第13話 金鯱
最寄の名城公園駅を降車した
2番出口から地上に上がり公園へ歩いていく
御深井(おふけ)池のほとりまで進み、正面の上空を見上げる
三日月と点在する星々が淡く照らす名古屋城の天守に構えた金鯱2体を見据えた
酔いがシャチホコを霞ませその姿を4体に暈けさせた時、1時間ばかり前の喧騒を思い出した
・・・・
10月30日19時に千種駅で待ち合わせをした
「花美留!」
「千七菜」
チナナとハミルENを代表してクルムがいた
もう1人。
千七菜が紹介した
「クルムとミサキね、花美留」
「花美留です。宜しくお願いします」
相手の人間は3人だった
チナナはハミルEN側の人間とは言っても恋人だし、中立の筈だ
だから、クルムと1対1で話をする心積りで来た
「花美留、来夢と美咲は付き合っているの」
恋人を連れて来たのか
俺は千七菜との今後を見据えた上で、ハミルENの方針について真剣に論じ合う決意をしてきたのに
恋人の女を随伴させるとは、
このクルムという男に少しばかり不信感を感じた
「花美留さん、すいません。美咲がどうしても行きたいと言うので」
クルムが発した横で笑みを浮かべるミサキ
「そうですか。わかりました」
「じゃあ、行こう」
手羽先が看板メニューの居酒屋に4人で入った
奥のテーブル席についた
個室ではないが角奥の席で人の通りが割と少なく、会話がしやすいことに安心した
生ビールを注文して、手羽先とサラダや𩸽(ほっけ)に串数本を頼んだ
正面にクルム、斜めにミサキ
乾杯をした後、軽い自己紹介ついでに互いの仕事などの話をした
クルムは仏壇屋に勤務しているという、ミサキは和食屋で働いている
しばらく景気について会話した
僕とクルムの前に2杯目のビールが置かれたのを合図に、俺は切り出した
「来夢さん、ハミルENについてなんですけどね」
「ええ」
俺は切り出した
「ちょっと奇妙な決まり事ありますよね」
先制が肝心と敢えて嫌な言い方をした
「あゝ、結婚のことですね。千七菜から何となくは聞いています」
「そうですか。あの私はですね、チナナさんとの将来を真剣に考えてまして」
「ええ、そうですか。良かったね、千七菜」
当たり障りない微笑みを浮かべるチナナ
ハミルは続けた
「そのなんと言うかですね、結婚というのは既に自由ではないですか。というのはですね、してもしなくても自由ということです。結婚するのも自由だし、しないのも自由、婚姻制度は存在しているだけでそれに乗るかは本人次第ですよね」
「ええ、そうです」
「それを組織的に結婚を認めないという方針を執るのは道義的に誤りだと思うのですが」
「ええ、まあそうですね。本人の自由ですからね」
「そうでしょう」
穏やかだったクルムの表情の眉間あたりに力強さが加わった
「花美留さん。私達は婚姻制度自体を消し去りたいんです」
「消し去る」
「結婚するとかしないとか。そう言うことを考えること自体を消し去りたいんです。人間は生まれた時から、例外を除けば、結婚した夫婦の下に生まれる。つまり大勢にとって結婚と言うモノは当たり前なんです。制度そのものを肯定も否定もできない。当然のことなんです。だから結婚をするとか、しないとか2択なんです。その枠組の中でしか考えられない」
「いや、しかし」
「固定観念なんです。ステレオタイプ」
「結婚がですか?」
「そうです、婚姻制度の存在の是非を考える隙がないんです。婚姻制度を生き抜くことは当然、これステレオタイプです。別に当然ではないんです。変えられるんです。人間が作った制度なのですから人間が変えられるんです。でも植え付けられてるんです。ほら成人したあたり、いや子供の頃からですね。我々の脳裏には。小学生くらいの頃に思ったことないですか。大人になったらどんな人と結婚するのかな?結婚するのかな?できるかな?」
「それはまあ」
「支配されてるんです。生まれた時から。幼稚園、保育園の頃には幼いながらにかなり強く認識してしまう。ほら、なんて言うんですかね。勝手に肯定させられちゃってるっていう感じですかね。雰囲気、空気感とか。良いモノとしてです。悪いモノは変えようとしますけど、良いモノは変えようとしない。我々は制度自体を疑えないような束縛をされてきたんです」
美咲の前にレモンサワーが運ばれてきた
「おい、花美留。よく聞け」
「えっ」
酔ってるのか、この女
「幸せかどうか分からないだろ」
「えっ、な、なにが?」
「婚姻制度消してみないとだよ。比較できないだろ!完全に消してみないと比較できないんだよ。わかるか。婚姻制度がある生活ー。ない生活ー。ある生活は知ってるから、ない生活をしてみて、どっちが幸せかを確認するんだよ!」
確認・
完全に消してみないと比較できないってこと?
そのあと美咲の口に関所がなくなり、俺は閉口した
なんなんだこの女は
俺は来夢と話すつもりで。千七菜との未来を
この女はいわば外野なのになんなんだ
「その先に本当の幸せが待ってるかもしれないだろ!」
分が悪かった
俺側の意見を後押しする人間は、俺以外にいない
縋るように横に座っている千七菜の姿を確認した
恋人は当たり障りない笑みを浮かべていた
#HAMIRU
#ハミル
#クルム
#ミサキ
#チナナ
#ミステリH
#20241104
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