転生モブが最強に成り上がるまで~序盤で死ぬ鬱ゲーの悪役キャラに転生した俺は、生き残るためにストーリーそっちのけで鍛えまくる~

AteRa

第1話「ステータス鑑定の罠」

 微睡みから意識が浮上していく。

 心地良い感覚から、徐々に不快感を覚えていく。


 なんだこれは……。

 何かが身体から出ていきそうな……。


 ――。

 ――――。


 ふぅ、スッキリした。

 しかしこの歳にも催してしまうとは。

 後で布団干さないとな。


 パチリと目を開く。


 ……あれ。

 視界がぼやけている。

 そういえば五感すべてがボンヤリしているような。


 すぐに良くなると思ったが、なかなか良くならない。

 なんだ、どうなってるんだ?

 もしかして失明か……?

 しかし何故?

 枕元に置いておいたスマホに眼球を強打したか?

 いや、それだったら、五感すべてってのもおかしいか。

 しかも痛みもない。

 自然とそうなっているのだと、感覚的に分かる。


「――――・・・・――――・・・・」


 真上から声が聞こえた。

 ボヤボヤしていてうまく聞き取れない。

 それに、一人暮らしだから誰かいるはずがないが……。

 思わずゾッとする。

 しかもなんとなく日本語ではないように感じる。

 もしかして何か薬でも飲まされて海外に売り飛ばされるのか?

 だが、何故俺なのか。

 状況も理由も分からず、俺はひたすらに恐怖するのだった。



   +++++



 半年が経った。

 ようやく五感が成長し、視界も聴覚もハッキリした。

 おかげで今の状況が分かった。


 どうやら俺は転生したらしい。

 今いるのは中世風の家屋の一室。

 室内に多少の装飾がなされていることから、うちがそこそこ裕福だというのが分かる。

 しかしまあ……俺が転生とは。

 ゲームやらアニメやらが好きなオタクだった。

 だから転生したと知って俺は正直なところ舞い上がっている。


 最強目指しちゃう?

 それともハーレムとか?

 いっそのこと、両方いっちゃうか?


 心の中であれこれと妄想しては、一人ニマニマしていた。

 うちの両親はそこそこの美形らしいし。

 これで魔術とか剣術の才能があればモテモテパラダイスな人生になるのでは?

 やっぱり可愛いヒロインは必須だよな。

 あー、今すぐ最強の力を発揮してヒロインたちにチヤホヤされてぇー。


 転生してから三年間。

 俺はずっと浮かれ気分で妄想を繰り返すだけなのであった。



   +++++



「ステータス鑑定ですか?」

「そうだ。アベルももう三歳だからな。お前のステータスを鑑定しなければならない」


 三歳になったとき、父からそう言われた。

 ステータス鑑定。

 少し嫌な予感がする。


 これって不遇フラグなのでは……?

 俺のチヤホヤ生活は?

 俺のハーレムウハウハ生活は?


 さらに嫌な予感は他にも感じるところがあった。


 それは俺の名前だ。

 アベル・ルーチェスタ。

 これは鬱ゲーと名高い【ワールド・オブ・ウィッチクラフト】に出てくる悪役のモブの名前だ。

 最初に主人公にダル絡みしたと思ったら、すぐに*#$に殺されてしまう最弱キャラだった。


 ……って、あれ?

 重要なところが思い出せない?


 なんとか思い出そうとすると、酷い頭痛に苛まれる。

 もしかして本当にこの世界は鬱ゲーの世界なのか……?


 そんなふうに不安に思いながらも、俺は父に連れられて教会にやってきた。

 どうやら三歳になったら神々から【ステータス】を授かるらしい。

 その儀式を今日この教会で行うみたいだ。


 ちなみにこの街は迷宮都市エレクトニカというらしい。

 天高く聳える天空迷宮を中心に栄える街だそうだ。


 ……って、ん?

 ステータスを授かるだって?


 喉の奥に小骨が突っかかったような、微かな違和感を覚える。

 これは良くない違和感だ。

 しかしその違和感は微かなものだったので、ひとまず放置することにした。


 それから順調にステータスを授かる儀式が行われていく。

 禊ぎから始まり、感謝と祈りの言葉を唱え、黙って黙祷を捧げる。


「最後に、この水晶に手を触れてください。さすれば貴方にも祝福が訪れ、ステータスが現れるでしょう」


 ……。

 …………。


 なんだか嫌な予感がする。

 ピリピリとひりつく感じだ。

 何か忘れているような……。

 重要なことだった気がするが。


 頭の奥にあった違和感が、徐々に肥大化していく。

 苦しくなるほど、不安と違和感が心を蝕んでいく。


「はあ……はあ……」


 気がつけば冷や汗が溢れだしていた。

 なんだこれは。

 どういうことなんだ。


「大丈夫ですか? どうかしました?」


 俺の体調不良に気がついた神父が声をかけてくる。

 しかし答えている余裕はない。


 なんだ?

 この違和感はなんだ?



 ――――。

 ――――――。



「………………はっ」



 分かった。

 その部分だけ思い出した。


 このステータス鑑定は

 このステータス鑑定は


 動悸は収まった。

 違和感も消え失せた。


 それ以外のことは思い出せなかったが、それで十分だったらしい。


「大丈夫ですか?」

「……ええ。問題ありません」


 心配しているように見える神父の言葉に俺は頷き返す。

 そして水晶に触れる


「……これにてステータス鑑定の儀式は終わりです。最後にどんな感じか確認しましょう」


 神父はそう言って俺に一冊の書物を手渡してきた。


「それはステータスの書です。そこに魔力を流せば自分のステータスが更新されます。一人一つしか持てないので、なくさないように」

「ありがとうございます。分かりました」


 俺は形式上のお礼を告げ、父とともに家に戻った。


「後で私にだけでもステータスは教えてくれよ?」

「分かりました、父上」


 父に言われて俺は頷く。

 まあ俺はステータスを授かっていない。

 おそらくこの場合の俺のステータスは――。



+++++++++++++++

Name:アベル・ルーチェスタ

Age:3


LV:1

EXP:0/0


HP:1

MP:1


ATK:1

MAG:1


SP:0


スキル:なし

ユニークスキル:なし


称号:神に愛されない者

+++++++++++++++



 全ステータスは1。

 経験値も入らず、スキルも手に入れられない。

 そんな状況になっていた。


 しかし……本当にこの世界が最恐の鬱ゲー【ワールド・オブ・ウィッチクラフト】だったとは。

 このシステムがあるってことは間違いないはずだ。


 ってことは、ハーレムだとかチヤホヤだとか言っている場合じゃない。

 普通に死ぬ。

 それに俺は序盤で死ぬ最弱の悪役モブ、アベルになってしまったのだ。

 本気で鍛えないと間違いなく死ぬ運命が待っているだろう。


 ハーレムなんて知らん。

 チヤホヤなんてされている暇はない。


 俺はなんとしてでも生き延びなければ。

 理由はよく分からないが、俺は当然のようにそう思っていた。


 しかしそれだったら、ステータスを手に入れなかったのは良い判断だったな。

 俺の前世での知識が正しければ、このステータスという概念は成長を目的としているのではなく、を目的としているものだからな。

 何故そうなっているのかまでは思い出せないが、いずれにせよ、俺はステータスに頼らない方法で最強を目指していくことになるだった。

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