう感じた?」

「…言いたくない。」



「どう感じた?」


『言いたくない』という答えを受け入れない。


「…明日香とキスしてる感じだった。ていうかそれ以上。もっともっと深いところで繋がってる気がした。…でもそんなの伝わんない。理解できない。頭悪いだけ…。もういいよ…。疲れた。こんな生き方したくない。『普通』になって『普通』の女といたい。」


「あたしは、あんたがいない間色々葛藤してた。新しいやつを探そうか、あんたを待つか、はたまたあたしがそういう相手を見つけるか。…でもね、答えなんてひとつしか無かったの。」

「俺なんか記憶から消せばよかったじゃん。俺だけ苦しめばいいんだよ。」


「あたしも一緒に苦しんでたの。あんたの体にもっともっとあたしの痕付けたかった。あんたの体にあるあたしの名前…もっともっと触れてたかった…。」

「じゃあやってよ!!ずっと俺見ててよ!!ずっと俺だけ構っててよ!!……誰も俺の事なんか理解してくれない!!俺、俺、明日香にいっぱいしてほしいのに!!明日香がいいのに!!…」


明日香はじっと僕の目を見て口付けて、首に爪の先を押し付けた。


「あたしが甘かったみたい。あんたが望んでるのは『フリ』でもなければ『ごっこ』でもない。まして『プレイ』でもなかった。本当に心の底からあたしを求めてたのに。そこに気づいてあげられなくてごめん。」

「だから分かるわけないんだよ…。だからもういい。」


「一輝。聞いて。」

「嫌だ。」

「…聞いて!」

「……。」


「私、遠慮してた。本当はもっともっとあんたを追い込みたかった。でも怖かった。やればやるほどあんたが遠くなる気がしてた。」

「ならない!なるわけない!」

「だから聞いて。」

「……。」


「本当にあたしの思うようにしていい?後悔しない?」

「俺、明日香のやり方嬉しかった。もっとして欲しかった。…足りなかった。」

「……そう。じゃあもう手加減しないから。。あたしも不安なの。だから縛り付けておきたいの。」


「……。」

「教えて?」

「して。…してください。もうやだ!!明日香に触れられてないのがやだ!!明日香にずっと触れてて欲しい!!……明日香!!……。はぁ…はぁ…はぁ…。」


「一輝?…落ち着いて。大丈夫だから。ゆっくり息して?…ゆっくり…吸って…吐いて…。大丈夫。大丈夫だよ。大丈夫…。」



僕は過呼吸を起こしていた。

以前にも明日香の前で爆発して起こしたことがある。。それだけ僕は明日香にためてしまう。溜めて、貯めて、吐き出すからこうなる。


でも、それでも僕は明日香を求めている。

心も体も、もう、全部、全部…。



「明日香!!…俺は明日香がいい!!……明日香が…。」


「しゃべらないで。先に呼吸整えてから。言いたいことは分かってるから。」


―――――――――――――――――――――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る