第1話 自殺の絶えない世界へ

 自殺なんて馬鹿のすることだ。少なくとも俺はそう思っている。だが、そんな馬鹿な事をする奴らが沢山いる世界に、俺は今から転生するらしい。

 何を言っているんだ。そう思ったかもしれない。だがまあ、所謂異世界転生ってやつをすることになった。ただ、俺の知ってる異世界転生とは少し違う。なんか、最初は普通に異世界転生する流れだったんだが、神っぽいやつが俺の顔を見て、『なんかような』『そういうことか』とか呟いた後、異世界転生をゲームっぽくすることになった。

 

 まず、俺が今から転生する世界は『自殺の絶えない世界』らしい。はじめ、どんな世界か聞いた時は『地獄』とか冗談で言っていたけど、人によっては本当に地獄らしい。そんな世界に行くなんて勘弁だと思ったが、『君にとっては天国かもしれないから大丈夫だと思うよ』と言われた。なんでも、天国にも地獄にもなる場所だとか。とても楽しみである。

 

 異世界転生と言えばチート能力だが、俺に与えられたのは、『言語能力』『ガイド』『ゲーム内通貨』の3つのみだった。『言語能力』はいいとして、『ガイド』というのは、この異世界転生で行うゲームに対しての案内役みたいなものだ。チート能力とはちょっと違うが、これから行く世界や国の常識なども教えてくれるらしい。『ゲーム内通貨』は、転生後に『ガイド』が教えてくれるとのこと。

 

 肝心のゲーム内容だが、最初のメインミッションは『転生先で関わる誰かが将来的に自殺をするのを防ぐこと』だと言われた。



…………………………



 見慣れない天井だ。ああ、そういや転生したんだったか。


『おはよう』


 ん?誰だ?目の前に美女がいる。てか近っ。と思ったら俺の体をすり抜けたあとに横に立った。なんだ?幽霊か?幽霊が普通に存在する世界なのか?ここは。


『はじめまして。ガイド役のロベリアよ』


「ガイド役?え?ガイド役ってこんなしっかりした人間だったのか?」


 驚きながら声に出すと、ロベリアと名乗った美女がそこら辺にいる童貞を卒倒させそうな笑みを魅せながら答えてくれた。


『しっかりした人間て何よ』

『あ、因みに私の事はあなたにしか見えていないから、そのまま普通に話すと周りからは独り言を言っているように聞こえるから気をつけてね』


 まじか。ここには俺しかいないから良かったものの、危うく変なやつになる所だった。


「俺も念話みたいに話す事は出来ないのか?」


 小さな声で聞いてみると


『なんとなく念話で伝えるイメージで話しかけてみて』


 念話で伝えるイメージか。取り敢えずやってみよう。


『ロベリア。聞こえるか?』


『聞こえたわ。すぐ出来るなんて凄いじゃない。それじゃあ、念話も出来たことだし次のステップに進むわね』


『次のステップ?』


『ええ。人が来る前に説明しないといけないことがあるのよ』

『あ、その前にあなたの事はなんて呼んだらいいかしら?』


 そういえばまだ名乗っていなかったか。


『周りからはイシュと呼ばれていた。ロベリアもそう呼んでくれ』


『イシュね。これからよろしく』


『ああ。こちらこそよろしく』


 自己紹介を終えたらロベリアからの説明が始まった。


『じゃあ、まずはゲーム内通貨について話すわ。イシュはゲームをやったことはあるわよね?』


『ああ、あるよ』


『それじゃあなんとなくイメージできてると思うけど、ミッションをこなしたりする事でポイントが手に入る。そのポイントで何か能力やアイテム等を買えたりするって感じ。それで初期ボーナスとしてまずは5,000ポイントが贈られている筈』

『ゲームのホーム画面を思い浮かべて』


 ゲームのホーム画面か。おっ。本当にゲームみたいだな。頭の中にゲームのホーム画面が広がっている。新感覚だ。おお。これをこうやって… なるほど。これが今買える商品か。


 

 ☆ショップ  手持ち5,000ポイント


・嘘を見抜く能力 1,000ポイント

・見てる人間を転かす能力 500ポイント

・ミッション達成率の確認 100ポイント

・ミッションのヒント 100ポイント

・任意の相手に対して、思っていることを全て口に出させる能力(一回きり、10分)

 300ポイント



 取り敢えず、嘘を見抜く能力は欲しいな。誰が自殺するのかを見極めるのに使える。早速購入っと。


『どう?操作できたかしら?』


 夢中になっていると、横から話しかけられた。


『ああ。早速能力を購入したよ』


『どんな能力を買ったの?』


『嘘を見抜く能力。これってロベリアにも使えるのか?』


『さあ、どうでしょうね』

『ショップの内容は急に変更したりするから欲しいものは買える内に買っておいた方がいいけれど、ポイントは他でも使い所はあるから慎重にね』

『時間がないから次の説明に入るわね』

『イシュが今使っている肉体の本名は待雪マツユキ ユウ。高校2年生よ。イシュのいた世界に学校という概念はなかったかもしれないけれど、あなたの読んでいた異世界転生漫画の学園だと思えば理解できるかしら?』


 なるほど。学園生活を楽しめるというわけか。だが、そうなると好戦的な能力が欲しくなるな。最悪、見てる人間を転かす能力を手に入れるか。


『異世界転生漫画の学園とはルールが全然違うから、イシュが今想像しているであろう事は出来ない可能性が高いけどね』


 そうなのか。それは残念だ。絡んできたやつを返り討ちにしてみたかったんだけどな。


『そういった常識とかは後で教えるわ』


 常識か。まあ、郷に入っては郷に従えっていうしな。周りから変に思われない程度には覚えないといけないか。

 それより、転生する前から気になっていた事があったので聞いてみることにした。


『本来のこの体の持ち主はどうなったんだ?』


『まあ、それは気になるわよね。本来の待雪君だけど、先日意識不明の状態だったから、今だけイシュに体を貸している事になるわね』


『勝手に借りてるのか!?』


『一応許可は取っているらしいわ。けど意外ね。そんな事を気にするような人には見えなかったけれど』


『異世界転生漫画に憧れた自己的な主人公気取りの人間に見えたか?』


『少なくとも、学校でトラブルを起こしそうな主人公気取りの思春期の子供だと思っていたわ』


 おっと。かなり痛いやつだと思われていたらしい。確かに、学校とやらで異世界転生漫画のテンプレをやりたいとは思っていたが、自らトラブルを起こそうとは思わないし、できるだけ人に迷惑はかけたくないとも思っている。といっても、敵意を向けてくる相手には徹底的にやるつもりだ。そういう考えが子供だと思われるのかもしれないが、敵意を向けても許されるような前例を作るから、そういった人間が悪意を振り撒くようになってしまうのではないかとも思う。

 とはいえ、


『随分と正直に物を言うんだな』


『正直な女は嫌い?』


『いや、割と好きだな』

『それより急いでいるんじゃなかったか?』


 と、その時、ドアが3回ノックされる。


「失礼します」


 誰かが部屋に入ってきた。と同時にとても驚いた顔で何かを呟いた後、『先生を呼んできます』と言って急いで部屋から出ていった。


『何だったんだ?』


『意識不明状態から回復していたから驚いたのでしょうね』

『これから色々聞かれると思うけど、記憶を失ったという設定で受け答えして』


『分かった』



…………………………



『すげえ疲れた』


『お疲れ様』


 なんか手続きとか色々あって本当に疲れたが、無事退院することができた。今は父親の車に乗って家に向かっている途中である。


「ったく、そのままずっと植物状態になっときゃよかったのによ」


「え?」

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