呪滅のチェンソー
セクシー・サキュバス
1
――世界の西に空前絶後の大国があった。
数々の国家を蹂躙(じゅうりん)し、数々の人民を支配し、ついには世界の頂点(いただき)でさえ手中におさめてしまう。
しかし、たった今――大国は終焉をむかえようとしていた。
◇
会議室にながれる重苦しい空気が、ワシの腹を刺激する。
とてつもないほどのストレスだ。
しかし、参謀総長はそんなことも意にかいさずに戦況を説明してくる。
「総統閣下。敵軍は防衛ラインを突破し、首都を蹂躙しております。官邸(ここ)への攻撃がはじまるのも時間の問題でしょう……」
「お、おい、軍はどうした? 首都をまもれるぐらいはいたはずだろう?」
ワシの言葉に、将軍たちはざわめきだす。
そして、参謀総長が顔を青くしながらワシにいってきた。
「軍の兵力はいちじるしく不足しており、首都の防衛も不可能です……」
頭のなかが真っ白になった。
――まさに、悪夢だ。
気がついたときには、自分の眼鏡を参謀総長になげつけていた。
「このアンポンタンどもッ! キサマらを信用したワシの判断力がたらんかったッ!」
突如、青かった参謀総長の顔が赤く変色する。
「もとは閣下がはじめた戦争です。軍はまきこまれただけで……」
「もういいッ! キサマらなんて大嫌いだバーカッ!」
そんな捨て台詞をのこして、その場をあとにした。
ワシがさった会議室から、絶望をうったえる声や嘆息がきこえてくるのだった。
◇
ガチャ。
ノブをまわす音とともに、扉がひらかれた。
自室にはいって、一歩二歩すすんだところで足をとめる。
「おい、おまえ?」
ソファのうえで妻がよこたわっていたのだ。
このこめかみからはドバドバと赤い液体があふれている。
「おい、おまえ、返事をしろ。おまえッ!?」
返事がない。ただ死体のようだ。
体をさすってみると手からなにかをおとした。
ひろって見てみると、それは拳銃だった。
きっとこれで自分を撃ったのだろう。
「……どうしてこうなった」
ワシは生涯この国につくしてきたはずだ。
壊滅寸前の経済だって回復させたし、領土だってひろげた。
ついにはこの国を空前絶後の大国にまで成長させた。
今回の戦争だってこの国をさらに繁栄させるため。
それなのに、こんなの……こんなの……。
あぁ、もう――「畜生めぇぇぇ!」
銃を自分のこめかみにつける。
そして、そっと瞼(まぶた)をとじた。
――バンッ!
◇
混沌とした意識のなか、視界には不思議な光景がひろがっていた。
真っ白な空間に本が一冊うかんでいる。
本の表紙には東洋の言葉と、デフォルメされた人物の絵がかかれている。
どうやら、漫画みたいだ。
漫画のページがペラペラとひらかれる。
『呪いがある世界で、チェンソー片手に悪とたたかうヒーローの物語』
そこにかかれてある内容は、はなはだ奇妙だった。
けれども、とてもおもしろかった。
もし死後があるのなら、天国や地獄にはいきたくない。
そのかわり、漫画のような楽しい世界にいきたい。
そう思った。
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