変わらない町 Bpart
それから蒸気機関車がグリーンヒルズ駅に到着したのは夕暮れのことだった。
分厚い雨雲が太陽を遮り、辺りは暗い雰囲気だった。
「ここも変わりましたね」
蒸気機関車を降り立ったブリキは少し驚いていた。
以前と比べ、とても綺麗でした。
村と認識してた場所は町レベルで発展していた。
町にはレンガ造りの建物が、メイン通りを挟むように立ち並んでいた。
しかし、人通りは少なく、活気はなかった。
車両から出ると、荷物の受け入れをしている乗務員と作業員がいた。
その際、別の車両から降りてくるルェルの家族も見えた。
向こうはこちらに気づいていないようだ。
ブリキも声をかけることなく、町の宿屋に向かった。
トランクの底面には移動用のコマが付いており、持ち手を引っ張って運んだ。
その光景は棺を運んでるみたいだった。
宿屋の前に着くと、ブリキはまた「変わった」と言葉を漏らした。
二階建ての立派なものだった。
以前、この場所は
宿屋に入ると男性の店主がカウンターに肘をついていた。
店主は大柄で、その体は脂肪で覆われていると思ったが、よく見ると筋肉質であった。
カウンターには額縁に入った古い写真があった。
そこにはおそらく店主と奥さん、そして娘が映っていた。
ブリキは店主の男に代金を払った。
店主に二階を勧められたが、荷物が重いと断った。
それでも店主が二階まで運びましょうかと、持とうとして腰を痛めた。
結局、一階の部屋で休むことになり、部屋に入った。
被っていたテンガロンハットをテーブルの上に置いた。
トランクをベッドの側に止めて、トレンチコートを脱いだ。
ネクタイを緩め、シャツの第一ボタンをはずした。
首元にシルバーのボールチェーンが見える。
窓の外を一通り見てから、カギを閉め、離れる。
ベッドとカーペットの下、四方の壁を見て回り、置かれていた家具も入念にチェックする。
ベッドをドア側の壁に寄せて、重いトランクをベッドのあった場所に置いた。
ようやく終わって安堵した溜息をついたかと思えば、「さて準備するか」という。
トランクを開けると、下着とシャツが乱雑に詰め込まれていた。
ブリキはそれをポイポイと床に落としていく。
足元が下着でいっぱいに満たされてきた頃、トランクの底から自動小銃が収納されていた。
マジックテープで固定され、それらをはがしていく。
見た目は流行りの独立式ピストルグリップではなく、ウッドストックと一体化した古風なピストルグリップだが、ブリキはこの銃を信頼している。
もしくは愛着かもしれない。
それが表しているように小銃には近代化カスタムが施されている。
黒色のレイルハンドガードが銃身を覆うように
ハンドガードの下には狙撃を安定させる折り畳みのバイポット。
サイドレイルの右側には、レーザーポインターとフラッシュライトが内蔵された装置もある。
今は付けてないが、サイレンサーも装着可能だ。
その他にも、様々な改良が加えられ、グリップも自前の拳銃と同じように使いやすくしてある。
ブリキはトランクの着脱式ポケットからマガジンを取り出した。
マガジンは所々、黒の塗装が剥げている。
マガジンの中は
そうわかってはいるが、ブリキはコッキングレバーを音を立てないぐらい優しく引いて、薬室がカラなのを目視で確認する。
今度は
ひとつのマガジンには最大で二十発装填可能。
それを七個分を用意する。
合計で百四十発の弾丸だ。
弾込め終えて、それからようやくブリキは、
「疲れた!」
と言ってベッドで横になった。
身体を伸ばすと、関節のいたるところがバキボキと音が鳴る。
そして空腹の音も聞こえてきた。
ブリキはむくっと起きると、ポケットに手を突っ込む。
小銭が何枚かとクシャクシャになった紙幣が三枚。
これがブリキの全財産。
一瞬、銃を見て、この町の金を巻き上げようと悪巧みを考えたが、反撃されるのがオチだと諦めた。
「腹を切られても、空腹が止まらない。善は急げだ」
ブリキは急いでトランクのマガジンが入っていた着脱式ポケットを三つ外した。
それらを腰のベルトに着けていく。
こうして簡易マグポーチを完成させると、そこにマガジンを入れていく。
ひとつのマグポーチに二つのマガジンを入れていく。
残ったワンマガジンは小銃に装填した。
そして小銃にスリングを付けると、体のちょうど良い位置へ密着させる。
小銃が見えないようにトレンチコートを羽織りなおす。
帽子を被り、やっと準備が整った。
宿を出て、食堂を探した。
外はまだ雨が降っていた。
食堂を探すも見つからない。
空腹で限界を迎えそうになった時、人だかりができている場所が見えた。
そこは市場だった。
ルェルの両親が言っていた場所だろうか。
辺りを見渡しても、雑多な
得体の知れない食べ物を陳列している店。
よくわからない美術品を取り扱う骨董品。
檻の中でしか見られない生物を取引するペットショップ。
包丁からビームサーベルもある刃物店。
全裸の女性が表紙の本もあれば、本物の魔術書も取り扱っている古本屋。
女武器商人が経営する武器屋。
空飛ぶ自動車販売店。
ブリキも見たことのない物ばかりであった。
しかし、噂の金銀財宝を売っている店は見つからなった。
食堂を見つけると、何を食べるかで悩んだ。
肉の餡を生地で包んだ蒸し料理か、アヒルの皮だけ使った料理。
悩みに悩んでブリキはフォーと呼ばれる麵料理を頂いた。
これがまたうまかった。
腹も満たされたブリキは無駄遣いしないように宿に戻ろうとすると、
「やあ、ブリキさん!」
後ろから声をかけられた。
振り返ると、そこには満面な笑みを浮かべたルェルの父親がいた。
「こんばんは、おひとりですか?」
「ええ、妻とルェルは疲れて先に部屋で休んでいます。ブリキさんも市場に来たんですね」
「空腹に導かれるまま、ここまで来てしまいました」
「そうだったんですね。それでしたら、汽車の中で言ってました噂の場所を行きませんか?」
興奮気味にブリキに勧めてきた。
「そこそこ見て回りましたが、そのような店は見つかりませんでした」
「僕は見つけましたよ。証拠にホラ!」
ルェルの父親は持っていたバッグの中身を見せてきた。
そこには沢山のダイヤを始めとした宝石や金銀が詰め込まれていました。
ブリキは一瞬悩みました。
この男を撃ち殺して、宝石を奪ってしまおうかと悪事を考えた。
だが、腹が膨れて走れないし、なにより睡魔が襲ってきたので、殺すのをやめた。
命拾いしたことすら気づかないルェルの父親の誘いを断り、私は独りで宿に帰った。
シャワーを済ませ、着ていた服を洗濯し、壁際に寄せてたベッドを扉の前に移動する。
もう限界と、ブリキはベッドに飛び込んだ。
小銃はすぐに取り出せる位置に用意して、拳銃は枕元に隠した。
首元にはシルバーのボールチェーンで繋がれたドッグタグそのまま身に着けている。
部屋の明りを消して、
「そう言えば、友人を探すの忘れていた・・・・・・」
と独り言をつぶやき、眠りについた。
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