裏銀河のレティシア
大星雲進次郎
Chapter1
第1話 レティシアと星都サントル
星都サントルの冬は暖かい。
少なくとも私が住んでいた「葡萄畑」はもう少し涼しかった。とはいえ袖無し一枚で過ごせるわけはなく、最低でも厚めの長袖プラス一枚。
「もう2年か、早いものだね年月の経つのは」
「どうしたのレティシア。ホームシックか?」
「ヘイヘイ、ママのオッパイが恋しいのかい?」
「どんなノリよ。そんなんじゃなくて」
彼女らはいわゆる友達だ。
マリーは口は悪いが、いつも私のちょっとした心の揺らぎに一番に気付いてくれる。優しくはないのだが。
ソフィアは口は悪いが基本優しい子だ。たまにノリが鬱陶しい。イヤ、ママのオッパイって何世紀前の煽りだよ。
そしてもう一人はアイちゃん。二人と違って毒をはいたりはしないけど、言うときはなかなかの辛口だ。
「……こんな真冬に表でアイス食べるって、サントルは暖かいのね。故郷と比較しちゃった」
「葡萄畑だっけ?レティシアちゃん」
今日は四人で真冬の酒屋の前に置かれた長いすに座ってジェラートを食べている。
この店は米酒を造る醸造所だ。造った酒と、酒に合う食べ物を売っている。中でも酒の絞りかすを混ぜ込んだジェラートは絶品だ。
口に含むと、広がるミルクの香りと砂糖の甘さ。仄かながら主張を崩さないニホン酒の独特の甘み。溶けながら鼻に抜ける、果物にも似たさわやかな香りの何とも贅沢な体験。このスイーツを産み出したオヤジは天才だ!
ちなみに私以外の三人はアルコールを除去したバージョン。これから学校があるそうだ。
学校と言っても、星系政府が運営する自由大学だ。
気に入った講義を聞きに行って、必要なら実験や討論、フィールドワークなどなどを行う。それは講師次第だ。
そして我々はちゃんと成人しているので、飲酒は誰はばかることなく、朝からでもオーケーだ!
それだけだと私が学校にも行かず昼からお酒を飲んでいるダメな人になっちゃうな。私もたまには講義聴きに行くんだよ?他に仕事もあるしね。
「葡萄畑か。ちっちゃい頃行ったことあるよ。丘の上一面葡萄畑で海が見えるんだよね」
「私は夏に行った。涼しかったのを覚えてるな」
「やっぱり冬は寒いの?」
皆が結構知ってくれていて、嬉しい。まあ、街から近いし、ピクニックとか避暑には丁度いい場所なんだけど。
「風が強いの。……皆の小さい頃と会ってたかもね」
「そういや、めっちゃ美人の女の子がいたな」
「それ、ピンポイントで私じゃん」
そう、私は自他ともに認めるめっちゃ美人さんなのだ。
「少し年上の感じで、髪色ももっと薄かったよ。レティシアは美人でもカワイイ系だしね」
ソフィが私の薄い金の髪をそっと撫でる。もっと撫でて良いよ。
「それは、……親戚のお姉ちゃんだ。名前出てこないけど。私大好きだったの。また会いに行かなきゃ」
どうしてか、最近皆に会いに行けてないな。
「レティシアちゃん?どうして泣いているの」
「あれ?」
「ホントにママの……?」
「ソフィア、茶化すとこじゃない」
しばらく訳も分からず涙か止まらなかったけど、皆は文句も言わずつき合ってくれた。
「ゴメンね、時間とらせちゃった」
「いや、今から向かうと丁度いい」
「レティシア、アイス溶けちゃったね」
「ん、大丈夫。飲むから」
私はカップに溜まった溶けたジェラートを一気に飲み干す。
「っ!冷た!」
当たり前だ。溶けててもほぼ氷。
「あいかわらず良い飲みっぷりね~」
「レティシアちゃんの唇も寒そうな色してる~」
空気を変えるためとはいえちょっと無理しすぎた。
今夜は暖まるお鍋にしよう。海鮮たっぷりで!
「よし、今夜はレティシアの家で鍋にしようよ」
「君たちは、私の心を読むのが上手いな!」
そして友人達は、学校へ向かう。イケメン講師を目的に。
私は、夜の買い出しも兼ねて今日もこの街をブラブラするのだ。
伯父さんに勧められて、何も分からないままこの街に来たけれど。運良く巡り会えた友達のおかげで、『徘徊美女グルメ』として楽しく暮らしている。
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