第2話 ミステリH ②


ハミルの仕事はタクシー運転手だ

近頃、転職を考え履歴書を書いている

齢40にして、新たな世界でもう一旗上げてみたいと思っていた

最後に配偶者欄の無に◯を囲みペンを置いた


「好きです」

この手紙を一昨日受け取ってから、

一人暮らしのハミルの挙動は妙なものだった

昨日一日だけで20回以上、時間にすれば2時間ほど

四文字を眺めていた

やや丸みを持った"好きです"の字筆は、女の小さな手のひらを想像させた


ハミルの脳の中は、恋犯人は先般にあげた3人の女の誰かということを強引に確定させていた。

妄想はとどまることを知らず、最果てに到達した脳内はそれぞれの女に白のドレスを、着替えさせた

着替の途中見た景色は、純白とは呼べぬIMAGINEであった


四文字が想像させた世界は充分なもので、

ハミルにマスターベーションを掻かせて

昨日を閉じた


・・・・


5月21日に手紙を受け取り

22日は仕事と文字に浸った

今日23日、さあ行こうか


21日の15:00から17:00のアリバイを確かめる


女は正体を明かすことを嫌った訳だから

当然、その気持ちは尊重しなくてはならない

直接対面してアリバイを探るとなると怪しまれるかもしれないし、不快な想いをさせるかもしれない


最初に接触するのは

その3人の女性全員と知人関係にある人間が最適である

何かしらの情報を掴める可能性が高い


いた

タスイという女がいて

タスイはチナナ、マンバ、ナツコ

全員と友人関係にある

しかも、タスイはサバサバした性格で

今我が身に起こっている現実を打ち明けやすい


ハミルはタスイにメッセージを送信した

AM9:32

(タスイさん、ちょっと聞きたいことがあるのでお時間いただけませんか)


タスイは役所勤めだから返信が来るのは昼になるだろうか。

ハミルの方は、PM1:00からPM10:00までの勤務予定であった。


タスイの噂を耳にしたことがあった。

ダイヤという男に告白され、たいそう喜んでいたという話しを聞いた。

だが、交際には至っていないと。

あの話しはどうなったのだろう。


本命はチナナだった。

本命というのは、犯人であってほしい相手。

浅く褐色の肌で明るいチナナ35歳は、太陽に似ていた。

年齢差も程良いだろうし、

もしチナナの恋の犯行だと分かれば、

いや、そうでなくても、

告白してみたいと思ってしまっていた。


昨日の妄想がチナナを過剰に愛してしまった。



(ハミル、どうしたん?ええけど、いつ?)

(タスイさん、明後日25日土曜日はいかがでしょう。

私は休みなので何時でもいいですが)

(うん、ええよ。14:00に熱田駅のカフェでお茶しよか)

(わかりました、ありがとうございます)

(うん)


AM10:42〜46

予想より早くやり取りが完了した。

小休憩であろうか。


笑みが零れた。

ハミルは洗面台に行き、自分の顔を見つめた。

キメ顔を探して、顎をやや右上、目線左下の栄光を見つけた。

AM10:50〜11:04

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る