第2話 強襲

 


 名も無き村の朝、静けさを突如けたたましい声が轟く。

 

 「た、大変だ!? 山賊だ! 山賊が襲って来たぞお!!」


 畑をやっていた俺の耳に、突然村人の焦り声が聞こえた。


 「村長さーん! 賊だー! 山賊が来たぞー!」


 「なにぃ!? またか! 今度は急じゃないか!」


 「3日前に襲って来たばかりだぞ!」


 農作業を一時中断し、俺は声のする方向へ目を向ける。


 村長と物見役との会話を聞き、また来たのかと辟易した。


 山賊団、ここ最近村の近くに拠点を構えたと思われる悪党共だ。


 3日前にもこの村を襲って来て、食料やお酒を強奪していった。


 その時は村の男衆で迎え撃ち、少しの怪我人だけ済んで追い返す事が出来たのだが。


 今回の襲撃はどこか、何かが違っていた。


 空気というのだろうか? 何かが違う気配がした。


 「女子供や戦えない者は村長ん家の納屋へ! 男衆は武器を持って集まれー!」


 それでも俺は、やれやれまたかと溜息を付きながら、自分の家へ駆けだす。


 家に到着すると、親父とお袋が慌てて準備していた。


 「親父、戦うのかよ?」


 「当たり前だろ! これ以上好きにさせるかってんだ!」


 「ホントだよ! ほらジョー! あんたもこの斧を持っておいき!」


 俺はお袋から木の伐採用の斧を受け取り、装備した。


 「こんなんで役に立つのかよ?」


 「無いよりマシだろ! ほら! 行った行った! 父ちゃんはもう行っちまったよ!」


 「はいはい、じゃあお袋は納屋で待機しててくれよ、この前みたいにフライパンで叩きに来るんじゃねえぞ。」


 「はっはっは、あの時の山賊の顔ったらなかったね~。」


 「笑い事じゃねえよ、じゃあ行って来るから、気を付けろよ。」


 「あんたもね、やられるんじゃないよ。危なくなったら逃げてくればいいからね。」


 「逃がしてくれればだけどな。」


 斧をしっかりと持ち、俺は親父の後を追う。


 村の中を移動中、幼馴染の女の子、カリーナと出会う。


 「カリーナ、急げよ。」


 「あんたも、ちょっとは役に立ちなさいよ!」


 「分かった分かった、兎に角急げよ。」


 俺は戦いに向いてないと自分でも思うのだが、襲って来る奴が居る以上、手加減は出来ないしそんな余裕も無い。


 降りかかる火の粉は振り払うぐらいしか考えていない。


 「もうじき収穫だってのに、山賊め。」


 いや、この時期を狙ったのかもしれない。相手は馬鹿じゃない。


 利口でもないが、間抜けではない。山賊なんてやってる連中は基本悪党だ。


 ならば襲って来るなら迎え撃つのみ、戦い方は知らないが、斧を振るぐらいは出来る。


 意気込みつつ駆け足で移動し、村の中央付近まで来た。


 村の男衆が集まっている、親父も居た。


 「遅いぞジョー!」


 「これでも駆け着けたよ。」


 「これで全員だな。」


 村長が男衆を見渡し、みんなに作戦を伝える。緊張が走る。


 「では、今回の襲撃は3日前と同じと思う。少数で村を襲い、その隙に食料庫を漁る、これだと思う。」


 村長が説明し、他の村人が意見を述べる。


 「本当に3日前と同じか? だったらいつも通りみんなで迎え撃てば恐いもの無しだな! 追い返そう!」


 「違いない、がっはっはっは!」


 そうだよな、山賊だって情けくらいあるだろう、皆殺しって事は無いよな。


 握りしめた斧は、何故か重たく感じた。


 農具とはいえ、人を殺める事の出来る道具だ、扱い方を間違えない様にしなくては。


 「おいジョー、今回はお前さんが納屋の守り役だ。しっかり女共を守るんだぞ。」


 「は、はい。」


 俺が護衛役か、なら前線に出なくても良いな。楽が出来そうだ。


 村の男衆は強い、農作業などで鍛えた身体は筋肉がしっかりと付いている。


 山賊相手に遅れは取らないと思う。


 親父も結構強かったりするから、まぁ大丈夫だろう。


 「き、来た!? 山賊だー!!」


 大声に緊張が走る、物見役がこちらへ駆けて来て、みんなに報告した。


 「大変だ! みんな! 逃げた方が良い! 山賊の数は20人ぐらい居るぞ!」


 「20人!? どうするみんな?」


 「戦おう村長! やれば出来る!」


 「そうだそうだ! 戦おう!」


 「うむ、そうじゃな、無抵抗なら死ぬだけだ。ならば戦うまで。」


 マジか、20人って言ったらそこそこ大勢だろ。敵うのかよ?


 「ジョー、納屋の守りは頼んだぞ。」


 親父はそう言って、みんなと村の外へ向かって行った。


  それから、どれくらいの時間が経ったのだろう。


 村の外の音は静かになった、先程まで聞こえていた怒号や剣戟の音が止んだ。


 静かになったので、納屋から一人出て来た。


 「外の様子はどうなったの?」


 「カリーナ、まだ出て来ちゃ駄目だ。早く中へ入って。」


 「だって、音が聞こえないんだもの。もう終わったんじゃないの?」


 「まだ安心は出来ない、兎に角納屋へ入ってろ。俺が様子を確かめに行ってくる。」


 「気を付けてよ、私は一応ヒールの回復魔法が使えるから。危なくなったら逃げてくるのよ。」


 「解ってるよ、じゃあ行ってくる。」


 斧を手に、俺は村の外へ向けて駆け出した。


 確かに音は止んでいる、だが静か過ぎる。何か嫌な予感がするな。


 そして、村の外で俺が見た光景は、凄惨な光景だった。


 「み、みんな………。」


 そこには、おびただしい数の死体の山。その向こうで笑い合う山賊たち。


 「がっはっはっは、手応えのねえ連中だったぜ!」


 「バレ! おめえが暴れるからだぞ、村人は数人は生かしとけって言ったろうが!」


 「リントンの頭、そうは言いやすがバレを野放しにしたのは失敗でしたねぇ。」


 「違いない、こいつは殺しが好きで仕方が無い奴ですからねえ。」


 「がっはっはっは! 俺は誰にも負けねえぜ! がっはっはっは!」


 「まったく、バレが暴れたせいでこの村はもう旨味がねえ。どこか余所へいかなきゃならねえぜ。ったくよお。」


 「ん? 頭、一人武装した奴が居ますぜ。どうします?」


 しまった!? 見つかった!


 俺はぼーっと立ち尽くしていた、あまりの光景に思考が追い付かない。


 「んなもん、てめー等で殺しとけ。おお、そうだった、この村の納屋に女が居たんだったな、おい! 誰か村の中へ入って様子を見て確かめてこい。」


 「へい、わかりやした。」


 くっ!? こいつ等! よくもみんなを!!


 させるか! させるもんかよ! 納屋に居る村人はやらせん!


 気付いた時には、俺は斧を握りしめて攻撃態勢に入っていた。


 頭に血が登っているせいか、俺の思考は鈍っていた。


 くそっ!? 頭が上手く回らない! 相手は20人の山賊、どうやったって勝てる訳が無い。


 どうする? そう思った瞬間だった、俺の頭に衝撃が走り、目がチカチカした。


 「おいおい、よそ見してっとお前の頭にくらわしちゃうぜ!」


 「ぎゃはははは!」


 「くそっ!?」


 石か何かが俺の頭に直撃したらしい、頭がズキズキ痛む。


 手を拭うとべったりと血が付いていた、くそう。もうここまでか。


 情けない、俺は何にも出来ないうちに死ぬのか?


 嫌だ! そんなの、絶対に嫌だ!


 しかし、俺の心の声も虚しく、バレと呼ばれていた大男に攻撃を受けた。


 「こいつで死ねや!」


 大男の持ったシミターで、俺の身体の右斜め上から左下まで一閃し、切り傷を作る。


 「うぐわぁ!?」


 俺の身体から大量の血が噴き出て、その場に倒れ伏す。


 痛え!? 物凄く痛え! このままじゃ死ぬ。


 俺の傷は深く、もう助からない事は自分で解った。


 ただ、悔しい。悔しいのだ。何も出来ない自分が。


 情けなくて、不甲斐なくて、どうしようもなく無力だ。


 そう思った瞬間、俺の意識は暗転し、視界がぼやけてかすみ、やがて力尽きた。


 だが次の瞬間、俺の頭の記憶ははっきりと鮮明に、日本に居た頃の男、中川一馬なかがわかずまだった記憶が、俺の中で覚醒していた。


 俺の名はジョー、前世は一馬と言う日本人。


 しかもこの世界は、一馬がプレイしていたゲーム、「ラングサーガ」と同じゲーム異世界だという事を理解した。


 そう思った次の瞬間、俺は意識を手放し、力尽きた。


 


 




 


 


 


 






 


 




 

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