第11話 事の始末
夜中に家を出る事が増えた。
明日香が眠ると不安に襲われる。
『次に明日香が目を開けた時僕は捨てられる』
そんな恐怖が常に付きまとっていた。
ある日、また夜中に家を出ようとすると、
「一輝」と呼び止められた。
「なに」振り返ることも無く答えた。
「どこ行くの?」
「別に。」
僕は…ドアを開けて家を出た。
明日香は鍵を締めて追ってきた。
大きな橋の途中で止まって明日香を待った。
「どこまで行くの?」
「ちょっと先の公園」
「結構あるよ。」
「あそこが落ち着く。」
「なんかあった?」
「なんも。」
「ないのになんで?」
「…言ってどうなる?解決する?しねーからこうしてんだけど?お前に当たりたくねーから。解決しない事当たって仕方ねーだろ。別れるなら別れろよ。勝手にしろ。もういいから。」
明日香は一切顔色を変えることなく僕を抱き寄せた。
「それで?続き聞かせて?」
「…ごめん。」
「もう無いの?聞きたい。」
「……このままで居て。離れないで。」
「寂しかったの?」
「怖かった。」
「なにが?」
明日香が優しく僕に聞く。
「いつか…いつか、明日香が朝目覚ました時に俺を嫌いになってんじゃないかって。いっぱいしてくれた次の日に冷められてんじゃないかって。」
「そんなのあたしも一緒。あたしもその恐怖の中で日々生きてる。」
「そんなわけないじゃん。明日香みたいな賢くてデキル女がそんな事で悩むわけない。」
「…それ関係ある?」
「たまに外で仕事中の明日香見かけるんだよね。俺、仕事変えちゃったからさ、もう傍で見れなくなっちゃったんだけど、やっぱり…かっこいい。歩いてても話してても電話してても…かっこいい。」
「声かけてくれればいいのに。…あ、そうか。」
「そう。俺は、見てたかったの。端っこからでいいから大好きな明日香を見てたかった。それで、そんな明日香にまたいっぱい痕つけて欲しかった…。でもね、そんな頭おかしい俺の事いつか嫌いになるんじゃないかって。女々しいし、子供だし、嫌なとこばっか。普通になんてなれない。
怖い…怖い…。」
明日香は全部聞き終えると同じ背丈の僕にキスした。
「…靴のかかとでいじめて欲しい。」
「言えばいいのに。あたしはそういう頭のおかしいあんたが好きなんだから。」
「好きと付き合うこと相手することと、楽しんで付き合う事は全然別の事。いつか冷めて拒絶心が出てくる。本当は普通がいいのにってどっかで思ってるかもしれない。」
「一輝。」
「なに。」
「あんたの体、一番最初に
「明日香。」
「爪痕、噛み跡だらけにしたのは?」
「明日香。」
「……っ。」
明日香が僕の首に爪の先を押し付ける。
「勘違いしないで。私は『そこら辺の女』とは違う。自分の気に入った男にあたしの証を付けることが好き。あたしが付けた証を見てあたしを思ってくれることが好き。あたしで頭いっぱいにしてくれて、あたしが刻んだ痕のせいで、あたしを求めて頭も心も体も疼かせる男が好き。なんならその疼きでどうしょうもなくなって死にたいとさえ思ってしまうような男が好き。……これが演技で言えると思う?」
『そうさせた後の責任の取り方までちゃんと考えてる?これはプレイじゃないんだよ。方法なんだよ。そうであってほしいんだよ、それが分からないならもうお前なんか忘れたい。』
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